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【映画と仕事 vol.5】「逃げ恥」「アンナチュラル」の脚本家・野木亜紀子が生み出す高い“密度” 映画『罪の声』で原作にない創作シーンをあえて入れた意図は?

「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)や原作ファンから絶大な支持を集めた映画『図書館戦争』シリーズ、「アンナチュラル」「MIU404」(TBS系)など、原作もの、オリジナル脚本を問わず、 次々と話題作を生み出す脚本家・野木亜紀子。

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社会現象とも言える盛り上がりを見せた「逃げ恥」こと「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)や原作ファンから絶大な支持を集めた映画『図書館戦争』シリーズ、「アンナチュラル」「MIU404」(TBS系)など、原作もの、オリジナル脚本を問わず、 次々と話題作を生み出す脚本家・野木亜紀子。

人気のマンガや小説の映像化の企画が多くを占める昨今のエンタメ業界ですが、原作のイメージを損なうとたちまち炎上しかねない状況で、野木さんの作品が称賛を集めるのはなぜなのか? オリジナルの作品が多くの視聴者の心を鷲掴みにするのはどうしてなのか――?

「映画お仕事図鑑」第5回目は、2016年の「週刊文春」ミステリーベスト10で第1位を獲得するなど高い評価を得た塩田武士の同名小説を原作とした映画『罪の声』の脚本執筆についてお話を伺いつつ、野木さんの創作の裏側に迫ります!

本作は、誘拐、脅迫、そして毒物混入などで世間を震撼させるも、犯人逮捕に至らぬまま幕を閉じた昭和の未解決事件の真相を描くサスペンス。脅迫に使われたテープの声の主が子どもの頃の自分だと気づいた曽根俊也(星野源)と時効となった同事件を追う大日新聞の記者・阿久津英士(小栗旬)という2人の男性が事件の真実を追いかける。

『罪の声』(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

作品の“密度”を高めるために大事なこととは?


――塩田武士さんが、実際に起きた昭和の未解決事件を題材に書いた小説「罪の声」ですが、最初に同作の映画化の脚本執筆というオファーが届いて、原作 を読んだ際の印象をお聞かせください。

事件の脅迫テープの声に使われた子どもの存在というのは盲点で、よくそこに気づいて小説を書かれたなと思いました。未解決事件――例えば「三億円事件」などは、これまでも手を変え品を変え何度も映像化されていますが、この事件の脅迫テープで使われた子どもの声というのは、三十数年、誰も着目してこなかったわけで、それはすごいなと。

『罪の声』(C)2020 映画「罪の声」製作委員会
――原作は事件の真相についてはもちろん、阿久津と俊也という2人の主人公が背負っているものや家族の存在、俊也と同様に事件に関わった人々の人生など、ものすごい情報量を持った小説です。映画用の脚本を執筆する上で軸とした部分、大切にされた部分は?

実際の事件をモチーフにしているので、事実として判明している部分は変えない方がいいなと思いました。その部分を変えず、いかに映画の枠に収まるように尺を削っていくか。

原作には「そんなことがあったのか!」という事実や、警察内部の動きで「こうなっていたから、こんなことが起きたのか」となるほどと思わされる部分も多かったのですが、それを描いていると警察ドラマになってしまうので、面白さを感じつつも断腸の思いで、削るべき部分は割り切って落としていきました。

映画としてはとにかく、脅迫テープの声に使われた子どもたちの存在――そこに焦点を当てることに専念しました。

『罪の声』(C)2020 映画「罪の声」製作委員会
――小栗さん演じる阿久津と星野さんが演じる俊也。2人の主人公の人物像については、どのように?

新聞記者である阿久津英士とテーラーである曽根俊也。2人の男を短い尺の中でどう表現するか。映画の中で、彼らを表すのにそこまで時間を使えない中で、それぞれの個性や違い、彼らの気持ちが近づいていく部分――この作品はバディムービーでもあるので、事件に関する描写と並行して彼らの想いをどう描いていくかに心を砕きました。

――俊也と阿久津が初めて顔を合わせるシーン。原作では2人だけのシーンですが、映画ではそこに俊也の妻・亜美(市川実日子)と娘の詩織が来る。そして阿久津が詩織に言葉をかける。わざわざこのやりとりを入れた意図は?

『罪の声』 (C)2020「罪の声」製作委員会
阿久津というのは社会部で事件記者をやっている自分に嫌気がさして、文化部に行った人間で、つまり“優しい”人間なんですよね。そういう人がああいう状況でどうするか?

また、俊也がその後、事件のことを阿久津に話す気になったのはなぜなのか? かつての社会部の阿久津であれば、話さなかったかもしれないし、あそこでああいうことができる阿久津だからこそ話したという“必然”がほしかったんです。たまたまそこにいたからではなく、この2人が出会ったから生まれる“何か”が必要だなと。

もうひとつ、妻の亜美が(事件の真相究明にのめりこんでいく夫を)どう思っているのか? というのが気になったんです。夫の異変を感じるとっかかりとして、あのシーンでバッティングさせるといいのかなと。

映画でもドラマでも、作品の“密度”を高めるためには、ひとつのシーンにいろんな機能、意味を持たせることが大事になってくるんです。あのシーンは、阿久津の性格を表すシーンであり、俊也が阿久津を信頼するきっかけになるシーンでもあり、亜美が夫の異変に気付くシーンでもあるという、3つの意味をもたせています。

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《text:Naoki Kurozu》

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