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【MOVIEブログ】2019カンヌ映画祭予習<「監督週間」編>

カンヌ映画祭予習ブログ第4弾は「監督週間」をチェックします。フランスの映画監督協会が主催する部門で、今年から新しいディレクター(パオロ・モレッティ氏)が就任したことでも注目されています。

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カンヌ映画祭予習ブログ第4弾は「監督週間」をチェックします。フランスの映画監督協会が主催する部門で、今年から新しいディレクター(パオロ・モレッティ氏)が就任したことでも注目されています。

賞を競う部門ではないのですが(例えば「監督週間作品賞」というものはない)、いくつかの映画関連団体が独自に授与する賞は存在します。今年の「監督週間」の長編部門は全25本(短編部門もあります)。前回ブログまでと同様、見つかる限り英語タイトルと、監督名と出身地を記します。

【監督週間】

『Alice And The Mayor』(ニコラ・パリゼール監督/フランス)
『And Then We Danced』(レヴァン・アキン監督/スウェーデン)
『Ang Hupa』(ラヴ・ディアス監督/フィリピン)
『Song Without a Name』(メリナ・レオン監督/ペルー)
『Ghost Tropic』(バス・ドヴォス監督/ベルギー)
『Give Me Liberty』(キリル・ミカノフスキー監督/ロシア)
『初恋』(三池崇史監督/日本)
『To Love To Sing』(ジョニー・マ監督/中国・カナダ)
『Dogs Don't Wear Pants』(ジュッカ=ペッカ・ヴァルキーパー監督/フィンランド)
『Deerskin』(カンタン・デュピユー監督/フランス)(写真)
『The Particles』(ブレイズ・アリゾン監督/フランス)
『Lilian』(アンドレアス・ホルヴァート監督/オーストリア)
『Oleg』(ジュリス・クルシエティス監督/ラトヴィア)
『Blow It To Bits』 (レック・コワルスキー監督/米)
『Perdrix』(エルワン・ル・デュック監督/フランス)
『For the Money』(アレホ・モギランスキ監督/アルゼンチン)
『Red 11』(ロバート・ロドリゲス監督/アメリカ)
『Sick, Sick, Sick』(アリス・フルタド監督/ブラジル)
『The Light House』(ロバート・エガース監督/アメリカ)
『The Orphanage』(シャールバヌー・サダト監督/アフガニスタン)
『Tlamess』(アラ・エディンヌ・スリム監督/チュニジア)
『An Easy Girl』(レベッカ・ズロトヴスキ監督/フランス)
『Wounds』(ババク・アンヴァリ監督/イラン・英)
『Yves』(ブノワ・フォルジャール監督/フランス)
『Zombi Child』(ベルトラン・ボネロ監督/フランス)

『Alice and the Mayor』(ニコラ・パリゼール監督/フランス)
ニコラ・パリゼール監督の2本目の長編作品。前作『The Great Game』(15)はメルヴィル・プポーとアンドレ・デュソリエが主演した、一種の政治ドラマでした。役者の演技は見ていて気持ちよかったものの、少し話が飲み込みにくくて難儀した記憶があります。今回も役者は豪華で、ファブリス・ルキーニとアナイス・ドゥムスティエ。これだけで絶対見たいです。

リヨン市の市長(ルキーニ)が30年の政治生活を経て完全に燃え尽きており、調子がどん底のところ、心配した周囲が若く聡明な哲学者(ドゥムスティエ)を助手にあてがう。正反対の性格の2人の運命は…。

フランスの観客が喜ぶのは間違いないところで、あとはどのくらい国際観客にアピールできる内容になっているか。しつこいですが、僕はファブリス・ルキーニが出ている限りは必ず見ます。

『And Then We Danced』(レヴァン・アキン監督/スウェーデン)
ジョージア系のスウェーデン人のレヴァン・アキン監督による、初のジョージア語長編作品。ジョージアの国立機関で幼少時から伝統舞踊を学んできた青年が、強力なライバルの出現によって人生が揺さぶられる様が描かれる物語とのこと。

昨今のジョージア映画は透徹した美しさを備えた作品で世界の映画祭を賑わせていますが、その影響がどのくらい及んでいるのかいないのか、本作のジョージア映画に対するスタンスを確認しに行きたくて仕方ありません。

