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『孤狼の血』白石和彌監督に訊く映画業界がアップデートしていくべきこと<アーカイブ>

シネマカフェの「Let’s Keep Updated」、今回は『孤狼の血 LEVEL2』白石和彌監督を迎え、撮影前に行ったリスペクト・トレーニングについて、映画業界のアップデートすべきことについて語り合った

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【9月21日実施】『孤狼の血』白石和彌監督に訊く映画業界がアップデートしていくべきこと SYO&白石和彌監督が登壇
【9月21日実施】『孤狼の血』白石和彌監督に訊く映画業界がアップデートしていくべきこと SYO&白石和彌監督が登壇 全 8 枚
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シネマカフェでは「Let’s Keep Updated」と題して、映画をきっかけに地球のこと、私たちのことについてトークし考えるオンラインイベントを開催してきた。第4回目となる今回は、進行役にライターのSYOさん、ゲストに『孤狼の血 LEVEL2』白石和彌監督を迎え、同作が撮影前に行ったというリスペクト・トレーニングについて、映画業界のアップデートすべきことを語り合った。


>>『孤狼の血 LEVEL2』あらすじ&キャストはこちらから

第4回目となるイベントは、日本における映画会社としては初の試みとなったという“リスペクト・トレーニング”を実施した白石監督をゲストに迎え、『孤狼の血 LEVEL2』でどのように活かされたのか、撮影裏話も含め話を聞いたほか、コロナ禍での撮影環境や業界の労働環境、ジェンダーギャップなど、現在の日本映画業界の抱える問題点や改善点、いま勢いに乗る韓国映画界との違いが話題に。

また、視聴者からの質問では、『孤狼』ファンの間で盛り上がっているという近田幸太(村上虹郎)の“通称”の由来、日岡秀一(松坂桃李)と上林成浩(鈴木亮平)の関係性、続編やスピンオフの可能性についてなど、熱い声が寄せられた。

リスペクト・トレーニング…約1時間にわたり「差別」や「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」の定義や、受けた場合の対処法などが説明される講習。日本では主にNetflix製作の作品で実施されている。

日本の映画会社としては初めての試み、リスペクト・トレーニングって何?


SYO:まずはリスペクト・トレーニングとは何ぞや? というところから教えていただけますか。

白石:僕も2回やった程度なので、全貌を分かっているわけではないんですけれど、Netflixが「全裸監督」のときにリスペクト・トレーニングをしたっていうニュースを見て、これは映画でやるときにはやりたいなと思って今回やったんですけれど、Netflixがアメリカ本国でやっているものを、日本のいろいろな企業とか、日本の国民性とかを加味しながら作っていったもので今回僕らはやらせてもらったんです。

簡単に言うと、あらゆるハラスメントをなくして、いままでそういう中で育ってきた人たちも、セクハラもそうだし、パワハラもそうだし、今日をもってそういう負の循環を断ち切りましょうっていうところから始まるトレーニングです。

SYO:リスペクト・トレーニングを前々から導入しなければならない、という気持ちがあったということですよね。

白石:導入しなければならない、というほど強くは思っていなかったんですが、やっぱり映画業界はいまに至るまで綿々と厳しい縦社会の中で、後輩を怒鳴ったり、ときには暴力を振るったりということをずっと見てきたので、気分のいいものではないというのはずっと思っていましたね。

SYO:そういった中で「全裸監督」のニュースを知って、導入しようとされたと。例えば何時間ぐらいとか、どういった内容だったのでしょうか。

白石:トレーニング自体は1時間で、僕らは広島にほぼスタッフ全員で行っていたのでオンラインでの開催になったんですけど、内容的には「こういったことはハラスメントに該当しますよね」ということを、一方的に決めつけるというよりは、みんなで考えながら進めていく、みたいな。トレーニングなので。

じゃあ、何でハラスメント・トレーニングって言わないんだっていうと、ハラスメントというと結局受け取る人によって、A、B、Cという人がいたら、Aの人は完全にハラスメントと感じたけれど、Bの人はそこまで僕は嫌な思いはしませんでしたよとか、結局、明確な線引きってできないっていうことを前提に作られたトレーニングなので。

だったら、線引きができない以上は何かを行動したり、誰かと話したりするときに相手に対する“リスペクト”をまず持ちましょうと。リスペクトを持てば、相手に対する嫌な発言とか、そういうハラスメントとかはまずしないような行動だったり、言動になるんじゃないのというところからのスタート。ハラスメントって当事者、加害の側になってしまう人って、結構自分で認識してないパターンがすごいあるので、万が一「それってハラスメントだよ」って言われたときに、相手へのそれこそリスペクトを持っていれば素直に謝れたりとか、自分の行動を正したりっていうことができるんじゃないかということをみんなで考えながら話していく、ということが大まかな流れです。

