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【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭 Day11

27日、土曜日。カンヌもあと残すところ2日のみ。元気に6時半に起床して外に出ると、またまた快晴。今日は暑くなりそうだ。

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27日、土曜日。カンヌもあと残すところ2日のみ。元気に6時半に起床して外に出ると、またまた快晴。今日は暑くなりそうだ。

本日は8時半の上映からスタートで、「アウト・オブ・コンペティション」部門で紹介されているロマン・ポランスキー監督新作『Based on a true story』。人気の女性作家と、理解者として彼女に接近する謎めいた女との関係を描くスリラーで、さすが名手ポランスキー、手練れの職人芸で楽しませてくれる。

脚本にはポランスキーとともにオリヴィエ・アサイヤスが共同クレジットされており、なるほどそういう組み合わせがあったか! と膝を叩く。ふたりが意気投合しながら楽しそうに書いている姿が浮かんでくるようだ。古今のスリラー映画に目配せしながら、最近やけに増えている「実話もの」への皮肉も含んでいる。

怪しい闖入者(ちんにゅうしゃ)は、果たして敵なのか、味方なのか…? 一級の娯楽品であり、シネフィル心も刺激する作品だ。得体の知れない女に扮するエヴァ・グリーンが絶品。

ニヤニヤしながら会場を出ると、かねてより映画の好みが共通していると互いに思っている(とはいえ大先輩の)某配給会社の方にお会いしたので、これまでの作品の感想を交換し合う。コンペについては、全体的に平均点は高いけど突出した作品がないとの意見が多いみたいだ。僕もおおむね同様の感触で、確かに今年は賞の予想がとても難しい…。

続いて11時半から「監督週間」のマーケット上映で『Bushwick』というアメリカの作品へ。「監督週間」自体は昨日で終わっているけれど、いくつかアンコール上映が組まれていてありがたい。ジョナサン・ミロットとキャリー・ムルニオン監督コンビによる2本目の長編。前作の異色学園コメディー『ゾンビスクール!』では教師とゾンビ化した小学生との壮絶な闘いが見られたのに対し、今作は突如としてN.Y.に激しい市街戦が勃発してしまう事態を描くもので、コメディー色はなく大真面目なパニック・ドラマだ。

冒頭からいきなり始まる異常事態の描写は真に迫り、かなりのもの。テンションは映画を通じて持続し、ダレる場もない。もっとも、戦闘に巻き込まれるヒロインが各局面をサバイブしていく様は、ゲームでステージをクリアしていく感覚にも似ていて、ネットフリックスのオリジナル映画である本作はなるほど小スクリーンとの相性もいいのかもしれない。いや、それでもリアルな市街戦を描く画面は大スクリーンにも当然映えるはずであり、果たして今作はどういう歩みをたどるのだろうか。

上映が終わり、少し時間が空いたので簡易中華屋さんに行ってランチを10分で食べて、すぐにメイン会場に戻る。

30分ほど並んで見たのは、14時から「ある視点」部門で『Wind River』というアメリカ映画。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作の脚本家として知られるテイラー・シェリダンが監督した作品で、雪のワイオミング州を舞台に、FBI女性捜査官とプロの追跡者がタッグを組み、ネイティブ・アメリカンの女性のレイプ殺人事件を追う物語。

ヴィルヌーヴほどの力技は備えていないものの、きちんと見応えのある100分のドラマにまとまっていて悪くない。ただ、もっとワイルドな自然との闘いがあることを期待していたので、人間ドラマに終始してしまったのが少し残念。勝手な期待を抱いた自分が悪いのだけど。

続いて、16時半からコンペの追加上映でフランソワ・オゾン監督新作『Amant Double』へ。体の不調を訴える女性が治療を受けた精神科医と愛し合うが、やがて芽生えた疑念がさらなる疑念を呼んでいくという心理スリラー。日本公開も確実だろうから詳しくは書かないけれど、上述ポランスキー作と同様、映画が好んで取り上げがちなモチーフがオゾン流に料理されている。

「オゾン流」って何だということなのだけど、作品ごとに題材やスタイルが自在に変わるので、なかなか定義しづらい。基本的にダグラス・サークからファスビンダーの流れを好むメロドラマの作家であって、愛憎まみえる確かなストーリーテリングを持ち味とし、ツイストが効いた展開であってもオープン・エンディングのまま観客を放り出すタイプの監督ではない。それが効果的なこともあれば、それほどでもないこともある。

