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仕事、家族、愛…人生を考えさせてくれるイタリア映画のススメ

いまさらですが、世はフランスブームなのでしょうか? 書店に行くと昨年の大ベストセラー「フランス人は10着しか服を持たない」とその続編が平積みになっており、最近、リニューアルの方向性が…

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『これが私の人生設計』-(C)2014 italian international film s.r.l
『これが私の人生設計』-(C)2014 italian international film s.r.l 全 12 枚
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いまさらですが、世はフランスブームなのでしょうか? 書店に行くと昨年の大ベストセラー「フランス人は10着しか服を持たない」とその続編が平積みになっており、最近、リニューアルの方向性が物議を醸した某雑誌も新生第1号の特集は「フランス女性の生活の知恵」でした。

待機児童問題に関しても、海外の例として、福祉先進国の北欧諸国と一緒にフランスの実情を紹介するニュースや記事も目立ちました。やはり、日本人にとって、フランスは永遠の憧れの地なのでしょうか? そんなフランス礼賛にケチをつける気は毛頭ありませんが、憧れの国を見つめる視線をやや右下(地図で見て南東)に下げて、ぜひ見つめていただきたいのがイタリアです!

イタリアもフランスと並んで日本で人気の国ですが、その人気の対象は生き方や国民性ではなく、あくまで食べ物や文化(サッカー、ブランド、遺跡etc.…)といった部分であり、人気の旅行先というポジションであるということは否めません。国民性に関しては「陽気ですぐに女の子に声をかけてくる」「約束や時間にルーズ」といったイメージが強く(というか単にイメージではなく事実である側面も多々ありますが…)、日本人とはかけ離れているという印象が強いかもしれません。ですが、あえて言わせてもらいます(大声ではなく声のトーンを落として周囲の目を気にしつつ…)。「実は日本とイタリア似た者同士!」と。即、返ってきそうな「どこが!?」という疑問、ツッコミに答え、あろうことか人生の歩み方への示唆まで与えてくれる興味深いイタリア映画がこの春、立て続けに日本で公開されていますので順に紹介いたします!

■主人公を取り巻く環境に共感

まず1本目は、先日より公開中の『これが私の人生設計』。ヒロインのセレーナは決して“ピチピチ”とは言えない年齢の建築家で、世界各国で活躍し、新たなステップとして故郷のイタリアに戻ってきます。でもイタリアの経済状況は最悪。おまけに建築業界はいまだ男社会で、コンペに出品しても、女性という理由でロクに評価すらしてもらえず…。セレーナは名を偽り、自分は男性建築家のアシスタントという体裁でコンペに臨み、ローマの公営住宅のリフォーム事業のデザインを勝ち取ります。セレーナはゲイの友人に身代わりを頼み、プロジェクトを進めていくが…。

先進国の中でもイタリアは伝統的なカトリックの影響もあって保守的で、男尊女卑の風潮が色濃く残っています。さらに晩婚&少子化の傾向も日本と同様! 故郷の母親や大叔母と話すたびに「いつになったらいい人が?」と聞かれて、セレーナはうんざり。日本の女性の観客の中にも、大なり小なりセレーナらが受けるような理不尽な差別や偏見、ハラスメントにさらされた経験があるという人もいるのでは…? 

ちなみに、オープンで思ったことを遠慮なく口に出し、自己主張の強いイメージの強いイタリア人ですが、実は(日本人と同様に!)相手をガッカリさせまいと空気を読む気遣い屋さんが多いのも事実! 映画ではセレーナや性的マイノリティのフランチェスコ然り、いろいろな事情を抱え、言いたいことを呑み込んで生きる人々が登場しますが、その姿に「あぁ、分かる、分かる!」と思わず頷いてしまう人も多いはず。セレーナが視察に訪れる公営住宅にたむろしている若者たちに名前を尋ねると「エルトン」「ジェニファー」など伝統的なイタリア人の名前ではなく英語名ばかり。登場人物の一人が「ここはニューヨークかよ」とボソッと漏らすが、これってイタリア版“キラキラネーム”問題…? 

