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【MOVIEブログ】2018東京国際映画祭 開幕前夜+作品紹介

第31回東京国際映画祭、明日からスタート! 本当に今年もこの日を迎えるなんて信じられないです。感慨にふけっているヒマも焦っている余裕もなく、ともかく来るものは来てしまうので、腹をくくるのみです。今年もブログを毎日更新できるように頑張ります!

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『カーマイン・ストリート・ギター』(c)MMXVIII Sphinx Productions. All rights reserved.
『カーマイン・ストリート・ギター』(c)MMXVIII Sphinx Productions. All rights reserved. 全 4 枚
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第31回東京国際映画祭、明日からスタート! 本当に今年もこの日を迎えるなんて信じられないです。感慨にふけっているヒマも焦っている余裕もなく、ともかく来るものは来てしまうので、腹をくくるのみです。今年もブログを毎日更新できるように頑張ります!

これを書いているのは24日の水曜日23時。六本木の臨設事務局に越してから数日、同僚たちは完全に本番モードで待ったなしですが、僕はなんだか不思議な気分です。作品選定業務で地下に潜り始めた7月からずーっと本番モードなので、その時はゴールの見えない長距離走をキロ5分のペースで(つまりかなり無理して)走っている辛さなのだけど、その後の時間は走馬灯的に過ぎてゆき、気が付いたら本番だと言われてキツネにつままれたような感じ…。

ここ1~2週は、プレイベントに出席したり、広報部がブッキングしてくれる取材に応えて作品をアピールしたり、今年から始めてみた映画祭事務局発の配信番組で作品解説したり、映画祭で招待する監督たちの過去作を観たり、彼らに長文メールを書いたり、会期中のスケジュールを調整したり、オープニングのカーペット・イベントの調整事を手伝ったりで、ともかくやることが次から次へと押し寄せるのは例年通り。

そんな中、作品紹介ブログがあまり書けなかったのが心残りなのですが、どうしても時間が足りなかった! ワールドフォーカスとユース部門のラインアップ解説が書きたかったのでした。いよいよ時間切れなので、せめて全体の中でちょっと埋もれがちかもしれないけど絶対にお薦めしたい作品を4本だけ紹介してみます。

『カーマイン・ストリート・ギター』


『カーマイン・ストリート・ギター』
「ワールド・フォーカス」部門の作品で、カナダのロン・マン監督による至福の音楽ドキュメンタリーです。ニューヨークはグリニッチ・ヴィレッジ地区のカーマイン通りに実在するギターショップ、その名も「カーマイン・ストリート・ギター」の日々を描くだけの内容なのだけど、職人の世界と美しいニューヨークが見事に融合した至福の日常なのです!

お店は昔気質の職人が母親と経営していて、そこに彼らとはおよそ不釣り合いの銀髪のパンク少女が弟子入りしている。携帯も持たない旧世代のおじさん職人とパンク少女の師弟関係という絵がすでに魅力的過ぎてたまらないのだけど、師匠がギターを組み立てて弟子が装飾を施すという彼らのチームワークはすでに盤石で、とてもクール!

師匠は、マンハッタンのどこそこで建物が解体される情報を得ると、出かけていって廃材を確保する。そしてその木材でギターを作る。ニューヨークの建物の歴史がギターの中に生き続ける。つまり、正真正銘のメイド・イン・ニューヨークなギターなのである!

当然ながらミュージシャンたちにも有名な店であるらしく、日々有名ギタリストが店を訪れてはギターを試し弾きしていく。その演奏がまたまたたまらない! 夏の光に照らされたニューヨークのストリートの美しさ、人間味溢れる職人と弟子、そして素敵すぎる音楽…。小さいけれど自分だけの宝石にしたくなるような珠玉の作品です。

ロン・マン監督はありとあらゆる題材でドキュメンタリー映画を作っている職人で、過去に扱ったテーマには、植物としてのキノコ、ダンスのツイスト、アメコミ、改造車、マリファナ等々があり、とにかくユニークな着眼点に特徴があります。そして、いずれの作品も資料フッテージをふんだんに用いた見応え抜群の知的エンタメに仕上がっていて、確かな技術に裏付けされた完成度の高い作品ばかりなのです。

近作には『ロバート・アルトマン ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』(14)などの真面目な評伝もあります。本作『カーマイン・ストリート・ギター』は奇をてらわないナチュラルな作りで、職人映画監督がギター造り職人に捧げるリスペクトで溢れ、人間の営みの美しさにうっとりするばかりであります。

『蛍はいなくなった』


『蛍はいなくなった』
「ユース」部門の作品で、カナダのセバスチャン・ピロット監督による青春映画です。鑑賞中に魅了されてしまった僕はコンペに招待したいと思ったのですが、チェコのカルロヴィヴァリ映画祭のコンペ部門出品がすでに決まっていたためにトーキョーのコンペには選べず、ユース部門でのご招待となりました。ともかく紹介ができて本当に嬉しい1本です。

主人公のレオニーは高校を卒業して浪人というか、モラトリアムというか、ともかくブラブラして過ごしていて、やりたいこともあまりない。地元は死んでいるとぼやくものの、どこかに出て行こうという気概もない。一方で義父との関係がぎこちなく、大好きな実父に関する嫌な噂も耳にする。そんな冴えない日々が続く中で、ダイナーで知り合った年上のギタリストと会話を交わすようになり、やがて彼のことが気になっていく…。

