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【シネマモード】“ウェストマーク”が美のポイント、映画×クラシカル・ファッション

ここ数年、ファッションの世界にはクラシカルな波が押し寄せています。毎年、様々なクラシカルスタイルが復活。それらはもちろん昔のまま登場しているのではなく、モダンなテイストを取り入れつつファッションの新たな可能性を切り開いています。

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『マリリン 7日間の恋』 -(C) 2011 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
『マリリン 7日間の恋』 -(C) 2011 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved. 全 14 枚
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ここ数年、ファッションの世界にはクラシカルな波が押し寄せています。毎年、様々なクラシカルスタイルが復活。それらはもちろん昔のまま登場しているのではなく、モダンなテイストを取り入れつつファッションの新たな可能性を切り開いています。

そんな流れを無視できないのが映画界。この春公開されるいくつかの作品にも、クラシカルな風きこんでいます。例えば、1950年代に活躍したハリウッドの大スターを描いた『マリリン 7日間の恋』、60年代のミシシッピ州を舞台にしている『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』などは、女性がメインキャラクターであるだけに、華やかなクラシカル・ファッションを楽しむことができます。今回のコラムでは、この2作にプラスして、今年3月19日(月)から映画・ドラマ専門BS局IMAGICA BSで日本初放送される米ドラマ「PAN AM/パンナム」(毎週月曜23:00〜放映)の話題を交えて、50〜60年代のファッションについてご紹介していきます。

何と言っても、この時代のスタイルは、女性らしさを最もおしとやかに強調できるところが魅力。現代のように露出の多い服はあまりなく、席巻していたのは上品なワンピースやスーツ。ところが、実はこれがかなりセクシーです。露出しすぎていないのに、チラリズムが満開。さらには、ボディラインにぴったりと沿った服ばかりで、体の線を大胆に強調。創造力を大いに掻き立てるスタイルの代表なのです。

『マリリン 7日間の恋』では、当時の、いえ、永遠のセックス・シンボルであるマリリン(ミシェル・ウィリアムズ)が、バスト、ウエスト、ヒップをぴったりと包んだ数々のドレスで登場します。ローレンス・オリヴィエとの共演のため、ロンドンに降り立った場面ではラベンダー色のそれはそれはタイトなワンピースを着ていました。まさにこれがマリリンの基本スタイル。襟ぐり、フィット感、スカート丈まですべて計算しつくされ、黄金比ともいえる見事なバランスで女性の美を強調しています。シンプルですが、彼女自身が持つゴージャスさを際立たせるのには十分の素材であるタイトなワンピース。ここに、トレンチコート、サングラス、ハイヒールをプラスすれば、洗練された女優スタイルの完成。これほどシンプルなスタイルで、人をはっとさせるためには、ボディメイクは欠かせません。もちろんマリリンは、高い美の資質を持った“選ばれた女性”ですから、一般人とは話が違うはず。プロの手によるケアは当たりまえで、人々が求める完璧な美にはハリウッド・スターなりの秘訣があったことでしょう。とはいえ、50年代、60年代には一般の女性もボディメイクにかなりの労力を注ぐ必要があったことが、『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』で垣間見えてきます。

登場するのは、60年代当時も、前時代的な人種差別が公然と続けられていたミシシッピ州ジャクソン。古い因習が支配するこの街は、アメリカ南部のうちでも極度に保守的な地域でした。そんな街では当然ながら、女性たちの考えもかなり保守的。家にいても、近所へのちょっとしたおでかけでも、一糸乱れぬ服装&ヘアメイクで、ばっちりと決めています。当時の女性たちは、女としてのたしなみとしてそうあるべきだと信じて疑わなかったのです。彼女たちのファッションのポイントは“ウエストマーク”。常にウエストをきゅっと絞っています。下着で体を締め付けることは、まるで因習によりがんじがらめになっている彼女たちの精神そのもの。そこには、「別の生き方もあるかも?」といった疑問すら湧く余地はないのです。

そんな中で、常に異色のスタイルを披露しているのが、ヒロインのひとり、スキーター(エマ・ストーン)。ジャーナリスト志望で、黒人メイドたちの現実を伝える本を書きたいと願う彼女だけは、バービー人形のような服を“着せられる”ことに疑問を持っている様子がファッションからも伺えます。ファッションにさほど関心を示していない彼女が選ぶのは、ふんわりとしたフレアスカートよりはタイトスカート。花柄の華やかなワンピースよりは、無地のそっけないワンピース。髪もまとめず、ナチュラルなカールを生かした無造作ヘア。おしゃれに明け暮れるよりも、もっと大事なことがあると考えている彼女らしいファッションで、もうひとつの60年代ファッションを表現しています。

当時、女性なら当たり前だったウエストマークについては、「PAN AM/パンナム」の中に面白いエピソードが登場しています。クリスティーナ・リッチ演じるヒロインは反抗的な乗務員なのですが、その性格を象徴するのがガードル騒動。当時の乗務員には着用規則まであったというガードルを、彼女が拒否したというエピソードが登場するのです。乗務員に対し、管理者は「ガードルは女性のたしなみです」ときっぱり。実際に、当時のパンナムでは着用が義務付けられていたと、本作のエグゼクティブ・プロデューサーで元パンナムの乗務員だったガニス女史は証言しています。

きっと、現代以上に客室乗務員は全世界の男女の憧れの的。完璧な容姿、乱れのない身だしなみ、絶えることのない笑顔などで、知性、上品さ、美を表現し、理想的な女性像を体現しなくてはならない存在だったのでしょう。そんな彼女たちが、独特のパンナム・ブルーの制服を脱いだ後、私服に着替えたところも注目です。登場する女性キャラクターたちの性格や背景が反映された60年代ファッションは、やはり主婦たちのスタイルのように画一的ではありません。世界をまたにかけ、時代の最先端を行くスチュワーデス(当時はそう呼んでいました)は、自由で自立した女性の代表格。そんな女性たちが見せる、バラエティに富んだクラシカルファッションを、ぜひ本作で堪能してみてください。

手をかけ、暇をかけ、見えない部分にも気を配らなければ決して完成しないクラシカルファッションは、究極のおしゃれスタイルと呼べるでしょう。ゆるみのないラインで構成されたトップスやボトムスを着こなすには、緊張感が必須。一度はあんなファッションで決めてみたいと思ったとしても、今は肩の力をぬいたゆるいカジュアルが主流。Aラインのチュニック×レギンスに慣れてしまった現代女性には、ハードルはかなり高し。でも、どんなおしゃれでも選べる自由を手にした私たちだからこそ、やっぱり一度は袖を通してみたいクラシックなアイテム。こういったファッショナブルな映像作品に触れながら、今一度、女であることを大いに謳歌できるクラシカルファッションに触発されてみてはいかがでしょうか。



「PAN AM/パンナム」
IMAGICA BS にて日本独占初放送
※3月3日(土)先行放送、3月19日(月)〜毎週月曜23:00〜ほか

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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