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【MOVIEブログ】2016東京国際映画祭 Day4

28日、金曜日。9時、携帯のアラーム曲をプリンスにしていたことをすっかり忘れ、「マイ・ネーム・イズ・プリンス」でけたたましく起こされる。ああ、これは目覚めがいい。外へ出ると、今日はどんより曇り空。雨になる?

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28日、金曜日。9時、携帯のアラーム曲をプリンスにしていたことをすっかり忘れ、「マイ・ネーム・イズ・プリンス」でけたたましく起こされる。ああ、これは目覚めがいい。外へ出ると、今日はどんより曇り空。雨になる?

席で予定を細かく確認してから、EXシアターへ。本日は、11時からのコンペの日本映画『雪女』の上映前舞台挨拶司会でスタート。杉野希妃監督、青木崇高さん、佐野史郎さん、山口まゆさん、宮崎美子さん、山本剛史さんのみなさんがご登壇。杉野さんの妖艶なお姿、青木さんのワイルドな雰囲気、そして佐野史郎さんのオーラ、山口さんのかわいらしさ、憧れの宮崎美子さんの落ち着き、個人的に演技が大好きな山本剛士さん、僕にとって豪華絢爛なメンバーで、興奮する。

興奮したからか、時間をオーバーしてまで、予定に無い質問を佐野史郎さんに投げてしまった(そして見事に受けとめて下さった)。でもせっかくの豪華メンバーなので、冒頭15分で終わらせるのがあまりにもったいなくて…。

上映開始となり、いったん事務局にもどってお弁当。鳥のから揚げ弁当! 鉄板ですな。先延ばしにしていたパソコン作業を少しこなして、簡単な打ち合わせを1件しているうちに時間が来たので、慌ててEXシアターに戻る。外に出ると、雨だ! そして寒い! むむー。しかしこの連日の気温の上下はなかなか大変だ。僕たちはいいけど、来日ゲストが体調を崩さないかと心配…。

『雪女』のQ&Aは、杉野監督と青木さんのお二人とのトーク。この作品は本当に聞きたいことが多くて大変。杉野さんは、初上映に際してコメントをまとめることにとても苦心していて、作品に対する思いの深さが伝わって胸が熱くなる。雪女とはどういう存在か、女優と演出をいかに兼ねるか、多様な解釈が可能な作品に対するアプローチ、いずれももっと掘り下げたい話題ばかりで、興味が尽きない。

青木崇高さんには、果たして演ずる「みのきち」は妻の正体を知っていたかどうか? を質問してみる。舞台となる世界が、自然や異界と地続きの場所なので、わかっていたとしてもそれは自然のことであったと解釈しているとのお答えで(と僕は解釈している)、なるほど。そう、ファンタジーと現実の境界にある土地という設定が、本作の魅力の出発点で、新解釈のキーとなる…。

しかし時間が無く、聞きたいことの10分の1も聞けない。その上、またまた時間をオーバーしてしまった…。ごめんなさい。次回のトークに続きはとっておくことにして、残念ながら終演。

事務局に戻って座ると、この映画祭始まって初の猛烈な睡魔に襲われ、抵抗を諦めることにして、席でそのまま仮眠。15分くらい寝たのかな、次の予定の担当者から起こされて目を覚ますと、元気100倍。仮眠効果はバツグン。

顔をこすりながら会議室に移動して、14時半から、日本の新聞社からの取材。コンペティションの選定の考え方や、方針、今年の傾向と、今後目指す方向性について質問を受ける。会期中にこういう質問をしてもらえると、リアルタイムで危機感や満足点が浮かんでくるので、とても有意義。でも、目先の1年を乗り切ることで精一杯なので、来年の話をされると目まいがするのも確か。とにかく、走ってばかりの時間の中で、考えを落ち着かせるよい時間でありました。

続いてシネマズに移動して、『ブルーム・オヴ・イエスタディ』のQ&A司会へ。昨夜の1回目のQ&Aでは、内容は重要だったものの、あまりにも雰囲気が固くなってしまったので、本日は少し柔らかい方向に誘導しようとしてみたら(そんな技術は僕にはないけど)、会場の程よいサイズと、満席の温度とがあいまって、ちょうどよいバランスのとれた良い雰囲気になった!

