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【MOVIEブログ】2019カンヌ映画祭 Day5

18日、土曜日。6時半起床、7時15分に外に出ると、今朝もどんより曇り。今年はダメだなあ。

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18日、土曜日。6時半起床、7時15分に外に出ると、今朝もどんより曇り。今年はダメだなあ。

8時半からのコンペ上映に早めに並ぼうと会場に向かったものの、どうも人が少ない。あれ? と思ったら今朝は9時からだった。ああー、あと30分寝られたか! と悔しい思いをしたけれども、せっかくなのでほぼ先頭に並び(ちょっと恥ずかしい)、8時に開場となって良い席を確保でき、ゆっくりと席に落ち着いて溜まりに溜まっているメールの返事を書けたので、やはり早起きは三文の徳だ。

というわけで、本日はオーストリアのジェシカ・ハウズナー監督によるコンペ作品『Little Joe』(写真)からスタート。楽しみにしていた作品で、そしてその期待は裏切られなかった!

新種の植物を研究しているチームが、人を幸せにするアロマを発する花の開発に成功する。しかしその花粉を吸ったものは、人格に変化が生じるかもしれない疑惑が持ち上がり、開発責任者でシングルマザーのヒロインは息子との関係に奇妙なズレを感じ始める…。

幸せの概念や人の気持ちのあり方について深い問いかけを持った作品であり、単なる不思議な映画ではなく、はたまたボディ・スナッチャー的な乗っ取られ系SFでは全くない。実にオリジナルな個性を誇る秀作だ。そして画面がとても美しくポップで、パステル調の色彩のコーティネートが楽しく、さらにコンテンポラリーな雅楽を用いた音楽も極めて個性的。これはスマッシュ・ヒット!

続けて同じ会場に並びなおすためにいったん外に出ると、雨だ…。結構雨足も強い。むむー。

次もコンペで、12時からペドロ・アルモドバル監督新作『Pain and Glory』へ。これまた悪くない席を確保出来て、じっくりと臨んでみる。予習ブログではアルモドバルの自伝的作品で、彼の過去作への言及も多く見られそう、と書いたけれど、実際は少し異なっていた。

アントニオ・バンデラスが半ば引退状態の映画監督に扮し、少年時代が回想シーンで挟まれつつ、現在時制では因縁の仲であった俳優と和解したり、ドラッグにハマったり、そしてかつての愛と折り合いをつけたりするなどのエピソードが描かれていく。

正直に言うと、アルモドバルにはあまり期待をしていなかった。具体的な理由があるわけではないのだけど、創造性のピークは過ぎたのではないかと勝手に思っていたのだ。しかし、その偏見を深く反省しなければならないほど、本作の完成度は高かった!

少年時代は自伝的なのかもしれないと思わせつつ、成人後のエピソードがどこまで実話に基づくものなのかは見ているだけでは分からない(バンデラスがアルモドバルの分身であることは間違いないとして)。

虚実ないまぜのドラマ作りがいつもながらに巧みで、そして母に対する想い(自分の母親役をペネロペ・クルスにオファーするのは一体どういう気分だろう?)に溢れ、感動的な愛の物語に誘導するストーリー・テリングはまさにアルモドバルならではの世界だ。バンデラスも、ここ数年で一番いい。

今年のカンヌのコンペはオールスター監督ラインアップに戻ってしまったな、という印象を映画祭前には抱いていたものの、ケン・ローチにアルモドバルといった巨匠が全盛期並みの傑作を放っている様を目の当たりにすると、今年は巨匠の偉大さを再確認するコンペであると思えてくる。

14時過ぎに上映終わり、会場の外に出ると、まだ雨はやまない。少し時間が空いたのでスーパーに寄ってサラダパスタを買い、ホテルで食べて30分ほど休憩。

15時過ぎにジャパン・パビリオンに出向き、本日も行われたミニ・レセプションに出席し、ミーティングを兼ねたお話をしたり、「TIFF Studio」用の動画を撮ったりして、 16時半まで滞在。せっかくの海沿いのテラスが雨で魅力半減なのがいかにも残念だ…。マーケット会場に移動して、その後3件ミーティング。

18時から上映に戻り、「批評家週間」のグアテマラ出身監督による『Our Mothers』へ。80年代のグアテマラで反政府系共産ゲリラが政府軍によって凄惨に粛清(拷問、拉致、レイプ、惨殺)された歴史を背景にした現代のドラマ。さぞかし過酷な映画かと思いきや、壮絶な悲劇は十分に伝わりつつも、映画的な魅力を存分に備えた美しい感動作だった。

フィルムを思わせる質感と光線を携えた映像が魅力的で、同じく南米の悲劇を映画的に捉えたペルーの『Song Without a Name』と比べると、僕は断然本作が好き。

続けて、止まない雨の中、傘をさして列に並び、20時から「スペシャル・スクリーニング」部門でウェルナー・ヘルツォーク監督新作『Family Romance』へ。なんと、全編が東京を中心とした日本ロケの作品。

そしてこれが…。あえて分類分けするとしたら、珍品の部類に入れざるを得ないかな…。家族をレンタルする業者の活動を通じて、本当の家族とは何かを問いかける作品ではあるのだけど、ドラマの部分に加えて、ヘルツォークが日本で見聞きして興味を魅かれた対象(ロボットホテル、イタコ、プリクラ、棺桶体験、など)を片っ端からドキュメンタリー的にぶち込み、結果として大いなる珍品が出来上がってしまった感じ。いやあ、東京を知らない外国人には絶妙にアピールするかもしれない。ヘルツォーク、やはり恐るべし。

いささか頭を抱えながら、会場を移動して、22時半から「批評家週間」でアイルランド出身のロルカン・フィネガン監督による『Vivarium』へ。主演にイモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグ。若いカップルが怪しい不動産屋にそそのかされて、悪夢的な家に住むはめになる…。

なんと言ったらいいか、不条理系シュール・レアリズムSF悪夢スリラードラマ、か。なんのこっちゃだけど、全く人工的で特異な世界観の中で展開する物語。ビジュアルがグラフィック的に冴えていて、モダンアートの側面もある。いや、ルネ・マグリット的なシュール・レアリズムか…。

ちょっと解説不能なのだけれど、監督の才能は間違い無く、今後も新作を追ってみたい存在。

上映終わりが0時半を周り、雨の中をトボトボとホテルに戻って1時。所用をこなしてブログを書きはじめ、そろそろ3時。今日も感想をたくさん書きたくなる作品が連続して、大充実!もっと書きたいけど、ダウンします!

《矢田部吉彦》

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