SYO:キャスト、スタッフの皆さんの反応はいかがでしたか。

白石:いろんな人からメールが来たんですが、『孤狼の血 LEVEL2』だけじゃなくて、今年の6~7月に来年公開の映画を撮影していたんですけれど、そのときもリスペクト・トレーニングしたんですよね。そこで、照明部の女性の助手さんとかも「業界入りたてのときにこうことがあったら全然よかったのに」と言ってくれたりとか、滝藤賢一さんが言っていたのは、俳優部って僕らが思っている以上に(スタッフが)怒られる場面を見ているんですよ。俳優の前で蹴ったりとか、叩いたりとかということをよく俳優も見ているんですって。

それを滝藤さんに言われたときには、すごく心が…。「俺も確かに見てるかも」みたいな。何なら助監督時代、そういう立場でやってたかもしれないなって、思い当たる節がものすごいあって。だから、俳優もそういう場面をすごい見ていて、やっぱりこれからお芝居して本番行こうっていうときにそんなのいきなり見せられて、それは信頼できないって言っていましたよね。

でも、日本映画ってそういう緊張感があるシーンは、そうやって現場がピリつけば映画自体もピリついた雰囲気で撮れるみたいな、何となく代々言われてきたようなことがあって。「あえて現場に緊張感持たせるために人を怒鳴ってるんだ」みたいなことをいまだに言う人もいるし。でも、それもリスペクト・トレーニングの中でそれは全然違いますよねと話したりとか。

「リスペクト・トレーニング導入」を“あえて”ニュースにした理由


SYO:『孤狼の血 LEVEL2』でリスペクト・トレーニングを導入するニュースは、かなり早い段階で出たじゃないですか。公開後も含めて、周囲からの反応、実際の現場の反応、メディアの反応であったり、その点はいかがでしたか。

白石今回はあえてメディアに出して記事化させている、というところがあるんです。だって、例えば自分の組さえ、究極を言えば、ハラスメントがなければ僕はいいわけなんですけど、ただやっぱり自分がいつも一緒に仕事している助監督さんとかがほかの組に行ったときに「こんなハラスメントを受けている人がいました」と綿々と聞くわけですよ、いまに至るまで。

いま現場に若いスタッフがすごく少なくなっているんですけれど、映画界に見習いで入ってきたときに、その見習いの人がたとえ暴力を受けなくても、誰かが誰かに暴力を受けてる姿を見ると、この世界やっぱり辞めようって、初めてとか、2回目とかで辞めていくケースってすごい多いんですね、結構リサーチしたんですけど。そういうことも自分の中で引っかかっていたし、なので、いまだに怒鳴り散らしながら現場をやっている、とある監督とか、あとは現場に入ろうかどうか迷っているけど、映画って厳しい世界なんだろうなとか思っている人がもしいるんだったら、そういう人たちに向けてメッセージを送りたかったんですよね。それで、あえて記事にしてもらったっていう感じですね。

反応はやっぱり、いろいろな人からいまに至るまでもらいましたよ。映画館に行ってもたまに声かけられて、リスペクト・トレーニングのことを言われることもあるし、あと、ほかの業界からもよく言われますね。演劇やっているんですけど、演劇業界も変えたいと思ってますとか。

SYO:リスペクト・トレーニングを実施したことで、1作目と具体的に変わったところはありますか。

白石スタッフに笑顔が増えたんじゃないですかね。人間なんで、誰でもイライラすることはあるじゃないですか。そういうときにリスペクト・トレーニングしてたら、ちょっといまイライラして大声出しちゃったから、「ちょっと向こうで5分間だけ休んできてください」「深呼吸してきてください」と、イライラしている人に言いやすくなった

あと、リスペクト・トレーニングをするということは、この作品のプロデューサーおよび監督は、この作品においてはあらゆるハラスメントを許すつもりはありませんということを、みんなに周知させることでもあるので。それはすごいみんな安心して仕事ができる環境になっていると思います。

SYO:『孤狼の血』のような作品でこれをやることにすごく意義があると、監督は以前おっしゃってましたよね。

白石:インモラル(不道徳である、倫理に反する)な映画だからこそ。ハラスメントは映画の中だけでいいんじゃないっていうね。映画自体はハラスメントの集大成みたいなものですが(笑)。でも、作品の内容は究極を言うと関係ないと思います。

映画業界の労働環境について


SYO:韓国のポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』は休みをしっかり取ろうということで撮影して(「標準労働契約書」を交わした)、それがオスカーを獲ったという流れがあります。労働環境をアップデートさせていくことでアカデミー賞を獲ったというのは大きな流れだと思うのですが、そういった世界的な動きに関してはどうお考えですか。

白石:もう全くその通りだと思います。ハラスメントって、別に何もないときにそんなには起こらないですよね。特にパワハラはですね。映画業界って、映画のスタッフってみんな映画大好きだから、監督が「はい、もうこれで撮り終わりました」と言っても何時間でもつき合ってくれるんですよ。何だったら24時間超えて、30時間とかも寝ないで撮影し続けててもみんなつき合ってくれるんですよ、下手すると。そういう寝れない環境とか、過酷な環境がハラスメントすべてとは言わないですけれど、ハラスメントが起こる土壌になっているということもリアルな話なんですよ。そういう意味では労働環境を改善するというのは、非常に重要です。