クリス・クラウス監督もリラックスして映画の背景を話してくれる。素晴らしいキャストについても触れ、シリアスとユーモアのバランス、そして痛みを伝えることについて。悪(ナチズム)はどこかから湧いて出たわけではなく、自分たちと地続きの人間であることを自覚することについて、そして加害者がほとんど亡くなっていることから生まれてくる、歴史への新しいアプローチについて。

戦争加害者と被害者の孫たちが、楽しく語り合っている様子を見たことが本作製作のきっかけのひとつであったと語った監督に、「日本では同様のものを作りにくい。どうしてドイツは出来るのでしょう。ヒントはありませんか?」という、おそらく勇気がいったであろう質問に対して監督は、「ヒントや答えはないです。映画は答えでなく、問いであるからです」。

ドイツ映画にとって最大のタブーのひとつは、感じの悪いユダヤ人を描くことであるという監督の指摘には驚いた。ナチスとホロコーストを数多く描いてきたドイツ映画における、ねじれたダークサイド。考えれば考えるほど、この映画は斬新で深いところに踏み込んだ、新しい戦争映画であるかもしれないという気になってくる。

ああ、素晴らしいQ&Aになった。退場後、クリス監督とプロデューサーのカトリンさんが、トークの充実をとても喜んでいた。なんといってもワールド・プレミア、一人でも多くの意見が聞きたい中、国際的に通用する内容であることに手ごたえが得られたと言っていて、僕もとても嬉しい。

いったん事務局に戻り、17時半に、少し早く嬉しいお弁当。トムヤムクン・ピラフが驚きのおいしさで、感激。これは元気が出る!

続いて、18時半から、またまた『ブルーム・オブ・イエスタディ』で、今回は記者会見の司会。今回も興味深い話が続く。日本では戦時の日本を悪く描く作品が作られにくい傾向があるが、ドイツでは完全にオープンなのか、という質問に対し、「自国の都合の悪い歴史から目を背けたがるのは、どの国のどの文化でも当たり前のことで、ドイツでも当然存在します。我々のフタの仕方は日本のそれとは異なっていて、従来のドイツ映画はナチスを語るけれども、現在の自分たちとは関係のない、空から落ちてきたかのような存在として描いている。『ブルーム・オブ・イエスタディ』はその断絶を埋める試みだと思っています」。

深く物思いに沈みながら、EXシアターへ移動。コンペのイラン映画『誕生のゆくえ』の2度目のQ&A司会へ。客席にヴェールを被った多くの女性の姿が見える。彼女たちはどう思っただろうか? 残念ながらイラン人と思われる方からの質問はなかったけれども、客席から多くの興味深いコメントが出て、これまた刺激的な場になった。

女性の地位や、中絶の是非についての議論になり、とてもじゃないけど30分のQ&Aで扱いきれるトピックではないのだけれど、会場が固くなり過ぎず、自由な空気が流れていたのが嬉しい。ポーランドの女性から、自国で最近起きた中絶を巡るスキャンダルの報告があり、監督は自分なりのコメントで返答。東京の映画祭で、イラン人監督とポーランド人観客の対話。テーマがテーマだけに、これぞ国際映画祭! と喜んでいる場合ではないのだけど、あの場にいた全てのお客さんが、貴重な時間を過ごしたと思っているのではないだろうか?

