【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭 Day9

最新ニュース スクープ

"Good Time" 全 1 枚 拡大写真
25日、木曜日。本日は普段より遅めの始動でいいので7時半に起床。とてもたくさん寝た気がして気分爽快! 外に出ると空は薄曇りで、気温は低め。ひなたでも長袖が欲しいくらい。

8時45分から「監督週間」の『I Am Not a Witch』で本日はスタート。アフリカにおける現代の魔女狩りをリアリズムで告発する作品だと思っていたら、予想に反してファンタジー的な寓話だった。そしてこれが滅法良かった!

魔女と見なされた老女たちが見世物として並べさせられ、地域の観光対象になっている。魔女たちは飛んで行かないように紐で繋がれ、その紐の長さに行動範囲は限定されている。そして新たに魔女認定された少女がそこに加わり、当局の活動に利用されていく…。

巧みにユーモアをまぶしたスムーズなストーリーテリングとモダンな映像センスが上手くマッチして、少女の旅にたちまち惹き込まれてしまう。色彩豊かなポップな寓話であり、抑圧される現代女性に対するメタファーは明解にして、メッセージは深い。ああ、これはとてもいい。

刺激を噛みしめながら、続いて「ある視点」部門の作品を見るべくメイン会場に赴くと、セキュリティーチェックで昨夜の差し入れのアルミホイルに包まれたおにぎりを没収されそうになった。「これは米です。ランチです。食べないと死んでしまいます」などと泣き落として、何とかおとがめなしで通過させてもらう。

このおにぎりを没収されたら立ち直れる自信が無かったので、本当によかった…。それにしても、カンヌも9日目、しつこいセキュリティーチェックがこうまで続くと、うんざり感が蓄積されて疲れてくる。しかしマンチェスターで起きた悲劇を思えば、カンヌが標的になったとしてもおかしくないわけで、やむを得ない…(と書くのが何回目になるだろう?)

見たのは『The Desert Bride』というアルゼンチンの作品。ブエノスアイレスで長年住込みの女中として働いてきた中年女性が、遠い地に旅立つ過程で新しい人生の一歩を見出していく物語。これはキャスティングの勝利で、ヒロインには2013年のベルリンで主演女優賞を受賞したパウリーナ・ガルシア。一見気が弱そうで平凡な中年女性を演じさせたら絶品だ。

少しだけ編集に難があり、話が分かりにくくなる箇所があることを除けば、アルゼンチンの広大な平野と山々が美しく、シネスコ画面に大いに映える。庶民目線を大事にした佳作だ。

続けて、14時半からのコンペの追加上映『Rodin』に行ってみると、ギリギリで間に合った。相変わらず朝イチ以外のコンペ公式上映のチケットが全く当たらないので、細かく追加上映を追わないとコンペがカバーできずちょっと今年は辛い。全勝でチケットが当選している人もいるので(僕の勝率は5割以下)、いったいどういう基準で決めているのかな…。

ジャック・ドワイヨン監督新作『Rodin』は、思ったよりも意外にストレートな作品だった。前半はロダンと内縁の妻のローズ、そして弟子のカミーユ・クローデルの有名な三角関係を軸に推移し、後半はロダンの創作面に重点を置く構成。

あえてダイナミズムを抑制したような、全編がストイックなトーンで貫かれていて、欲望と激情は水面下にうごめいている。ロダンとカミーユの修羅場も最小限に抑えられているけれど、ロダンが終生カミーユに抱いていた気持ちはズシッと伝わってくるのがいい。ヴァンサン・ランドンのロダンは完璧ではないか。

続いて16時半からのホン・サンス監督新作『The Day After』(コンペ)のマーケット試写に並ぶ。1時間前に到着したおかげで普通に入場できたのはいいのだけれど、空調の風が直撃する席だったのか、唇が紫になるくらい冷房が寒くて凍死寸前の鑑賞になってしまった。

そんな過酷な環境下でもホン・サンス節を満喫する。自ら不倫ゴシップの渦中にあるというのに、相手の女優を起用して不倫のドラマを作ってしまうホン・サンスほど肝が座っている作家はほかにいるだろうか?

