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【シネマモード】生き方は違っても、女の友情はゆるぎない――『はじまりの街』

何かのスタートが、いつも喜びと期待だけで満たされているとは限りません。何かから逃れてきた者にとっては、新しい人生の第一歩でありながらも…

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『はじまりの街』
『はじまりの街』 全 5 枚
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何かのスタートが、いつも喜びと期待だけで満たされているとは限りません。何かから逃れてきた者にとっては、新しい人生の第一歩でありながらも、不安でいっぱいに違いないのです。イタリア映画『はじまりの街』のヒロイン・アンナと、その13歳の息子・ヴァレリオもそう。夫のDVから逃れるためローマを離れたアンナは、自分が暴力を受けたところを目撃してしまった息子を連れて、晩秋のトリノへと向かうのです。

トリノで待っているのは、久々に会う親友のカルラ。独身を謳歌しながら、大好きな舞台女優として暮らす陽気な彼女は、温かく2人を自らのアパートに迎え入れます。性格も生き方も正反対のアンナとカルラですが、自分に欠けているものを相手の中に見出し、押し付け合うことなく補い合い、人生におけるかけがえのない存在になっていきます。

自分がことさらつらい目に遭ったとき、こんな親友がいてくれたら。大人になって全く違った道を歩んだときでも、何年も合うことが叶わなくても、絶えることのない素敵な関係性に思わず涙が溢れるのです。

『はじまりの街』
深く心を通わせ、支え合うアンナとカルラですが、ライフスタイルが違うせいか、ファッションの好みも大きく違います。専業主婦として生きてきたアンナはあくまでもコンサバティブ。グレーやベージュを好み、ハッと目を引くようなアイテムは身につけません。それは、DVの被害者だった過去とも関係があるのでしょうか。一方、細々とではありますが女優を生業にしているカルラは、華やかでいわゆるイタリア女性のイメージそのまま。赤などの差し色や柄物、ストールやネックレスといった小物を上手に取り入れ、それでいて全体はIラインですっきりまとめるかっこいいスタイル。2人が歩いていると、明らかに生活様式の違いが見て取れますが、それでも通い合うことができるのは、やはり成熟した大人なのだなと感じました。

日本で街を歩いていると、驚くほどそっくりなファッションをしている若い女性たちを目にします。10代、20代では、友人同士でそれほど生き方に違いもなく、好みも似ていることが多いのでしょう。出会ったり交流したりするのも、学校や習い事の場となれば、似た環境で暮らす者同士だけに、好みがシンクロするのも当然かもしれません。ところが、社会に出ることで生き方に選択肢が増えてくれば、ライフスタイルに多様性が出てくることで、ファッションを始めとする好みにも大きな違いが生まれてくることも。学生時代はあんなに一緒に過ごしたのに、社会に出たら共に過ごす時間が減り、あまり話が合わなくなって、いつしか疎遠になってしまうという話はよく耳にします。寂しいけれど、それは自然の流れでもあるのです。

『はじまりの街』
ただ、さまざまな変化がある中でも、違いを認め合い、変わらぬ友情を育めるのは素晴らしいこと。アンナとカルラのように、明らかに違う道を歩んでいても、生活のスタイルが違っていても、友情は成立すると信じられるのは嬉しいことです。何かあったとき、あの人はきっと味方になってくれると思える人がいるのは幸せ。逆境のときにあっても揺らがないそんな幸せから生まれるはじまりの物語を、ぜひ堪能してください。

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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