そして今作。こちらの予想の少し先を行きながら、さすがのオゾン演出でグイグイと引っ張って見せてくれるのだけれど、いささか物語を作り過ぎてしまった感が僕には残った。そして決定的に納得のいかない箇所があり(内容に関わることなので書けない)、僕の評価はいささか辛めだ。実存的な肉体と実体の無い精神との危うい関係を突いて面白いのだけど、心に響くまでには至らず、残念。

ホテルに戻り、少しパソコンを叩いていると知人からメールが届き、今夜の公式上映のチケットが余っているけど興味あるか? とのこと。別会場で行われる追加上映で見る予定は立てていたけれど、最後の公式上映だし、せっかくなので蝶ネクタイ姿に着替えてメイン会場に行くことにする。

ということで、21時45分から今年のカンヌコンペの締めを飾る作品、リン・リムジー監督新作『You Were Never Really Here』(写真)の公式上映がスタート。レッドカーペットの模様が会場内の画面に中継され、主演のホアキン・フェニックスが固い表情を崩さずに歩いている姿が映る。緊張しているのか、ほとんど笑わない。あるいは普段からこういう人なのだろうか。

笑わない姿を見ておいてよかったと、映画が始まって直ちに実感する。ホアキンは壮絶なトラウマを抱えながら生きる殺し屋ジョーに扮し、手にする武器は『オールド・ボーイ』的ハンマーだ。失踪した少女を救う仕事の依頼を受けるが、事態は想定通りに進まない…。

徹底してダークでヘヴィー、そしてヴァイオレントで陰惨な作品だ。しかし演出がシャープで、かつ独特の美的感覚に貫かれているため、五感を刺激されながら引き込まれるしかない。『少年は残酷な弓を射る』から継続する、不快と快感が交差するような、リン・リムジー特有の倒錯した残酷美。ここにも抗いがたい陶酔がある。

今年のコンペには「病める現代」を描く作品が実に多く、本作はそのとどめとなった。ジョーは、我々の代わりに2010年代の闇を一身に背負っている。ちょうど40年前、1970年代の『タクシー・ドライバー』のトラヴィスがそうであったように…。

それにしても、少女売春を扱う作品と同日にポランスキーを組んだのは、映画祭側の強烈な皮肉だろうか。いや、単なる偶然でしかありえないのだけれど、11日間映画に漬かり切った鈍い頭に様々な思いが去来する…。

さて、カンヌのクロージングは明日の28日夕方。このブログがアップされるときには結果は出てしまっているかもしれないけれど、実際に書いているのは27日の深夜なので、せっかくだから受賞を予想してみよう。

パルムドール:『Loveless』(ズヴャギンツェフ)。作品の完成度、監督のキャリア、プレスの高評価、そして僕個人の好みも併せて。

グランプリ:『Thunderstruck』(トッド・ヘインズ)。総じて評価は割れているようだけれど、個人的な好みと希望を優先。

審査員賞:『120 Beats per Minutes』。個人的には推さないけれど、地元フランスの評価が高いので何らかの賞には絡みそう。

監督賞:『Good Time』(サフディ兄弟)、『You Were Never Really Here』(リン・リムジー)。昨年も監督賞がふたりいたことから、今年も。

女優賞:ニコール・キッドマンの線もありうると思いつつ、主役という意味では『A Gentle Creature』の女優さんに行くかもしれない。

男優賞:『The Square』の俳優、『Good Time』のロバート・パティンソン、『光』の永瀬正敏、そして『You Were Never Really Here』のホアキン・フェニックスの戦いか。個人的には『The Killing of the Sacred Deer』の少年にあげたいのだけど、主演ではないので対象にならないらしい。となると、ホアキン。いや、作品が監督賞を取ってしまったら俳優賞とのダブル受賞はないかもしれない。となると『Good Time』パティンソンも外れるので、ここは『The Square』の俳優で…。

脚本賞:『The Square』(ルーベン・オストルンド)

昨年は下馬評と実際の結果とが完全に食い違った年として記憶されるけれど、さて今年はどうだろう!

《矢田部吉彦》

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