世界の映画館vol.16 ビリニュス「元ソ連というよりはヨーロッパの感覚」
無知な僕は、リトアニアというと元ソ連というイメージが強く、どこか社会主義の匂いのする街を想像していた。しかし、首都のビリニュスを何日か散歩している間に、これは違うぞと思い始める。街中にはソ連の面影を残す銅像や看板の姿は残っているものの、人の考え方やカルチャーは、ソ連というよりヨーロッパに近い感覚の国なのだ。
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
ビリニュスの語源にもなったと言われるビリニャ川のほとりを散歩していると映画館を見つけた。受付でポスターを指差し、8リタス(約400円)を支払った。どうやらフランス映画のようだ。しかし、40代後半になる受付の彼女が言っていることが全くわからない。リトアニアはすでに第二外国語が英語になって久しいが、80年代まではロシア語だった。そのためか中年以上の方はロシア語は分かるが、英語が全く分からないという人が多いのだという話を聞いたのを思い出した。ここに数少ないソ連統合時代の名残がある。
結局、映画のチラシと僕のメモ帳で、彼女とのコミュニケーションを取る。わかったことは、現在、この映画館はフランス映画週間であること。僕が選んだ映画は明日の夜、上映だということ。えっ? 明日の夜? というわけで翌日、もう一度、この映画館にやってきた。早めに到着し、ロビーのカフェでコーヒーを飲みながら、絵葉書を書いていた。書きながら、ふと思った。客席の入口ってどこなのだろう? 受付の女性の元に行って、また格闘するか。それとも、もう少し待ってほかのお客が来たら彼らについていくか。コーヒーで完全にリラックスモードになった僕は、後者の選択を選んだ。20分くらい経っただろうか。僕の座っていた席の隣の扉から、どんどん人が出てきた。えっ? ここが入口なの? どう考えても従業員の控え室の扉である。しかし、ここが入口であった。カフェの中を通って入る劇場。そのためかカフェで料理を注文して、そのまま持ち込む客もいる。気づけば約100席の客席は、どこか文化度の高さが漂うリトアニア人で全ての席が埋まっていた。
(text/photo:ishiko)
《シネマカフェ編集部》
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