『Ang Hupa』(ラヴ・ディアス監督/フィリピン)
ラヴ・ディアス監督新作、4時間46分…。またかよ…。これでまた半日潰れてしまうじゃん…。ああ。

舞台は2034年。東南アジアが暗黒期に入って3年が経ち、火山の噴火に次ぎ、陽も上らなくなる。国々は狂人が支配し、伝染病が蔓延する。数百万人が死に、数百万人が国を去る…。

本作は「ドキュメンタリー」とされている。ああ、見たいじゃないか…。

『Song Without a Name』(メリナ・レオン監督/ペルー)
リマとニューヨークを拠点に活動するペルー人のメリナ・レオン監督の初長編監督作品。

軍事独裁政権下の80年代ペルー。ジョルジーナは初の出産を控えるが金がなく、無料で面倒を見てくれるクリニックに申し込む。そして無事出産を終えるが、こどもを渡してもらえない。ジョルジーナは新聞記者の助けを借り、娘の行方を探す決意を固める…。

メリナ・レオン監督のプロフィールによれば、彼女の父親によって事実が明らかになった(父親がどう関与したのかは不明)ペルーの人身売買スキャンダルから着想を得た作品であるとのこと。只ならぬ気配がします。

『Ghost Tropic』(バス・ドヴォス監督/ベルギー)
バス・デヴォス監督は処女作と2本目がともにベルリン映画祭で上映され(1作目の『Violet』は「ジェネレーション」部門で審査員賞受賞)、3本目の長編となる本作が初のカンヌ参加です。

仕事で疲れた58歳の女性が終電車で眠ってしまう。街の反対側で降ろされ、彼女は深い夜の街を徒歩で戻らなければならない。それは夜の人々の助けを借りることであり、そして助ける側に回ることでもある…。

小規模の良さを活かしたシンプルでウェルメイドな作品である予感がします。

『Give Me Liberty』(キリル・ミカノフスキー監督/ロシア)
プロフィールによれば、ロシア出身のキリル・ミカノフスキー監督はニューヨークに移り住み、救急車の運転手をしながら語学を勉強したとのこと。その貴重な経験が長編2本目となる今作に生かされているようです。

ついていない若いロシア系アメリカ人のヴィックは、ミルウォーキーで身障者向けバスの運転手をしているが、不運な出来事でクビになってしまう。やがて祖父を含めロシア系の老人たちを車で葬儀に連れていく仕事を承諾するが、黒人居住地区で筋萎縮性側索硬化症の女性に出会うと、ヴィックの一日は完全にコントロール不能になっていく…。

本作はコメディー・ドラマであり、笑わせながら感動もさせるというタイプの作品であるようです。決してカンヌに多いタイプの作品ではないので、一服の清涼剤となるかどうか?

『初恋』(三池崇史監督/日本)
三池崇史監督初のラブストーリー、なのかな?監督は「バイオレンスよ、さらば!」とコメントを寄せていますが、果たしてどうでしょう。主演は窪田正孝、共演にベッキー、大森南朋、染谷将太など(敬称略で失礼)。日本公開は2020年とのことで、先に観られるものなら観ておきたい!

『To Love To Sing』(ジョニー・マ監督/中国)
マ監督は10歳でカナダに移住しており、N.Y.で映画を学び、そして中国で映画を撮っています。1作目の『Old Stone』(16)はベルリン映画祭「フォーラム部門」でプレミアされ、トロント映画祭ではカナダ映画の新人賞を受賞するなど好評。『Old Stone』は社会の強者と弱者の差を見せつけた、痛烈にペシミスティックな社会批判のドラマで、希望は無いものの映画としての強度は確かなものがありました。

新作『To Love To Sing』は前作とは少し趣が異なるようで、伝統的な歌劇団を率いる女性が経営難に陥り、劇団を維持しようと奮闘する物語です。僕は先の香港出張の際にクリップを見ており、リアルとファンタジーがミックスされたような映像がとても美しく、印象に残っています。

今後存在感を増していく監督であることは間違いでしょう。要チェックです。

『Dogs Don't Wear Pants』(ジュッカ=ペッカ・ヴァルキーパー監督/フィンランド)
Jukka-Pekka Valkeapaa 監督の名前の読みに全く自信はありませんが、とりあえずヴァルキーパー監督という表記で勘弁してもらいましょう。3本目の長編です。僕は2本目の『They Have Escaped』(14)を観ていますが、未成年の更生施設に務める吃音の青年職員が問題児の少女とともに脱走する逃避行で、予想外の展開と刹那的な青春の美しさが凝縮された秀作でした。この難しい名前はあの作品の監督だったか!と今回喜んでいる次第です。

