【美的アジア】『泣く男』イ・ジョンボム監督、チャン・ドンゴンの号泣秘話を告白

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『泣く男』-(C) 2014 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved
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ウォンビン主演映画『アジョシ』で、新たなアクションノワールを確立したイ・ジョンボム監督が、チャン・ドンゴンを主演に迎え4年ぶりに撮った最新作『泣く男』

幼い頃、母親にアメリカの砂漠に捨てられ、殺し屋に育てられた男・ゴンが、任務中に誤って少女を殺してしまい、さらに少女の母親の暗殺まで命じられたことで壮絶な死闘を繰り広げる物語。『アジョシ』同様、壮大なスケールで描かれたガンアクションやナイフでの格闘シーンは本作でも健在。

「美的アジア」担当としては、数々の韓国映画を見続け、そのリアルなファイトシーンや生々しい流血シーンにもいくらか耐性がついてしまったものだが、世の女性達の中には「暴力シーンや血がリアル過ぎで怖い」「ウォンビン、チャン・ドンゴンだったら恋愛モノが見たいのに、どうして男はみんなアクションが好きなの!?」という意見もチラホラ。そんな食わず嫌い女子の思いもふまえ、監督とのインタビューに臨んでみると、「アクションに潜んだ男の本音」が見えてきました。


――『アジョシ』のときはウォンビンさんがシナリオを見て「演じたい」と言い、キャスティングが決まったとおっしゃっていましたが、今回の『泣く男』ではどのような経緯でチャン・ドンゴンさんに決まったのですか?

もともとは中国からやってきた殺し屋という設定だったので外国の俳優を考えていました。具体的に話も進んでいたのですが結局うまくまとまらず、「韓国の俳優にしよう」と思ったときにまっさきに思い浮かんだのが彼だったんです。シナリオがまだ完成していない段階で「こんな話があるんですよ」と伝えたんですが、彼は快く「やります」と言ってくれました。

学生時代、すでにスターだったドンゴンさんが校内でバスケットをしている姿を見て「この人といつか仕事をしてみたいな」と思ってましたから、縁ですね(笑)。

(注:チャン・ドンゴンと監督は同い年で同じ韓国芸術総合学校に通っていた)


――なぜ“一番”にチャン・ドンゴンさんが思い浮かんだのですか?

今回のゴンという役は「家庭を持ち、子どもがいる俳優に演じてほしい」と思っていたんです。「子どもを失った親の悲しみを知っている人」に演じてもらいたいという思いが強かったから。実際にドンゴンさんは優しい方で、子ども好きでした。撮影が長引くと子どもに会いたがっていましたね。そんな方だったからこそ、ゴンという役を理解できるのは彼だと思ったんです。

実は私自身も、子どもが生まれて最初に書いたシナリオが『アジョシ』で、それを強化したのが『泣く男』だったんです。私も父親としての感情を知っているつもりなので、知らず知らずのうちに私の作品には子どもが出てきているのかなと思っています(笑)。

ドンゴンさんとは、ゴンはどんなトラウマ、心の傷を持っているのかについて、かなりたくさんの話をしましたし「母親に捨てられた記憶とはどういうものか」を一緒に悩んで考えました。実際に養子縁組に出された人達が書いたエッセイや小説を渡して一緒に見ながらキャラクター作りに役立てていきました。


――結婚していませんが、女性視聴者としては、キム・ミニさん演じた「母親」側の視点で物語を追う楽しみ方もありました。

(笑)。キム・ミニさんもまだ結婚されていませんし、子どももいないので演じる上での難しさを感じていたようです。確かに本人はすごく大変そうでした(笑)。私にしょっちゅう色んなことを聞いてくるんです。「子どもとはどんな風に遊ぶんですか?」「子どもの前でダンスをするときはどう踊るんですか? どんな歌を歌ってあげるんですか?」って。でも彼女は演じながらだんだんと自信をつけていったようです。

結婚もしてないし、子どももいないけど「子どもを失ったこと」を想像し、理解しようとする力が彼女の中で芽生えた。「この役は必ずしも結婚していなくてもできるんだ」と感じていったようです。それは女性の誰もが持っている「母性」なのかもしれませんね。


――「母性」と言えば、『アジョシ』では少女との心の交流が描かれていました。今回の『泣く男』でも誤って殺してしまったのは「女の子」、暗殺ターゲットは「女性」、ゴンの心のトラウマの原因は「母親」です。これは、監督にとっての「母親」や「女性」の存在、影響が反映されているのでしょうか?

私は女性に対してすごく不器用なのであまり優しくしてあげられないんですね。なので、映画を通して女性に「謝りたい」という気持ちがあるんです(笑)。

男って、強いふりをしてる人がすごく多いんですよ。力が強い人も実際いますが心は成長していない子どもだと思うんですよね。心を覗くと弱い所や脆い所があったりする。私は若い頃運動をしてたんですけど、そういう男性がすごく多かったです。そのために女性をめぐって傷つくこともありましたし。

男性からするとやっぱり「謝りたい対象」「許しを求めたい対象」って女性であることが多いような気がするんですよね。そんなふうに女性に許しを求めたり、詫びるということを通して男性はカタルシスを感じて成長していくものだと思うんです。そういう男性に対して私は「憐み」の気持ちも持っていますし、物語にそういう男を描くのが好きなんですよ。