僕は、この映画が描いている中絶という題材が、イラン映画界においていかにリスキーなテーマなのか(あるいはそうでないのか)が知りたかったのだけど、壇上では答えが得られなかった。それは質問を勘違いしたのかもしれないし、わざとはぐらかしたのかもしれない。答えられないと分かっていることについては、もちろん質問しないのだけど、どこまでが答えられないかが分からないので、手探りでの会話になってしまう。でも、実はこの作品の持つ真の重要性はそこにあるのではないか、という気にもなってきた。

舞台袖で、女優さんとプロデューサーさんと話の続きになった。僕が『誕生のゆくえ』でもうひとつ気になったのが、検閲問題が堂々と語られること。イランに検閲制度があるのは周知であるけれども、その事実に正面から触れたイラン映画はあまり見たことがない。大丈夫なのだろうか? これも壇上では聞くことがためらわれた。舞台袖でも、ストレートな答えは得られなかった。しかし、おそらく間違いないのは、モーセン・アブトルワハブ監督が、危険を厭わない豪胆の監督であるということと、イランで大いなる尊敬を集めているということ。もう、注目し続けるしかない。

最終的には、「まあ日本みたいに何でも言えるって国じゃないから大変なんだよ」とプロデューサーが言ったので、「いや、日本にももはや表現の自由はありませんよ」と答えたら、なんと、即座にイラン人が全員爆笑した。本当に、示し合わせたように爆笑したので、僕はとてもびっくりしてしまった。言葉を続けようとしても、みな笑うばかりで誰も聞いてくれない。あまりにも比較にならな過ぎるという意味の爆笑としか思えず、これはちょっとショッキングだ。僕は実に貴重な異文化体験をEXシアターの舞台袖でしてしまったことになる。なんともはや。

ルイス・クー祭りや、ダイ・ビューティフル・フィーバーで盛り上がった過去2日とがらりと変わり、今日はものすごい思索の日になったなあ、と刺激にクラクラしながら、海外マスコミの人たちとのパーティーへ。僕はもっとドイツ映画やイラン映画のタブーについて引きこもって考えていたかったのだけど、もちろんそういうわけにもいかず、パーティー脳に切り替えて(切り替わらないよ)、なんとか社交。

1時間ほど滞留して、すこし気分が落ち着いて、21時30分から、日本映画スプラッシュの『14の夜』のQ&A司会へ。とても楽しみにしていた足立紳監督とのトーク。『百円の恋』の成功(足立さん脚本)が人生に与えた影響から、少年たちへの接し方、脚本家として監督がセリフを直すことについて、初監督としての苦労、など楽しい話を聞かせてくれる。

思春期の少年たちの等身大の姿が描かれるので、もちろんエッチな話題が映画のひとつの柱になるのだけど、僕はちょっと自分の中学生の時のエッチな思い出を話そうかと思って、少し語り始めた途端、やっぱりやめた方がいいとストップしたものの、そこで久しぶりに頭が真っ白になってしまった!佐藤プロデューサーが機転を利かせて客席にいたスタッフを紹介するという助け船を出してくれて、事なきを得たのだけど、ああ、久しぶりに焦った。やはり気を引き締めないといけない!

『14の夜』は、エッチな話題ももちろん楽しいのだけど、本作の魅力は、学校内のヒエラルキーを自覚することによって、少年が自分のアイデンティティーにも目覚めていく過程がとてもリアルに、そして爽やかに描かれていることで、それは主演の犬飼直紀君の魅力に負うところがとても大きい。どこからこんな子を見つけてきたのだ!と喝采を叫びたくなる素晴らしい演技。のびのびと成長してくれますように!

事務局に戻り、夜2個目のお弁当を食べ、23時から『シェッド・スキン・パパ』の2度目のQ&A司会。今回は、フランシス・ンとルイス・クー、そして女優陣が帰国しているので、ロイ・シートウ監督とリラックスした雰囲気の中でゆっくりと映画の話が出来たのが嬉しい。劇場を出てから聞いたところによれば、演劇人でもあるロイ・シートウ監督の次の仕事は、また演劇に戻るかもしれないとのこと。そうおっしゃらず、また映画を見せて下さいね、と話して、今日はお別れ。

0時過ぎに事務局戻り、夜3個目の弁当を食べるかどうか迷いつつ、軽いミーティングを2件行って、パソコンを叩き、ブログをパタパタと書いているうちに、本日も3時半を軽く回ってしまった。明日も早い。上がります! 本日も刺激満載な一日だった!

(写真は豪華『雪女』チーム!)

《矢田部吉彦》

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