新作のシノプシスによれば、水難事故で妻を失った男が数年経っても悲劇を乗り越えられず、立ち直れないでいたところ、支配的な女性に出会って人生が変わっていく、という物語。

絶対に美しい作品になっているという確信があります。これは絶対に見逃さないつもりです。

『Deerskin』(カンタン・デュピユー監督/フランス)(写真)
珍品というか怪作というか、不条理な笑いが漂う作品を作り続けるデュピユー監督の新作。今年の「監督週間」部門のオープニング作品です。前作『Au poste!』(18)は異常なテンションの刑事と取り調べを受ける容疑者のやりとりを描くブラック喜劇でしたが、ブノワ・ポールヴールドの見事な怪演や70年代を再現するビジュアルなど、映画としてもかなり見応えのある出来でした(ファンタ系映画祭として名高いスペインのシッチェス映画祭で脚本賞受賞)。

間髪おかずに作られた新作は、全く内容が分かりません。監督週間のHPに記載されているシノプシスはたったの一文だけ:「ジョルジュ、44歳、そして彼の100%ディアスキンジャケットには、ある計画がある」。

まったく人を喰ったとはこのことですね。もっとも、内容を知らなければ知らないほど楽しめるのがデュピユー作品でもあります。主演がジャン・デュジャルダンとアデル・エネル。こんな一級キャストがカンタン・デュピユーのヘンテコ世界を認めているというだけで痛快ではないですか。

『The Particles』(ブレイズ・アリゾン監督/フランス)
フィルモグラフィーを見ると、アリゾン監督はこれまでドキュメンタリー作品を多く手掛けています。僕は今回初めて名前を知りましたが、本作が初のフィクション長編のようで、SF的なドラマ、エコロジー系のドラマ、でしょうか。

フランスとスイスの国境近くに、世界最強力の粒子遠心機(でいいのかな?)があり、宇宙の未知の粒子が研究されている。近所に住む高校生の青年は、徐々に周囲の環境が変化していくことに気づき、やがて自分の世界も揺さぶられていく…。

SFと環境問題と青春ものとが合わさったものかもしれません。役者も新人が多いようで、果たしてドキュメンタリータッチなのかどうか、ちょっと観ないことには分かりません。

『Lilian』(アンドレアス・ホルヴァート監督/オーストリア)
68年生のアンドレアス・ホルヴァート監督もドキュメンタリー映画を多く手掛け、カルロヴィ・ヴァリなどの国際映画祭で受賞歴もあります。そして、ヴェネチア映画祭でプレミアされた『俳優、ヘルムート・バーガー』(15)がイメージ・フォーラム・フェスティバルで上映された際に僕は観ているのですが、絶世の美少年として知られた俳優が俗物老人になり果てた姿を残酷に映し出し、虚実の際でアートを語る大傑作でありました。そして本作が初のフィクション長編です。

ニューヨークで挫折をしたロシア移民のリリアンは徒歩で母国に帰る決意を固める。ニューヨークからアラスカに至る長大な旅を追うロードムービーであり、緩やかに姿を消していく人の記録である…。

途方もない話のようですが、ともかくあの『俳優、ヘルムート・バーガー』の監督の作品と気づいてしまったので(名前を聞いて知らないと思っていた監督の過去作を実は観ていたと発見する時が、予習作業の最大の醍醐味!)、これは絶対に観る対象として外すわけにいきません。

『Oleg』(ジュリス・クルシエティス監督/ラトヴィア)
英国で教育を受けたラトヴィア出身のクルシエティス(Kursietis)監督の長編2作目。1作目の『Modris』(14)はトロントやサン・セバスチャンなどの有力映画祭を回っています。ラトヴィアの地方都市でくすぶる、病的に身勝手で刹那的に生きるティーンが描かれ、痛々しいリアリズムで貫かれた作品でした。

新作のシノプシスは:「肉屋勤務のオレグは、よりよい生活を求めてラトヴィアからブラッセルに移住する。しかし仲間に裏切られて挫折し、ポーランド系の犯罪組織と関係を持つようになる」。

なるほど、監督の関心事は社会の底辺でもがく若者たちを描くことにあるのだなと思わせます。前作の延長線上にありそうですが、5年の歳月が経っていることもあり、是非追ってみたいところです。