やる気も目標もない青春という世界共通の主題は、誰もが感情移入できる普遍的な設定として成功するか、あるいはクリシェだらけの門切り型となって見向きもされないか、ハイリスクハイリターンのチャレンジだけれども、本作は見事に前者の好例たりえています。

それはどうしてかというと、もう監督のセンスとしか言いようがないのが困るのですが、レオニー役の女優さんが抜群に魅力的であり、彼女からシャイでシニカルでクールだけどナイーブでもあるという様々な面を引き出す監督の演出力が上手い。そして、淡々とした展開のテンポが実に心地よく、ギターは上手くてちょっとカッコいいけど、親と同居のルーザータイプでもあるギタリスト男の魅力も絶妙。アメリカの優れたインディー映画、例えば『フランシス・ハ』や『レディ・バード』などが好きな方だったら、絶対に間違いないです。

開放的で美しい土地だけれども、暗い青春にとっては窮屈な場所でしかないという地方都市の空気感の捉え方が素晴らしい。ともかく、ヒロインと年上男が田舎道をぶらぶらと散歩するショットの魅力だけでも、お代を払う価値があると断言します。

『ジェリーフィッシュ』


『ジェリーフィッシュ』
「ユース」部門の作品で、イギリスのジェームズ・ガードナー監督による青春映画。これもまた珠玉の青春映画です。そしてこちらもヒロインの魅力がハンパでありません。

こちらのヒロインは15歳の少女サラ。もともと父がいない上に母が病気で寝込み、幼い姉弟の面倒をサラが見なくてはいけない。家計も苦しく、サラがゲームセンターでバイトしないと光熱費が払えない。とても学校どころではない。まさにどん詰まり青春、ノーフューチャーな日々。そんな中、学校で悪態を吐きまくるサラの雄弁な一面に注目した教師が、彼女にパフォーマンスの授業でスタンダップ・コメディに取り組んでみないかと勧めてみる。真っ暗だった青春の日々に、一筋の光が差してくるが…。

英国の暗い港町の空気とサラの辛い心情がシンクロし、見事に統一された世界観を背景に展開する力強い青春映画です。タフでなければ生きていけないヒロインの心情に観客は完全に同化するでしょう。少女役の女優の素晴らしさに、必見という以外の言葉思い付きません。

『蛍』と『ジェリーフィッシュ』は様々な形の外国の青春を描いている作品であり、日本の高校生に見て刺激を受けて欲しいとの思いで「ユース」部門で紹介しています。しかしコアな映画ファンも深く感じ入ることは間違いない秀作であることに疑いはありません。

『われらの時代』


『われらの時代』
「ワールド・フォーカス」部門の作品で、メキシコのカルロス・レイガダス監督によるヴェネチア映画祭コンペ作品です。東京国際映画祭はカルロス・レイガダス監督の全作品をこれまで上映してきていますが、本作はキャリアの集大成的な、目下の最高傑作と呼ぶことにためらいはありません。

レイガダス作品を知っている人に対しては、よもや観ないということはあり得ませんよね、と呼びかけるにとどめるとして、レイガダスを知らない人に本作をどう勧めればいいのか、純然たるアート映画であるだけに簡単ではありません。しかし、時おり難解なこともあるレイガダス監督としては、いままでで最も理解が及びやすい作品であるともいえます。

尊敬される詩人であり、農場主でもある主人公の男を、レイガダス監督本人が演じています。監督が俳優として映画に出演するのは初めてだと思いますが、自伝的要素はないかもしれないとしても、監督の意識の重要な部分を語るために本人が出演していると考えてよいはずです。

主人公は、妻がビジネスパートナーと不倫しているのではないかと疑念を抱く。しかし、咎めることはせず、寛容であろうとする。農場で育てる闘牛は猪突猛進しかできないが、文化人・知識人である自分には本能に流されない理知的な反応が可能なはずだと考える。しかし、人間という動物は本能に逆らい続けても正気を保てるのだろうか…?

以上は、あらすじの紹介というよりは、僕が主題と考える要素です。大自然の力とインテリの理性は勝負できるのか、そういう主題だと考えます。そして、愛とは何なのか、という領域に踏み込みます。

レイガダス的としか形容のしようがないスケールの大きなキャメラワーク、大胆な転換、緻密な心理描写、そして倒錯した性衝動。いずれも処女作の『ハポン』(02)にすでに含まれていた要素ですが、全てがスケールアップした形で大画面から圧倒してきます。

(とここまで書いて、急用が舞い込み、3時間経過)

レイガダス作品についてさらに掘り下げたいところですが、午前2時を回ってしまいました…。明日のオープニングに備えないと危険なので、ここまでにします。

以上、最後の滑り込みお勧め作品でした! しかし改めて書くまでもないですが、ブログで紹介できなかったからお勧めでないということではありません! ひとつでも多くの素晴らしい出会いが、観客にも、監督たちにも、我々にも訪れますように!

それでは明日から、よろしくお願い致します!

《矢田部吉彦》

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