蜷川監督の愛を感じた『さくらん』安藤政信インタビュー
映画を中心に実力派俳優として活躍する安藤政信。昨年の2006年は『ギミー・ヘブン』、『BLACK KISS』、『46億年の恋』、『青春☆金属バット』、『ストロベリーショートケイクス』と、これまでにないほど出演作の公開が立て続いた。そして2007年、『悪夢探偵』に続き公開されるのが本作『さくらん』だ。
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フォトグラファー蜷川実花の作品を以前から「無条件に美しい」と感じていたという安藤さん。
「『イノセントワールド』(98)の時に、蜷川さんがスチールカメラマンとして参加していたので面識はあったんですが、特に親しかったというわけじゃなくて…。ただ、蜷川さんがプライベートで撮った写真を見せてもらったときに『蜷川さんの写真が動き出したら面白いかもね。映画を撮って欲しい』みたいなことを話したことがあったんです。それから何年か間を置いて昨年、三池崇監督の『46億年の恋』という作品に出ることになって、番宣の写真を蜷川さんに撮ってほしいってオファーしました。その時はまだ蜷川さんが映画を撮るなんて知らなくて、何気なく『蜷川さんの和物の映画が見てみたいな』って話をしていたら、実はね…と『さくらん』の話を聞いたんです」
蜷川実花(監督)を筆頭に、安野モヨコ(原作)、椎名林檎(音楽)、土屋アンナ(主演)という女性が憧れる豪華アーティストが揃った『さくらん』は、女性の“かっこよさ”を追い求めた煌びやかなエンターテインメント。その中で安藤さんは、ヒロイン・きよ葉(日暮)をずっと支え見守る男、清次を演じている。
「ずっと1人の女性を見守り続けるという、ある意味“大人”な役ですよね。一歩引いて芝居をすることは今まであまりなかったので、新境地でした。僕にとって蜷川実花さんは尊敬するフォトグラファー。だから、蜷川さんが監督するなら──それだけでオファーを受けたいと思ったんです」
フォトグラファー蜷川実花が切り取ってきた独特の世界観、特異な色彩美は、もちろん映画にも存分に映し出されている。「私の人生は、すべてここに向かう為に進んできた」と彼女が何かに導かれたように、俳優・安藤政信もまた蜷川実花の放つ何かに導かれたようだ。蜷川監督の印象については──
「お父さん(蜷川幸雄)が演出家なので、芝居の本質を知っているんでしょうね。だから、初監督といってもすぐに演出のできる人だった。あと、すべてのビジョンが明確に見えているのですごくやりやすかったですね」
そのビジョンを再現するために、まるごと一軒、江戸時代の遊郭がセットで作られ「最初に郭を見たときは、すごい高揚感があった」と驚きを語る安藤さん。テーマパーク並の華やかな舞台、ゼブラ柄などの現代デザインを取り入れた衣装など、隅々まで“ガールズパワー”を感じる美術セットで演じることはどんな気分だったのだろう。
「もともと男っぽい作品が好きなので、正直こういう作品は今までタイプではなかったんです(苦笑)。だから、蜷川さんの持つ女性の感性を受け入れることで、いつもと違うことに挑戦できた。ほんと、清次を演じることができてよかったなって。よく映してもらえて…蜷川監督の愛を感じましたね」
また、遊郭で繰り広げられる遊女同士のバトルも見ごたえあり! いじめ合い、けなし合い…逞しく生きる女性たちの魅力について訊いてみた。
「遊郭の女性はお客の前で花魁を演じている──だから、花魁は女優そのものなんじゃないかなって思ったんです。もちろん、そこで繰り広げられる女性独特の恐ろしさは感じましたけどね。一番きれいだと思ったシーンですか? そうだな…やっぱり、花魁と客との絡みのシーンはどの女優さんもきれいだと思います」
そんな蜷川ワールドに魅了され、クリエイターとしても刺激を受けたと話す。
「自分も作品を撮ってみたいと思っている人間なので、改めて蜷川さんはすごい人だなと思いました。監督は予算をはじめ何から何まですべての責任を負う立場。そこに飛び込む勇気は本当にすごい。自分にはまだその勇気はないですね」
と言いつつも、すでに『SF/Short Film』の短編『アダー・ジェット(ものすごくゆっくりと)』(03)では監督デビューを果たしている安藤さん。表現者として、また作り手としてますますその活躍が気になる俳優なのである。
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