『Blow It To Bits』(レック・コワルスキー監督/米)
ポーランド系アメリカ人であるコワルスキー監督は70年代から活動しており、セックス・ピストルズを中心にパンク・ムーブメントを記録した『D.O.A』(80)で世に大きく知られるようになった存在です。その後もジョニー・サンダースやニューヨーク・ドールズやラモーンズの映画を作ったりして、ともかくNYパンクのとても近くにいた人ですね。

新作は、フランスの自動車部品メーカーの工場が閉鎖の危機に瀕し、そこで開かれた抗議のライブコンサートを記録したドキュメンタリーであるとのこと。ライブをきっかけに、重要な労働問題としてフランス全土のニュースになっていくようで、社会派ドキュと呼べる内容なのかもしれません。

パンク魂は永遠に死なず。そんな陳腐なセリフを口走りそうですが、コワルスキー監督に怖いものはないでしょう。気合いに満ちたドキュに期待が高まります。

『Perdrix』(エルワン・ル・デュック監督/フランス)
77年生のル・デュック監督は4本の短編を監督したのち(うち1本はカンヌ「批評家週間」の短編部門に選出)、本作が長編デビュー作。監督はル・モンド紙の記者でもあるらしく(それもスポーツ部門)、変わり種の新人と言えそうです。

ピエール・ペルドリックスという青年が、彼の生活に突如闖入してきた女性に振り回されてしまう物語とのことで、コメディーなのか深刻系なのかは分かりません。

主演に近年躍進が続くスワン・アルロー、運命の女性(?)にモード・ワイラー、そしてファニー・アルダンの名も見られます。現状では何とも言えませんが、ともかくフランス映画は猛烈に競争率が高いはずなので、新人で入っていることはそれだけ実力が期待できるということでもあります。

『For the Money』(アレホ・モギランスキ監督/アルゼンチン)
78年生のモギランスキ(Moguillansky)監督、6作目の長編です。僕は過去作を未見ですが、ロカルノやベルリンで上映実績があり、国内でも作品賞を数度受賞している実力派と呼んでよさそうです。作風は分かりませんが、昨年アイ・ウェイウェイに関する短編ドキュメンタリーを作っていることから、モギランスキ監督の関心事の傾向を推測できるかもしれません。

シノプシスによれば:「俳優、ミュージシャン、ダンサー、映像作家、そしてひとりの少女からなるアルゼンチンのみすぼらしい劇団が南米のどこかをツアーしている。金と愛が両立しないとしたら、本作はその悲劇を語るものだ」。

モギランスキ監督本人が主演しており、ひょっとしたらドキュメンタリーとフィクションを融合したタイプの作品かもしれないです。メイン写真がちょっとトボけた良い感じで、ユーモアも期待できそうです。

『Red 11』(ロバート・ロドリゲス監督/アメリカ)
ロバート・ロドリゲス監督がいきなり入ってくるのが監督週間の面白いところですね。新作は14日間で撮影され、予算は7千ドルだったとのこと。大メジャー作『アリータ:バトル・エンジェル』(19)の後がこれなんて、カッコいいなあ。

新作『Red11』は、ロドリゲス監督が処女作『エル・マリアッチ』(92)を作ったとき、新薬の人体実験に参加して金を稼いだ実体験をもとにしているそうです。被験者の主人公が病院が自分を殺そうとしているのか、薬の副作用なのかが分からず恐怖にかられるスリラーで、そこにSFやホラーの要素が入ってくるとのこと。これは観たい!

ちなみに本作と関係はないですが、ロバート・ロドリゲス監督のフィルモグラフィーをインターネット・ムービー・データベース(IMDB)で見てみると、2115年公開予定の『100 Years』という作品があって、脚本主演がジョン・マルコビッチ、そして宣伝コピーが「あなたが決して見ることはない映画」とあり、詳細は公開時の2115年まで伏せられるらしい…。

『Sick, Sick, Sick』(アリス・フルタド監督/ブラジル)
87年生、フランスで映画を学んだフルタド監督の長編第1作。かつて短編がカンヌの学生部門に入っており(「シネ・フォンダシオン」部門)、その繋がりを無駄にせずにカンヌ「監督週間」入りを果たしています。

内気な女子高校生がワイルドな男子転校生によって心を開いていく…、ということで青春もの、と思いきや、その男子が血友病に苦しんでいる設定ということで、今度は難病ものかと思いきや、どうやらオカルト的展開になっていく…?おお、これはそそられる。

