世界の映画館vol.12 カトマンズ「指笛のタイミングが分からない!」
この人たちは仕事をしていないのだろうか。旅行者の僕に言われたくないだろうが、平日の午後2時である。それにもかかわらず、映画館の前には100名以上の若い働き盛りともいえる男どもが列をなしている。日本のように決して営業マンがサボりに来ているわけとも違うのである。
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40ルピー(約80円)という世界の映画館の連載が始まって以来の安さもこれだけ集客できる秘訣なのかもしれない。さっきビールのつまみに食べたカトマンズ名物のMOMO(水餃子)と同じ値段である。ちなみにビールは120ルピー程度(約240円)と映画の3倍もするのである。
いろいろな値段と入場料を比較している間に開場した。後の席の方がいい席であるというのは、ほかのアジアの国々とあまり変わりはない。後ろの方の席から埋まっていく。そして、ギッシリ埋めつくされていく。外国人がネパール映画を観に来たと係員が喜び、僕のために一番後ろのセンターの席を空けておいてくれた。普段、試写室でも映画館でも一番、前の席に座る僕だが、今日ばかりは、ネパールの最高の席で拝見することにする。
映画自体は8ミリ映画の学生の自主製作の映画を観ているような感じである。地元で撮っているため、カトマンズの知っている場所が登場すると、「あっ! 加藤君の家の前だー」的な感じで誰かが言って笑うのである。
そして、主人公のヒーローが登場すると指笛の嵐である。インドの映画館で予想していて、肩すかしをくらった鑑賞法がカトマンズに残っていたのだ。ただ、この指笛を鳴らすタイミングが徐々にわからなくなってくる。ヒーローが登場しても鳴らないときがあるし、逆にヒーローじゃなく、ヒーローの恋人が、街を走るシーンだけなのに指笛が鳴るときがある。休憩中に誰かに聞こうと思ったのだが、どう聞けばいいのか? 悩んでいるうちに後半が始まってしまった。ラストシーンで、ヒーローが一旦、フラレた女性と再び、ヨリが戻るときの僕も一緒に指笛をやろうと思った。しかし、気がついた。僕は指笛が鳴らすことができないのだと。
(text/photo:ishiko)
《シネマカフェ編集部》
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