【東京国際映画祭レポートvol.34】外見と内面の矛盾を描く『迷子の警察音楽隊』
イスラエル・アカデミー賞で作品賞、監督賞を始め8部門、イスラエル・エルサレム映画祭でも作品賞、男優賞ほか4部門、カンヌ国際映画祭でも、ある視点部門に出品され、“一目惚れ賞”、国際批評家連盟賞などなど、各国の映画祭で総計23もの賞を受賞している『迷子の警察音楽隊』。東京国際映画祭でもコンペティション部門に出品された本作のエラン・コリリン監督(写真右)、主演のサッソン・ガーベイが記者会見を行った。
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本作は90年代のイスラエルを舞台に、文化交流の演奏旅行でイスラエルを訪れたエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊が、目的地にたどり着けず迷子になる話。その迷子になった先での人々との交流を描いている。「この映画について考えたとき、最初に頭に浮かんだのが、ユニフォームをきたいかめしい男が口を開くとアラブの歌を歌う、というイメージでした。外見は大変いかめしく、そして抑制の利いた物静かな男、しかし彼の心の内にはドラマがあり、ペーソスがあり、それが外に出てこようとしている。そうしたコントラストを映画の随所に散りばめたかったんです」と本作について語る監督。その“外見はいかめしい男”、トゥフィークを演じたサッソンは、「私はこの映画に参加できて本当に嬉しく思っております。監督が誘ってくれたことを感謝しています。この映画は私自身の人生、そして舞台の仕事、そしてまた映画の仕事といったものの集大成ともいえる作品なんです。私はイラクで生を受けたユダヤ人です。3歳の時に両親に連れられてイスラエルに移住しました。アラブ文化というものは私には大変なじみ深いものです。ですからこの映画でそれを体現できることは私にとって大変名誉あることでした」と本作への出演について語ってくれた。
警察隊がたどり着いた街は、自分たちとは言葉も宗教も違い、しかも歴史的に対立してきたユダヤ民族が暮らす街。会話もかみ合わず、ぎこちない空気が漂うが、そんな彼らをつないだのは音楽だった。ジャズの名曲「マイ・ファニー・バレンタイン」や名トランペッター、チェット・ベイカーの音楽が劇中を彩る。選曲について監督は、「イスラエルとアラブの音楽には大変な重み、あるいは何かを想起させる要素があります。ですから、観客に何も想起させたくないシーンでは、例えばアメリカの音楽を使いました。カーレドというキャラクターが登場するシーンではチェット・ベイカーの音楽を多く使っています。それはカーレドという人物が現実を忘れて男のファンタジーといったものを生きる瞬間がたくさんある人物で、そういう雰囲気に似合う音楽だと思ったからです」と説明する。
また、サッソンも「ヘブライ語の歌、そしてアラブ語の歌などが、かなり混然としている映画です。それ以外にもジャズやほかのジャンルの音楽があちこちで使われています。映画では音楽と音楽のジャンルの間を仕切っている壁のようなものが、だんだんなくなっていく、ということに気づかれる方も多いのではないでしょうか? ある歌がジャズっぽく始まり、そしてアラブのテーマに入っていって、最初とは違う終わり方をする、もしくはその逆など、そういうことがたくさんあったと思います」と音楽について語ってくれた。
ユダヤの地にアラブ人が迷い込むという、政治的に難しい状況でありながらも、可笑しくチャーミングで、心温まる物語『迷子の警察音楽隊』は12月中旬よりシネカノン有楽町2丁目ほか全国にて順次公開される。
「東京国際映画祭特集」
http://blog.cinemacafe.net/tiff2007/
《シネマカフェ編集部》
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