ブラジルでは超常現象やホラーをアート的に描く作品がひとつのブームになっており、ロカルノで審査員賞を受賞した傑作『Good Manners』(17/マルコ・デュトラ監督)がその頂点にありますが、去年の東京国際映画祭でもその流れの中にある『翳りゆく父』(18/ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督)を招待しています。本作の「超常度」は全く分かりませんが、この潮流と全く無関係であるとも思えず、僕は是非とも確認に行こうと思っています。

『The Light House』(ロバート・エガース/アメリカ)
ブルックリンを拠点に活動するロバート・エガース監督の2本目の長編。1本目のモダン・ホラー『ウィッチ』(15)はサンダンス映画祭監督賞はじめ、膨大な数の受賞やノミネートを果たしています。ホラーと呼ぶにはあまりにアート度が高く、格調漂う作品で、中世の貧しい農家の食事の様子をろうそくの光のみで撮影する映像の美しさはキューブリックかとつぶやきたくなるほどでした。

新作は1890年の舞台に、ニューイングランド沖の島の灯台で働くふたりの男を描くドラマで、やはりかなり怪しげで謎めいた雰囲気の作品のようです。監督が美術と衣装出身なだけに、これまたビジュアルの美しさも間違いないでしょう。そういえば、『ウィッチ』の成功後、『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)のリメイクの監督に抜擢されたとのニュースもありましたが、どうやら本作はそれではなく、監督のオリジナル脚本です。

ともかく主演がロバート・パティンソンとウィレム・デフォー(吸血鬼だったらぴったりだけどそうじゃないはず)ということで、これは今年の監督週間だけでなく、カンヌ全体の注目作の1本と言っていいと思います。

『The Orphanage』(シャールバヌー・サダト/アフガニスタン)
アフガニスタンの映画監督、しかも女性ということで、大きな注目を浴びているサダト監督、2本目の長編です。1本目『Wolf and Sheep』(16)は監督が20歳の時に欧州の主要な映画ファンドをことごとく取り入れて製作され、カンヌの監督週間でプレミア上映されました。田舎の地で暮らす羊飼いと子どもたちの日常を描くもので、戦争もテロもないアフガンが描かれることで逆説的なメッセージを感じ取れる作品でした。

監督はある人物の未発表の伝記を元にした5部作を構想しており、今作は前作に続く第2部に相当するようです。80年代の終わり、カブールの闇市で映画チケットを販売する15歳の少年が孤児院に連れて行かれそうになって抵抗する物語。

アフガニスタンは映画がとても盛んな国であることは、ドキュメンタリー映画『ナッシングウッドの王子』(17/東京国際映画祭で上映)などを見てもよく分かります。とはいえ接する機会が多くはなく、本作はとても貴重な機会になります。

『Tlamess』(アラ・エディンヌ・スリム/チュニジア)
チュニジアのスリム監督は長編デビュー作『The Last of Us』(16)がヴェネチア映画祭に出品され、見事新人監督賞を受賞しています。海を渡って越境を試みる男のサバイバルを、ほぼ全編セリフなしで過酷に美しく描いて独創性に満ち、高評価もむべなるかなという意欲作でした。本作はそれに続く長編2作目です。

シノプシスを訳してみます:「母が亡くなり、チュニジアの砂漠に駐屯する若い兵士のSは休暇を許されるが、もはや隊に戻る気はなく脱退し、追跡隊から逃れて山に隠れる。数年後、裕福な夫と豪華なヴィラに暮らす若い女性のFは妊娠を知る。森に散歩に出かけ、そのまま2度と戻らない」。

これは何とも気になりますね。今回はどのようなタッチだろうか。SとFはどう関わってくるのだろうか。そして山や森の映像が濃密で美しいのだろうか…。ああ、これは映像もストーリーもとても気になります。

『An Easy Girl』(レベッカ・ズロトヴスキ監督/フランス)
ズロトヴスキ監督4本目の長編作品。処女長編『美しき棘』(10)がカンヌ「批評家週間」に選ばれて一躍脚光を浴び、2作目『Grand Central』(13)も「ある視点」に出品を果たしており、そして今回の3回目のカンヌが「監督週間」ということで、順調に常連への道を歩んでいます。

新作は、カンヌに暮らす16歳の少女が夏休みを活発な従妹とともに過ごす物語。ひと夏の成長物語であるようです。

『美しき棘』でレア・セドゥにセザール賞新人女優賞ノミネートをもたらしたように、若い女優を瑞々しく起用する才に監督は秀でているはずです。ブノワ・マジメルやクロティルド・クローらが脇でしっかりサポートしており、果たして今作から新スターが誕生するか?

