ファッション小噺Vol.69 “女ぢから”を感じる『ラスト、コーション』
年が明けて、ハリウッドではそろそろアカデミー賞の香りが漂ってきました。注目度からすれば、アカデミー賞を誰が、どの作品が獲得するのかが映画界最大の話題とも言えます。でも、映画好きにしてみれば、アカデミーだけがお祭りじゃない! 昨年も、世界各国で様々な映画祭が行われ、多くの映画賞が発表されてきました。
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
そんな中、ファッションという視点から気になったのは、『ブロークバック・マウンテン』のアン・リー監督最新作『ラスト、コーション』。2007年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)、オゼッラ賞(撮影賞)のダブル受賞を果たしている作品です。
1942年、日本占領下の上海を舞台に、抗日運動に身を投じた美しき女スパイのウォンと、傀儡政権で特務機関上層部・イーとの、禁断の愛を描いたエロティックな愛のドラマ。好青年のイメージが強いトニー・レオンと、清純派の新人女優タン・ウェイが魅せる挑発的な超大胆セックス・シーンがあまりに衝撃的なので、そこにばかり注目が集まりがちですが、丁寧に描かれた心理描写もさすが秀逸。禁断の恋を描いた美しき愛の物語という点では、傑作『ブロークバック・マウンテン』と対を成す作品と言えるでしょう。
そんな作品ですが、衣裳も注目ポイントのひとつ。まず、40年代のクラシカルな欧米ファッションと、中国文化色濃いチャイナドレスの融合が美しい。どちらも、女性の体の線を意識したなだらかなラインに色気を感じます。今のように、“ボディラインを隠す”という楽ちんファッションが全く認められていない時代であるだけに、着る側の女性たちにも緊張感が。体に合わせて仕立てられた服は、ちょっと増量すればピチピチになり、もうちょっと増量すればボタンがとまらず着られなくなる。しかも素材は、今人気のジャージ素材などと違って、全く伸縮性のないものばかり。つまり、デザインと素材の性格上、姿勢を崩せば息苦しくなる…。こうなれば、外出時の緊張感は相当なもの。きっちりとセットされたヘア&メイク、しっかりとヒールのあるパンプスも忘れずに追加。隙など一切見せないのです。
露出も極度に少なかったわけで、その分だけ、男性たちにとっては“脱がせる喜び”というのもあったはず。そのあたり、トニー・レオンが説得力ある演技で立証してくれています。
好みはどうあれ、女性たちが美しく装っていた20世紀前半の女性像に憧れを抱いている男女は多いものです。クラシカルな美しさが今も多くの人々を魅了してやまないのは、あの頃、女が今よりももっと女性であることを強く自覚し、“女ぢから”を増強させていたからかもしれませんね。
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