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【インタビュー】ウェス・アンダーソン、飛行機嫌いの天才監督が描く“旅”と日本

唯一無二の作品世界を生み出し続ける天才監督ウェス・アンダーソン。「心を奪われた」という日本を舞台にした映画『犬ヶ島』の公開を前に、彼は再び日本にやって来た。

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ウェス・アンダーソン監督/『犬ヶ島』
ウェス・アンダーソン監督/『犬ヶ島』 全 24 枚
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「『ライフ・アクアティック』のプロモーションで、初めて日本に来たんだ。そのとき、日本にすっかり心を奪われてしまってね」。
唯一無二の作品世界を生み出し続ける天才監督ウェス・アンダーソンの口から放たれた、この嬉しい言葉。しかも、「行った」ではなく「来た」と表現していることからも分かるように、彼がいまいるのは日本。「心を奪われた」という日本を舞台にした映画『犬ヶ島』の公開を前に、ウェス・アンダーソンは再び日本にやって来た。ただし、彼の来日はまさに『ライフ・アクアティック』以来、13年ぶりのこと。本当に日本好き? こう確認したいところだが、フライトは快適だった? と聞かなくてはならない。ウェス・アンダーソンの飛行機嫌いは有名で、ゆえに再来日がなかなか実現しなかったからだ。
「何とか大丈夫だったよ。そのせいで、また来るのがこんなにも遅くなってしまった。あのときは日本を離れた後、所用でパリへ行ったんだ。そのパリで限界を迎えてね。もう飛行機には乗りたくなかった。そのまま1年半、パリにアパートを借りて暮らしたよ(笑)」。

ウェス・アンダーソン監督/『犬ヶ島』
日本で限界を迎えてくれていたらよかったのに。そんな願いはさておき、「いつか日本で映画を撮りたい」という思いが、彼の中で膨らんだ事実に目を向けたい。
「長年の友人であるロマン(・コッポラ)と僕の念願だったんだ。彼の妹のソフィア(・コッポラ)は(『ロスト・イン・トランスレーション』で)それを実現させているしね。僕らも彼女に続きたかったし、前回の来日が『犬ヶ島』の始まりになっているのは確かだよ。そもそも『ライフ・アクアティック』はイタリアで撮った作品なのだけど、それも『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のプロモーションでイタリアを訪れたのがきっかけ。実際に訪れた地をインスピレーションに、作品が生まれるのはあることなんだ」。
ちなみに、『犬ヶ島』の原案にクレジットされているロマン・コッポラは、自身が製作総指揮を務めるドラマ「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」で日本を舞台にしたエピソードを監督。日本での撮影も行った。「もちろん、そのエピソードは観たし、企画についてもロマンからよく聞かせてもらっていた。しかも、彼は2か月くらい前にも家族を連れてまた日本へ遊びに来ている。ずるいよね(笑)」。

『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
公私で日本を満喫するロマンとは異なり、ウェスが『犬ヶ島』を日本で撮影することはなかった。というのも、『犬ヶ島』は実写ではなく、ストップモーション・アニメ。頭の中にあるウェス・アンダーソン流の日本が、精巧なパペットと共に描かれていく。
「映画監督を目指した頃の僕はアニメに興味がなかったし、思い描いていたのはクルーと俳優に囲まれて撮影する自分の姿。でも、ストップモーション・アニメの手作り感にはすごく惹かれるものがあった。しかも、アニメを制作する上で何よりも楽しいことが1つある。それは、すべてを一から作らなくてはならないということ。自分で100%選択し、コントロールする行為がすごく楽しいんだ」。

ウェス・アンダーソン監督/『犬ヶ島』
また、「ストップモーション・アニメには2つの演技がある」とも。「1つは、アニメーターがパペットを動かす演技。もう1つは、声優が声を吹き込む演技」だという。
「僕にとって、前者は想像以上にミステリアスなもの。アニメーターの作業はとても繊細で、驚きに満ちている。彼らは登場キャラクターたちの目、鼻、口、耳、足を微妙な角度で動かし、息を吹き込んでいく。それによって、受ける印象も変わるんだ。キャラクターが何を考えているか、どんな気持ちでいるのか。アニメーターは僕にとって、三船敏郎やマーロン・ブランドだよ」。

『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
「もう1つの演技」を担う声優陣には、こちらも三船敏郎やマーロン・ブランド級の役者たちが揃った。“ドッグ病”が蔓延し、横暴な市長が犬たちを“犬ヶ島”に追放する物語で、愛犬を捜しに犬ヶ島を訪れる少年アタリを新星コーユー・ランキン、アタリを助ける犬たちをブライアン・クランストン、エドワード・ノートンらが演じている。
「コーユーやブライアンの配役は、かなり早い段階で決まった。だから、(2人の演じる)アタリとチーフは彼ら自身から影響を受けたキャラクターと言えるかもしれないね。見かけも似ている気がする(笑)。でも、それは珍しいケースだよ。配役が決まるまで、僕自身が代役の声優になって仮の録音を行ったキャラクターもいる。なのに、どのキャラクターも不思議なもので、パペットが喋ったり、動いたりしている映像はもちろん、無言で静止している映像からも声優の魂が感じられる。興味深いことにね」。

『犬ヶ島』 (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
「2つの演技」が生み出した物語はエモーショナルで、やはりウェス・アンダーソンらしさを感じさせるもの。アタリと犬たちが犬ヶ島で旅を繰り広げるように、これまでも彼は“旅”を描いてきた。それは心の旅だったり、実際の旅だったり、謎を巡る旅だったり。少年と少女が逃避行という名の旅を繰り広げる『ムーンライズ・キングダム』もあった。
「アタリと『ムーンライズ・キングダム』のサムは同い年で、サムはボートに乗り、アタリは飛行機に乗って旅立つ。(『ムーンライズ・キングダム』の脚本も共に手掛けている)ロマンと僕も、2人には共通点を感じているよ。僕自身に関して言えば、彼らの年齢のときはすごくシャイだった。おどおどして、やりたいこともできなかったんだ。僕も彼らのような少年だったらよかったのに。大人になった今、僕は彼らに過去の理想を託しているのかもしれないね」。

『犬ヶ島』(C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

《渡邉ひかる》

映画&海外ドラマライター 渡邉ひかる

ビデオ業界誌編集を経て、フリーランスの映画&海外ドラマライターに。映画誌、ファッション誌、テレビ誌などで執筆中。毎日が映画&海外ドラマ漬け。人見知りなのにインタビュー好き。

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