【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭 Day12

最新ニュース スクープ

"The Square" 全 1 枚 拡大写真
28日、日曜日。今年のカンヌもついに最終日。もう朝の上映はないので、8時半に起床し、久しぶりに5時間半寝られたので気分爽快だ。少しパソコンいじって外に出ると、最終日の本日も最高の青空。今年は本当に天気に恵まれた!

本日はコンペ作品の再上映がたくさん組まれているので、唯一逃しているミヒャエル・ハネケ監督の『Happy End』を見にいく。最終日の再上映はどの回もとても混むので、早めに会場に行って1時間前から並び、11時15分から上映開始。

大企業のオーナー一家の面々を巡る物語で、物忘れがひどくなっている一家の主の老人(ジャン=ルイ・トランティニャン)、その娘で現在の社長(イザベル・ユペール)、社長の弟(マチュー・カソヴィッツ)、彼の13歳の娘、社長の出来の悪い息子など、それぞれが抱える問題が断片的に語られていく。

序盤はエピソードが切れ切れに紹介されるので誰がどうしたのかが分かりにくいのだけど、やがてパズルの全体像が見えてくると、現代のブルジョワジーの矛盾、そして人生を生きることの難しさという大きな主題が浮かび上がってくる。『愛、アムール』で崇高な領域に入っていたハネケが、かつて見せたような毒を要所にちりばめて、なんだか若返った感じだ。若々しく軽やかである分、3作連続パルムドールは無いかもしれないけれど、現役感満載で嬉しくなる。

ジャン=ルイ・トランティニャンの存在感は相変わらず素晴らしいし、孫娘を演じた少女が末恐ろしい美人で将来が楽しみ。

以上をもって、僕のカンヌ映画祭での鑑賞は終了。ホテルの近くに新しく出来たハンバーガー屋さんに入り、ビーフ・ハンバーガーを頂く。なかなか美味しい。昨日までの喧騒が嘘のように、日曜のカンヌの町はひっそりとしている。心地の良い祭りの後の雰囲気だ(まだ完全には終わってないけど)。

午後はどうしようかなと思っていたら、映画祭のオープニング作品だったデプレシャン監督の『Ismael’s Ghost』が市内の映画館で一般公開されていることに気付き、もう1回見に行くことにする。昨日までマーケット上映が行われていた映画館で、ちゃんとチケットを買い(9.5ユーロ)、場内に入ると観客は5~6人。映画祭ではあんなに人が殺到するのに…。

映画にはなんと英語字幕がついており、映画祭で使用した上映素材をそのまま使っているみたいだ。ちゃんと告知していれば映画祭に残っている映画人たちがもっと来たはずなのに、もったいないなあ。

2度目の『Ismael’s Ghost』は1度目よりも深く心に響いて、来てよかったとつくづく思う。オープニング時の上映は、セレモニー後の遅い時間帯だし、前日到着で時差ボケはあるし、スクリーンは遠いしで、やはりあまり集中できていなかった。あらためて、デプレシャン特有の家族の複雑な愛憎の物語に身を委ねつつ、『キングス・アンド・クイーン』との繋がりを見出したり、今作のキーワードである「遠近法」について考えたり、カンヌの最初と最後をデプレシャンでくくれたことの幸せをかみしめる。

ちなみに、映画祭で上映された『Ismael’s Ghost』は114分で、実はこれより20分長い同じバージョンが存在することをデプレシャンは会見で語っている(今日見た公開版も114分版)。長いバージョンはパリで限定的に上映されるらしく、その後は未定だとのこと。デプレシャンは長いバージョンを「オリジナル版」と呼んでおり、短縮バージョンが「感情に訴える」バージョンであるのに対し、オリジナル版は「知性に訴える」トーンであるらしい。ああ、オリジナルを見る機会が訪れますように。

16時に上映が終わり、おみやげを少し買ってホテルに戻り、ブログを少し書いて、メイン会場で行われるクロージング・セレモニーの中継が見られる別会場に出かける。

受賞の結果は報道されているだろうから割愛するけれど、昨日のブログで書いた予想は当たってはいないものの、挙げた作品が何らかの受賞をしているという観点では、大外れでもないという感じかな? 「予習ブログ」の段階で主演男優賞の予感がすると書いたホアキン・フェニックスが見事に受賞したのは、嬉しいサプライズ。

ズビャギンツェフが審査員賞止まりだったことと、サフディ兄弟が賞にからまなかったことが残念ではあるけれど、(去年に比べたら断然)納得の行く結果ではないかな。

そして、ルーベン・オストルンド『The Square』(写真)、パルムドール! 監督賞は固いだろうと予想していたけれど、まさか最高賞とは。良い意味で予想を外され、ああ、これはとても嬉しい。

「病める現代」を描く作品が多かった今年のコンペ、最高賞『The Square』はそのど真ん中を突き、二等賞のグランプリ『120 Beats per Minute』はまさに病(エイズ)そのもの、ギリシャ神話にのせて現代の病を描いた『The Killing of a Sacred Deer』が脚本賞、今を生きる人びとの病を一身に背負った主人公の『You Were Really Never Here』が脚本賞と男優賞と、ふり返ってみると実に一貫した受賞結果と言えるかもしれない。

興奮の授賞式を終え、同僚と合流してクスクス料理を囲んで打ち上げ。感想合戦が永遠に続く。23時半に切り上げて、ほろ酔いでホテルに帰還。

最後に、受賞結果とは別に、個人的カンヌベスト10を挙げてみる。

1.『Faces Places』(アニエス・ヴァルダ/アウト・オブ・コンペ)
2.『Wonderstruck』(トッド・ヘインズ/コンペ)
3.『Loveless』(アンドレイ・ズビャギンツェフ/コンペ)
4.『You Were Really Never Here』(リン・ラムジー/コンペ)
5.『The Square』(ルーベン・オストルンド/コンペ)
6.『I am not a Witch』(ルンガノ・ニョニ/監督週間)
7.『12 Days』(レイモン・ドゥパルドン/特別上映)
8.『Good Time』(ベン&ジョシュ・サフディー/コンペ)
9. 『The Florida Project』(ショーン・ベイカー/監督週間)
10.『Barbara』(マチュー・アマルリック/ある視点)
特別枠:『Ismael’s Ghost』(アルノー・デプレシャン/アウト・オブ・コンペ)
別格枠:『Jeanette』(ブリューノ・デュモン/監督週間)

いやあ、難しい。このほかに5本は入れたい作品があるけれど、キリがないので終わりにします。

今年も素晴らしいカンヌでした。体調も万全なまま全日程を乗り切ることができ、ブログも何とか更新できたので、大満足です。明日は6時に起きて、日本に向かいます。

お疲れさまでした!

《矢田部吉彦》

この記事の写真

/

特集

友だち追加