事件の真相の衝撃に匹敵する恐怖とは? 『パーフェクト・ストレンジャー』
“あなたは絶対騙される”という挑発的な謳い文句に「騙されまい!」と思わず身構えて観てしまいそうだが、誰が犯人かという真相だけが『パーフェクト・ストレンジャー』の見どころではない。
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
ハル・ベリー扮する主人公のロウィーナは、幼なじみの死の謎を追い、最有力容疑者である広告代理店経営者に近づく。だが、事件を追えば追うほど、彼女の味方であるはずの同僚や無関係に見えた恋人など、意外な人物が容疑者として浮かび上がってくる。
ある本に「恐怖とは、全く未知のものに対峙したときではなく、よく見知っているものが、自分の認識とは異なる姿を見せたときに感じるものである」とあったが、この映画で提示されるのは、まさにそんな恐怖。捜査の過程で、彼女がよく知る人物がかぶっていた仮面が剥ぎ取られ、裏の顔が露わになっていく。だが、本当の姿を知ることは、その人物との距離を縮めることを意味しない。むしろ知れば知るほどに“違和感”という名の距離と恐怖が生じ、ロウィーナは“見知らぬ他人”の輪の中に突き落とされていくのだ。
ロウィーナもまた、容疑者に近づくためにネット上に偽名のアカウントを持つことで、自ら“他人”になりすまそうとする。パソコンを「私のお守り」と言う彼女のセリフが象徴するように、全編を通じてインターネットが大きな役割を果たす。しかし、本作が提起するのは“ネット社会における匿名性の持つ危険性”といった単純な問題ではない。ネットによって、人々が秘密や嘘を持つ手段が増大したのは事実だが、そもそも秘密や嘘を持たない人間などいようはずもない。ここで脅威をもって描かれるのは、我々は、誰もが持っていて然るべき暗部をも暴く手段を手に入れてしまったという事実である。
よく知る身近な人々の、知る必要のなかったはずの本性。知ってしまえば決して前と同じでいることはできない——。物語を通じて描かれるこの“よく見知ったはずの存在が見せる異形”という恐怖は、ラストで明らかになる真犯人や事件の真相の衝撃に勝るとも劣らないインパクトをもって、我々の心に迫ってくる。
《シネマカフェ編集部》
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