零細出版社の社長が従業員を愛してしまって苦労する物語を、ホン・サンスはいつも通りの軽いマジックを出し入れしながら巧みに語ってくれる。今作の主役は男性で、彼は身から出た錆とはいえ辛い立場に立たされるのだけど、果たしてこれはホン・サンスの懺悔なのか、それとも開き直りなのか、それとも全く関係ないのか…。

現在進行形のプライベートと創作活動の関係を下世話に探りながら作品を楽しめる作家が世界に1人くらいいてもいいではないか。そんな「下世話」がカンヌコンペのレベルで届けられるのだから、やはりホン・サンスは天才と呼ぶにふさわしい。

18時過ぎに終わり、ハムとチーズのバゲットサンドイッチを買って歩きながらかじり、早すぎると分かっているけど19時45分からの上映に向かう。会場に入り、鑑賞メモをノートに書いて(見る本数が多いので書かないとすぐに忘れてしまう)『Rodin』の感想を考えていると目の前の席にヴァンサン・ランドンが座った…。

見たのは待望の一本、「アウト・オブ・コンペ」出品のレイモン・ドゥパルドン監督新作『12 Days』。

フランスでは2013年に施行された法律により、本人の意思に反して精神病院に入院させられた患者に対し、12日以内に弁護士と判事の立ち会いのもとに入院を続けるかを確認する法的手続きが取られることになっている。本作のタイトルはその「12日」から取られていて、数十件を撮影したこの対面手続きの中から12件のケースが紹介されていく。

精神病院と患者に撮影許可が下りることはとても稀だそうで、上映前に挨拶したドゥパルドン監督は交渉に当たったパートナーでプロデューサーのクローディヌ・ヌガレに感謝を捧げる。

弁護士を伴って判事と対面する患者は、視点が定まらなかったり、発言が支離滅裂であったり、あるいは発言がしっかりしてもその内容が早く退院して家で自殺したいというものだったり、深刻なケースばかりだ。彼らの姿が見る者の胸の正面から突き刺さる。傷害事件に絡んだ入院が多いものの、入院に際する法的なプロセスをきちんと経ているかどうかを判断する手続きなので、事件の法的審議はこの場では行われない。そしてそれを理解できない患者が多いため、しばしば議論がかみ合わない。

もちろんドゥパルドンが注ぐ視線に興味本位のかけらもないことは言うまでもなく、個々の人間が直面する現実を冷静に届け、そして、プロの法律家の仕事ぶりを尊敬を込めて紹介する。ヘヴィーな内容だけれども、写真家として長年のキャリアを持つドキュメンタリー作家であるドゥパルドンは、見る者の目を逸らさせない力を画面にもたらすことができる。つまり深刻であっても、映画に落ち着きがある。これはドゥパルドンの真骨頂だろう。

ワイズマンに慣れた感覚で行くと3時間あってもおかしくない内容だけれど、上映時間は90分。より一般的な層に見てもらうことを意識しているのかもしれない。貴重な記録であると同時に、映画としての佇まいも素晴らしい。内容がヘヴィーなだけに語弊のある言い方なのかもしれないけれど、題材が重要でも映画としてはつまらない例がいくらでもあり得るだけに、内容が深刻で且つ映画としても素晴らしいという発言は許されるはずだと僕は考えたい。

続けて、ドゥパルドン作品から受けた心の揺れを抑えながら、22時半の上映に21時半から並ぶ。コンペに選出された待望のサフディ兄弟監督新作『Good Time』(写真)のマーケット試写だ。同時刻にメイン会場で公式上映が行われているのだけど、色々と手を尽くした結果、これも招待状を確保できなかった。東京国際映画祭と縁の深いサフディ監督まで当たらないとは、どれだけ日頃の行いが悪いのだろうかと自分を呪いつつ、まあマーケット試写で見られるからよいではないかと一方で自分に言い聞かせる…。

本作はNYを舞台にしたクライム・ドラマ。精神障害を持つ弟と、彼を愛しつつ道を外すしか生きる術のない兄の運命を描き、冒頭から映画いっぱいに不穏な空気を張り巡らせるサフディ兄弟監督のセンスがさく裂する。兄役がロバート・パティンソン、弟役には監督のひとりであるベニー・サフディ。パティンソンは痩せたのか、シャープなキレ振りを発揮し、そして東京で交流したベニーは日頃の姿からは想像できないほどの別人の存在感だ。

前作『神さまなんかくそくらえ』で見せたヒリヒリしたテンションは強度を増し、今作もホワイト・トラッシュの哀しみをビビッドに描いたサフディ兄弟は確実に進化している。ハーモニー・コリンの後継者だろうか。扱う題材もさることながら、劇伴音楽の絶妙なセンスも共通している気がする。今年のカンヌコンペで異質の存在であることは確かで、これは審査員の判断が俄然楽しみになってきた。

上映終わって0時半。同僚と少し打ち合わせをしてから、パンを軽くかじってブログをこねくり回し、今日は3時コースになってしまいそうだ…。おやすみさない!

《矢田部吉彦》

特集

この記事の写真

/