【インタビュー】松本潤 ずっと薫っていてほしかった――『ナラタージュ』に息づく葉山の存在

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『ナラタージュ』(C)2017「ナラタージュ」製作委員会
『ナラタージュ』(C)2017「ナラタージュ」製作委員会 全 18 枚 拡大写真
久しくこういう恋愛映画と出会っていなかった──『ナラタージュ』は、原作・島本理生、監督・行定勲、主演・松本潤、ヒロイン・有村架純によって描かれる大人の恋愛、見た後に自分の一番好きな人や大切な人を思い浮かべるラブストーリーだ。

高校教師と生徒として出会った葉山(松本潤)と泉(有村架純)は数年後に再会、一生に一度の恋に落ちる。葉山を演じた松本さんは「彼らのように、果たして自分はあんなに人の心に残る存在になることが今後あるだろうか…」と、男女の恋愛だけでなく「もっと広い括りの愛の物語に感じた」という。映画『ナラタージュ』の世界観を松本潤が語る。

「原作小説も映画も泉目線で語られているので、葉山が何を考えているのかが見えない部分もあります。でも、この作品は泉の回想なので、たとえ葉山の人物像を納得できないシーンであっても、これは泉の目線、泉の記憶のなかにある葉山だからこうなっているのだと考え、バランスを取っていきました」。

『ナラタージュ』(C)2017「ナラタージュ」製作委員会
観る人によっては、葉山のことを自分勝手な男と捉える人もいるだろう。松本さんはどうやって葉山を魅力的に作っていったのだろう。

「切り取られているところだけを見るとそういう男に見えますが、そうじゃない。何か(志が)あって教師になっていると思うし。でも、奥さんとのことがあって、彼は責任感があるがゆえに抱えきれなくて、自分が(選んで歩いていた)道を逸れてしまう。そして、逃げるように富山に行く。僕のなかで葉山は、良い人でもないし悪い人でもない、正当化も否定もせずに葉山を演じていました」。

葉山を演じるうえで大きな鍵となったのは、行定監督の言葉──「目にブラインドを下ろす」ことだった。

「普段の僕が100%だとしたら、40%ぐらいまで抑えてほしい、40%ぐらいになるまで目にブラインドを下ろしてほしいと言うんです。40って何だ? そもそも俺の100って何だ? というところから始まって、単に目を細めるとか、目に力を入れないとかではなく、葉山という人間のテンションや喋り方のトーン、居方…そういうものがいつもの自分の40%にすればいいのかなと思いました」。どうすれば40%になるのか考えること、想像することが役づくりに繋がっていった。撮影前にひとりでロケーション地の富山を訪れたことも、40%に近づく一歩となった。

『ナラタージュ』(C)2017「ナラタージュ」製作委員会
「僕が生活している東京と富山とは明らかに環境が違うので、街の景色や空気感を一度、感じておきたかったんです。撮影準備で先に現地入りしていたスタッフの方たちと合流して、ロケ地を見にいきました。撮影中は富山と東京を行き来することになるので、葉山のスイッチを見つけておきたかったというのもあります。撮影が始まると、有村さんは期間中ずっと富山に滞在だったので、『また東京に帰るんですね』『すみません、ちょっと歌ってきます』そんな会話を毎回していましたね(笑)」。その距離感は、ときどきしか会えない葉山と泉と重なり、役としては「通じすぎないほうがいいと思った」と、現場では敢えて距離を保ち必要以上に「喋らなかった」という。

『ナラタージュ』はどんなラブストーリーなのか、どんなラブストーリーにしたいのかを行定監督と話すなかで出てきた言葉は“湿っぽさ”だった。「昔の香港映画のような、たとえばウォン・カーウァイの世界観のような、湿っぽくて、いつの時代かはっきりさせない感じにしたいということでした。ラブストーリーではあるけれど、明るくて楽しいシーンは全然ないんです。お互いに悩んでいて、しかも言いたいことがうまく言えないシーンが多かったですね…」。印象深い撮影として挙げたのは、雨の車中の会話のシーンだ。

『ナラタージュ』メイキング (C)2017「ナラタージュ」製作委員会
「お酒を飲んだ葉山が、泉に来てもらって車で送ってもらうシーンですが、その車中の会話は、わりと撮影序盤に撮影をしました。そのときに感じたのは、なんかこう…すごく重たい作品だなぁっということ。でも、重たさを感じたことはとてもいいことで、その重たさを指標に葉山を演じていました。それから社会科準備室で2人が話すシーンはクランクインすぐに撮影でしたが、社会科準備室のシーンは一番時間をかけたと思います。行定監督が丁寧に時間をかけてくれたことで、葉山はこういうテンションで喋るんだなとか徐々に彼を感じ取ることができた。その感覚も指標として大事にしました」。また、予告映像にもある浴室のシャワーシーンは意外にも「1回(テイク)でOKでした」と明かす。「シャワーヘッドがこんなふうに動いたらいいよね、水がこんなふうに飛んだらいいよねって、何度もどういう動きをするのかリハーサルをしてやってみたら、1回でOKでした」。

泉のナレーションで物語が進んでいくこともあり、葉山の台詞は決して多くない。台本には「……」も多く、行間を、空気感を、どう表現するのか「アプローチとして面白かった」と松本さん。

『ナラタージュ』(C)2017「ナラタージュ」製作委員会
「セリフがそれほど多くないからこそ、ひとつひとつの言葉が立つ構造なんですよね。それは行定監督の創り出す世界観でもあって、本当に美しい世界で。行定監督は、役者の細かい機微を見てくださる監督です。カメラの前にある情報やキャラクターの感情を画のなかに収めて、美しいものを創り出す。そしてそれが観客に届くことを信じている。完成した映画を観て感じたのは、葉山が泉のどこに惹かれたとかそういうこと以上に、この2人は、お互いに救いの手が欲しくて、たまたま導かれるように出会った。孤独だった者同士がどうにも変われなくて強く惹かれ合ってしまった。そういうことなんだなと思いました」。

『ナラタージュ』は、理解するのではなく何かを感じる恋愛映画であり、「泉のなかでずっと葉山が薫っていてほしかった」という松本さんの言葉とおり、登場していないシーンにも葉山の存在はたしかに息づいている。その薫りに包まれながら、映画を観た人は愛について語りたくなるだろう。

『ナラタージュ』(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

《text:Rie Shintani》

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