特にいまの日本の映画業界、本当にそろそろ限界なんじゃないかなっていうところまで来ているので。全体の予算が下がって、日数が減って、だけど作る映画のクオリティはいままで以上のものを求められて、というふうになってきてるので。それは監督としてはクオリティはある程度自分で担保しなきゃいけないし、本当はもう1カット、もう1カットとなるとやっぱり寝る時間が減っていくということは仕方がないんで。それは基本的に、撮影の時間をコントロールできるのは映画監督なんですけど、それにしてももう限界が来てる感覚ですね。

質問タイム:韓国映画界との決定的な違い、『孤狼』シリーズの行方


SYO:「過去の監督、プロデューサー陣のセクハラ、パワハラが明るみに出たことで、映画の評価はどの程度影響を受けると思いますか、あるいは受けるべきではないと思いますか」という質問です。

白石:よく「作品と罪は別だ」という議論になりがちなんですが、もはや、そうは言っていられない時代到来でしょうね。やっぱり、そういうことがあったということを知ってる人はもうフラットには観られないですよね。監督が女優さんにセクハラしてたことが世の中に出た状態では、気持ちよくその映画を楽しめないんじゃないんですかね。

SYO:「最近の日本映画は、原作や役者の人気や面白さに頼っている傾向を感じるのですが、どう思われますか。『孤狼の血』は脚本が秀逸でよかったです」。

白石:ありがとうございます。映画会社はお客さんが入る映画を作るというのが基本なので、それは仕方がないんじゃないんですかね。そういう映画を国民が多く見るという傾向にある、ということですからね。

韓国はなぜいまこんなふうになっているかというと、例えば、いますごく政治的な映画も多いじゃないですか、ハードな描写があるミステリーとかも。そういう骨太な映画がヒットするから、そういう映画がどんどん作られていく。だから、これは作り手の我々の問題も当然あるのかもしれないけど、そういうお客さんがいっぱいいるということなんです。(日本で)漫画原作の青春映画が多いのは、そういう映画を見たい人たちがいるから作るんで。僕はなかなかそういう映画のオファーもないし、作ったら多分うまいという自信はあるんですけど(笑)、何とか頑張って成功して、『孤狼の血』のようなハードな映画にも入ってほしいという気持ちはありますが、なかなかそうはいかない部分もある。

SYO:これは僕の意見ですけれども、映画は興行なので、“入れば変わる”と僕は思っています。これは逆に、観客の僕らから変えられる状況だと信じているので。例えば、この映画がヒットした、それがすごい骨太のやつだったり、強烈な描写のあるものだったら、1つ成功例ができるからもう1回こういうことをやってみようとなるはずだし。そこらへんは観客含めて、いろいろ変えていけるのではないかなと僕は思います。

白石:ただですね、日本の映画界って脚本にお金を使ってないんです、脚本づくりに。売れっ子脚本家って、売れっ子俳優みたいに常に何本も抱えて書かなきゃいけないんですよ。でも、やっぱり本当は、才能のある人に1年その1本を書いたら本当に贅沢に暮らせるぐらいのお金を渡して、気合い入れて書いてもらう。1本でそんなにスター脚本家になって儲かるんだったら、多くの才能が入ってくるんですよね。その循環も韓国が上手くいっている1つの大きな理由ですね。

Netflixの韓国ドラマとかも段違いに面白いじゃないですか。それはここ20年費やして、多くの才能が来る業界に変えたんですね。日本は本当、脚本家も監督も、撮っても撮ってもリッチになれないっていうか。興行で例えば100億円興行収入入りました、大ヒットですとなっても、監督にも脚本家にもほぼ1円も入らないんで。それで多くの才能が果たして来るのかな、と。

SYO:今後、韓国で製作されたいという思いはありますか。

白石:そうですね。お話とチャンスがあれば、当然ウェルカムですよ。

SYO:今回の『LEVEL2』の鈴木亮平さんの創り上げたキャラクターへの声がすごく大きくて、「常に死んでいた上林の目が、ラストの日岡とのバトルシーンで光り輝いたのが堪らなく好きでした。それを表現できる鈴木さんも素晴らしいし、引き出す松坂さんも素晴らしいなと思いました」というコメントもいただいていますね。

白石:素晴らしい、ありがとうございます。僕も撮影していて本当に同じことを思いながら撮ってましたね。上林は日岡が来てから本当に嬉しそうなので(笑)。

SYO:あれは熱いものがありますね。共依存じゃないけれども、お互いにとってお互いが必要になってくる、というのはなかなか高ぶるものがあります。あと、いまの段階でお答えいただけるかわからないですが、最後に「日岡のバックグラウンドなどは今後出てくるのでしょうか」というご質問をいただいています。

白石:原作の3部作でも、日岡が子ども時代どうだったのかはあまり出てこないんですけど、このシリーズが続いて、日岡が何らかの結末を迎えるときには、そこはちょっと向き合わなきゃいけないのかな、とはうっすら思っていますが、そこが次なのかどうなのかはまだ全くわかりません。

『孤狼の血』白石和彌監督に訊く映画業界がアップデートしていくべきこと


『孤狼の血 LEVEL2』は全国にて公開中。

《シネマカフェ編集部》

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