原題の「Scusate Se Esisto!」は直訳すると「私が存在してすみません」。そこにいないもののように扱われる女性の「ちょっと、ここに私がいますけど!」という怒りを皮肉交じりに表しています。イタリアと日本の思わぬ共通点に新鮮な驚きを感じつつ、セレーナの奮闘に溜飲を下げていただければ!

■誰もが経験する“親との別れ”

続いて2本目に紹介するのはイタリアを代表する名監督ナンニ・モレッティが、自身の母を失った経験を基に描いた家族の物語『母よ、』。日本でも絶賛された『息子の部屋』では、突然、息子が事故死してしまい、その喪失に対峙する家族の姿を描いたモレッティですが、本作は多くの人が、やがては向き合わなくてはいけない親との別れを切り取ります。

親の死を見送ることを“人生経験”などと言うのは不謹慎ですが、親が亡くなってから初めて知ること、気づかされることのなんと多いことか! 40代で3大国際映画祭を制覇した名匠が主人公の女性映画監督に自らを重ね合わせながら、いつも目の前にいてくれた母親が消えてしまうかもしれない恐怖や己の無力感、そんな状況でも消えることなく当たり前に目の前にある仕事や日常、逆に自分が親という立場になっての娘との関係の難しさ、もどかしさなどが丁寧に綴られます。

主人公だけでなく、脇の登場人物たちも魅力的! 母の介護のため、実は仕事を辞めていた兄(モレッティ監督自身が演じています!)、トラブルメーカーだが憎めず、何も事情を知らないままに時折、誰より優しく主人公に寄り添うアメリカ人スター俳優、そして、元教師の凛とした厳しさと深い愛情を併せ持った母親。全ての人物が問題や悩みを抱えつつ、それぞれの日常を生きている――そう気づかされるだけで、ほんの少しだけかもしれませんが、心がフッと軽くなります。

■それぞれが辿り着く、“人生の真理”

そして最後に紹介するのは『グランドフィナーレ』。こちらは、『グレート・ビューティ/追憶のローマ』がアカデミー賞外国語作品賞に輝いた、イタリアの40代の監督パオロ・ソレンティーノがメガホンを握っていますが、伊・仏・スイス・英合作です。主な舞台となっているのは、スイスにある、セレブや老後を過ごす金持ちが集う高級リゾートホテルです。

老境に差し掛かった引退を表明している世界的指揮者の主人公を演じるのは『ダークナイト』シリーズの“名執事”アルフレッドでおなじみのマイケル・ケイン。その友人であり、彼と毎日のように尿の出の悪さを嘆き合い、不健康自慢をする仲である老映画監督をハーヴェイ・カイテルが演じています。

前の2作よりも、さらに人生の時計の針を進めて、主人公が老境に達し、己の死に向き合う年齢になっていますが、その歳になってもなお、生きることの意味を問い、人生を懸けて愛情を捧げてきたものの存在に悶え、葛藤します。一方で、考えさせられるのは、「年を重ねること=人間としての成熟」とは限らないんだなぁ…ということ。いや、だからこそ年を取るのも面白いのかも…? ここでも少女からミスユニバース、主人公の娘で夫に捨てられた女性、その夫の不倫相手だが、明らかに正妻よりもサエない女など、多彩な人物が登場し、それぞれの人生の“真理”を口にします。人生最後のステージに立つことを決意した主人公は、どんな“グランドフィナーレ”をそのタクトで表現するのか?

3本とも、年齢や性別、立場によって感想や共感を感じる人物などが異なるのは当然ですが、たとえ登場人物たちと境遇や立場が全く異なっていたとしても、必ず人生について(と言うと大げさですが)ポジティブな何かを考えさせてくれることは請け合い!

フランス人とはまた一味違う人生の教訓(?)をイタリア人から受け取ってみては?

《シネマカフェ編集部》

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