『Wounds』(ババク・アンヴァリ監督/イラン・英)
1本目の長編『アンダー・ザ・シャドウ 影の魔物』(16)が英国BAFTA(アカデミー賞に相当)最優秀新人賞を受賞するなど大成功を収めた、イラン系イギリス人のババク・アンヴァリ監督の2作目です。『アンダー・ザ・シャドウ』は、80年代のイラン・イラク戦争の時代を背景にしたホラーで、家の外では戦争、中では幽霊、という気の毒過ぎる二重苦に直面する母娘の物語でしたが、様々なメタファーを織り込んだ深読みのしがいのある作品でもありました。

新作『Wounds』もジャンル感はたっぷり。ニューオーリンズのバーで働く青年が主人公で、バーで激しいケンカがあった後に残された携帯を見つけ、そこに怪しいメールを受信するようになる。青年は関わり合いを避けるが、彼の恋人が興味を持って携帯を調べ始めると…。

ちょっと日本のホラーにもありそうな設定ですが、主演がアーミー・ハマーで、恋人がダコタ・ジョンソンとくれば、かなりの規模感が期待できると思います。これも派手な上映になりそうだ!

『Yves』(ブノワ・フォルジャール監督/フランス)
俳優としても活躍するブノワ・フォルジャールの監督第3作。前作の『Gaz de France』(15)は、カンヌで最近存在感を増しつつある並行部門「ACID」で上映されています。ちなみに「ACID」というのはフランスのインディ系の低予算映画が集まる部門で、映画監督たちが作品を選定することが特徴です。「監督週間」は監督協会が主催ですが、選定は監督ではなくプロの選定ディレクターが任命されています。

新作『Yves』は、初アルバムをレコーディングしようとしているミュージシャンの卵の青年が、クラウドファンディング会社の奇妙な女性調査官の進めに従い、イヴと名付けられたAI冷蔵庫を購入する…。

これはコメディー、なのかな?監督週間のコメディーは結構当たりが多いというのが僕の印象。今年はどうだろう?

『Zombi Child』(ベルトラン・ボネロ監督/フランス)
ボネロ監督、『ノクトラマ』(16)以来となる新作。『ノクトラマ』を作っていたのは2014年のはずだから、結構久しぶりの長編ということになります。カンヌは『SAINT LAURENT サンローラン』(14)がコンペに出て以来5年振り、監督週間参加は『戦争について』(08)以来11年振りです。

1962年のハイチ。死者を甦らせ、過酷なサトウキビ労働に従事させる。55年後、パリの名門寄宿校にて、ハイチ出身の女の子が家族を苦しめる秘密を友人たちに打ち明ける。その話を聞いていた子が片想いに悩んでおり、取り返しの付かない行動を起こしてしまうことを知らずに…。

ああ、猛烈に面白そう。もちろんボネロ自身による脚本。今年はジャームッシュとボネロがゾンビ映画(と呼んでしまうのは乱暴かもしれないけど)で競演するのが楽しいですね。研究書が出るほどゾンビのバリエーションは無限にあるわけで、ふたりのアプローチが楽しみ過ぎます。

以上「監督週間」ラインアップでした。ホラー、ゾンビ、ドラマ、コメディー、ドキュなど、本当にバラエティ豊かです。ジャンルの豊富さは例年より際立っている感があります。新ディレクターが個性を発揮した結果でしょうか。果たして何本観られるか、スケジュールと勝負です。

ところで、ここでは「監督週間」の長編部門だけ予習しましたが、60分未満の短編~中編も11本選ばれています。その中の1本に日本の映像作家・ダンサーの吉開菜央(よしがい・なお)監督による15分の作品『Grand Bouquet』が選出されていることをメンションしておきます。素晴らしい!

そして、「監督週間」は功労賞として毎年「カロス・ドール(黄金の馬車)賞」を偉大な映画人に授与していますが、今年はジョン・カーペンター!『遊星からの物体X』を上映したあとにはトークイベントも予定されている。ああ、なんとしても行きたい…。

次回は「批評家週間」をチェックします!

《矢田部吉彦》

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