【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭 Day3

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"Visages Villages" 全 1 枚 拡大写真
<5月19日>

19日、金曜日。6時半起床。3時間睡眠なのにパキっと起きられるのは何故だろう? 人ってやはりメンタルが全てだなあと思いながら朝食を済ませて外に出ると、小雨が降っている。ここ3日で天気がコロコロ変わる。

本日は8時半からコンペでポン・ジュノ監督新作『Okja』からスタート。上映冒頭に本作の出資元のひとつであるネットフリックスのロゴが出ると場内からはブーイングと笑い声が起きる。

カンヌ開幕直前に話題になっていたのがこのネットフリックスを巡る件で、同社が映画祭後に劇場公開を経ることなくネット配信を行う方針を示したことに対し、映画祭側が劇場公開を伴わない作品は来年以降コンペに選ばないと発表した。映画館とその文化を守る姿勢を鮮明にした映画祭に対し、賛否両論の声が上がっていた。

そして審査員会見の場で、審査員長のペドロ・アルモドバル監督は劇場公開を製作者側が拒否する作品にはいかなる賞も与えるべきでないと明言して会場を驚かせたらしい。ネットフリックスとその便利さを否定するものでは全くないが、「わたしが生きている限りは、観客のため、大きなスクリーンでしか得ることのできない“陶酔”のために闘うつもりです。新しい世代がその魅力に気付いていないことを恐れています」(シネマトゥデイの記事より引用)と発言している。

僕もネットフリックスはありがたく利用しているけれども、立場を明らかにしろと言われたらアルモドバル監督に100%賛同する。「陶酔」のために映画を観ているのだから。

さて、そんな話と映画の内容は全く関係なく、ポン・ジュノ新作は文句なく大スクリーンの陶酔を誘う作品だったのが皮肉というかなんというか、これを大スクリーンで見ないでどうしようというのだろう? モンスター映画と聞いていたけれど、ちょっと違う。愛とユーモアの詰まったエコ・ファンタジー・ドラマと呼べばいいかな?

ふんだんに予算が使われているのが一目瞭然で、それこそ大スポンサーがいればこそだし、そしてその大予算のおかげで迫力の画面が作れているのだけど、でもそれが今後大画面で見られないかもしれないなんて、とても不条理な話だ。僕にはうまく理解できない。

続いて11時半から「監督週間」のイタリア映画で『A Ciambra』。ロマの少年が厳しい環境で生き延びようとするドラマで、カルピニャーノ監督の前作『Mediterannia』が秀作だったので期待が高かったのだけれど、今作は少し新鮮味に欠けたか。少年の近くに絶えずカメラが寄り添うリアリズム・スタイルも効果的でないとは言わないけれど、如何せん長過ぎた。

上映が終わって13時半過ぎ。天気は朝と打って変わって快晴。内外のプレスのみなさんを中心にした日本関係の小規模ランチ・パーティーが催されているレストランに駆けつけ、2時間ほど滞在して社交する。貴重な場。

16時にメイン会場に戻ると、入場セキュリティーが緩くなっていて、昨日は水のペットボトルを没収されたのに(約300円を無駄にした)、いまは僕の前の女性が持っていたジュースの瓶がおとがめなしで通過している。「昨日飲み物ダメだったのですけど」と係員に尋ねてみると、「さっきルールが変わったんです」。悪く言えば朝令暮改、良く言えば柔軟性。これもカンヌだ。

見たのは、「アウト・オブ・コンペティション」部門に出品のアニエス・ヴァルダとJRの両監督による『Faces Places(Visages Villages)』(写真)。

写真家でアーティストのJRとヴァルダがフランスの田舎を旅し、行く先々で出会った人々と写真アートのコラボレーションを行っていく。おかしみと哀しみと、喜びと悲しみと、アートと映画。つまり人生の全てが詰まっている、奇跡的な、あまりにも、あまりにも素晴らしい作品。今年のカンヌで最高の1本どころか、本年最高の1本であるかもしれない。

上映後、気が付いたら僕も懸命に拍手をし「ブラボー!」と叫んでいた。場内も割れんばかりの歓声と拍手で、スタンディイング・オベーションが永遠に続く。客席のヴァルダは孫ほど年齢の離れたJRに支えられ、感極まっている。こんな感動的な場面はカンヌといえどもそうそうはない。映画とは、そして陶酔とは、こういうことなんだ。

あまりの幸せな時間に足元をふらつかせながらいったんホテルに戻り、体制を立て直して外へ。

19時からコンペのルーベン・オストルンド監督新作『The Square』。これがまた予想を裏切らないとんでもないシロモノだった。モダンアート美術館の責任者の男性を主人公とした、現代社会に対する皮肉がブラックな笑いに包まれて炸裂する。皮肉というか告発というか、「みんな見てみないふりをしているけど要はこういうことでしょう?」と突いてほしくない部分を突いてくる。ルーベン演出はますます洗練度を増しており、もはや作家と呼ぶにふさわしい。2時間20分があっという間に過ぎる。

本日の最後もコンペで、22時半からハンガリーのコーネル・ムンドルッツォ監督新作『Jupiter’s Moon』。いったいこれはどうやって撮影したのだろうという驚きの映像美に溺れる。しかしドラマに少しだけメリハリが不足しており、絶賛一歩手前というところ。しかし見応えがあることには変わりない。

ホテルに戻って1時。夕方買ってあったサラダを食べつつパソコンに向かうも、しばしボケっとしてしまう。ヴァルダとルーベンについてもっとちゃんとブログに書きたいと粘るものの眠気に勝てず断念。今日も3時を回ってしまった…。

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今朝、プサン映画祭のディレクターであるキム・ジソクさんの突然の訃報が伝わってきました。昨日心臓発作でカンヌの地で亡くなられたとのこと。僕は先月イランのファジル映画祭でご一緒したばかりで、到底信じることができません。アジアの映画界の発展に莫大な貢献をされた方で、57歳という年齢でのご逝去を受け入れることは難しいです。長年のお付き合いに心から感謝申し上げるとともに、謹んでご冥福をお祈り致します。

《矢田部吉彦》

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