タルコフスキーも母親に救いを求めている作品をよく撮っていましたが、それと似ている所があるかもしれませんね。


――男優達が監督の描くアクションに惹かれるのも、監督のそういった思いが込められているからなのかもしれませんね。女性の中には血まみれのドンゴンさんやウォンビンさんではなく、恋愛作品を観たいという意見も多いですが…。

ドンゴンさんもウォンビンさんも、本人はいままでの作品によるイメージを変えたいという思いは強かったようです。男である以上、男優である以上、粗削りの役をやりたい、アクションを演じてみたい、というのはあるようなんですね。

『アジョシ』のときはウォンビンさんも「欲がある」と言っていましたし、ドンゴンさんも強く「やりたい」と言っていた。本人が自ら望んで演じたわけなので素敵なアクションを見ることもできたと思いますし、テーマ的には弱い部分を持った男性というキャラクターだったので、そういう点もうまく演じてもらえたと思います。


――こんなことを言っては怒られてしまうかもしれませんが、「アクション」の捉え方は男女で全然違うように思うんです。女性の中には「描写が残酷すぎて見れない」という方がいる一方で「闘う理由が分かるから見れる」という方もいます。

シナリオが完成したら一番最初に読んでもらうのが私の場合、妻なんですけど、今回のシナリオを見せたら、「ドラマの部分はすごくよく分かったけど、アクションの部分は全然分からない!」と言ってシナリオを放り投げてしまったんです(笑)。

確かにおっしゃる通り、「男が理解できるアクション」と「女性が理解できるアクション」は違うような気がしますよね。差別化された何かがあるのかなと思いますけども。でも今回の『泣く男』では、とにかくドンゴンさんに“(キム・ミニ演じた)モギョンを助ける”ということを一番に考えて演じてほしい」とお願いしました。モギョンは危機的な状況にあるのだから「早く助けにいかなくてはならない」、そのためには「かっこいいアクションは必要ない。とにかく助けたいという感情をアクションにのせてほしい」と思ったんです。

かっこいいアクションを見せたいだけなのであれば、泥臭いアクションの部分なんて見せなくていいんです。「見て」かっこいいアクションをたっぷりと流せばいい。でも私が望んでいたのはそれではないんです。私はどんなアクションでもベースになるのは「感情」だと思っています。感情を大事に作ることでアクションも生きてくると思っているんです。これからもアクションを撮る時はそういう撮り方でいくと思います。


――キャラクターの「感情」を理解できれば、理解しようとすれば、壮絶なアクションにも理由が生まれて女性も真正面から「アクション」を感じ取ることができますね。

「感情」を繊細に表現するためには、体をしっかり作っておく必要がありました。アクションの段取りを覚えていないと演じるときに「次はどういう動作だっけ」と考えてしまい、感情をうまく出せなくなるので。

私がウォンビンさんにも今回のチャン・ドンゴンさんにもお願いしたのは「アクションは身に着けてくれ。機械的に、黙っていても体が勝手に動くようにしてほしい。その代わり表情は必ず感情を考えて演じてほしい。あなたの派手なアクションは撮るつもりはない。あなたの感情しか撮らないから」と言ったんです。俳優たちはすごく大変だったと思います(笑)。


――そんな「感情」が爆発するするシーンが、タイトルにもあるラストの「泣く」シーンですね。

ゴンが母親に捨てられたのは砂漠です。砂漠は一滴の水もない所。韓国で母親との記憶に残っている場所は銭湯で、銭湯は本来水のある場所ですが、数年たって訪ねてみると、店は閉店し、水のない変わり果てた姿になっていた。それを見せて、私はドンゴンさんに「この銭湯は君の心と一緒だ。かなり荒廃している。それがゴンの気持ちなんだ」と伝えました。

「人を殺さなければいけない殺し屋の悲しみはあるんだけども、ゴンは生まれ持って悲しみを背負ってしまっている人間だ」そう伝えて何度も何度もテイクを重ねました。8回位撮った記憶があります。4、5テイクのときに泣きすぎて目がはれてしまい時間をおいて撮り直しました。4、5時間位かかったと思います。本編では最後にOKを出したカットを使っているのですが、そのときのドンゴンさんは心から泣いているというのが見え、私もつられてもらい泣きをしてしまい、ドンゴンさんと2人でティッシュを渡しあいながら一緒に泣いた記憶があります(笑)。そんなことも思い浮かべながら観ていただけたら嬉しいですね。


『アジョシ』での取材以来、3年ぶりにも関わらず、スタッフや筆者のことを覚えてくれており、終始和やかなひとときとなった今回のインタビュー。「“ワールドカップ監督”って言われてたんですよ」と『泣く男』までの年月を自嘲を交え、笑いながら話す監督は「次はそんな名前をつけられないように早く撮りたいと思います。自分がシナリオを書かなければもっと早く撮れると思うんですけどね(笑)」と次なる高みを見据えている様子。

「やっぱりオリジナル作品にこだわるんですか?」と訊ねると「いままでは自分が書くことにこだわってた部分があったんですけど、これからはオープンに、開かれた状態にしておこうとも思っています。オリジナルに限らず漫画でも小説でも原作物で撮るってこともありえます」と語ってくれた。

『泣く男』は10月18日(土)より新宿バルト9、丸の内TOEIほか全国にて公開。

《text:Tomomi Kimura》

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