秋、しっとり香る女の色気vol.2 スカーレットに何が起こったか
若手ハリウッドスターの中でも、一、二を争うほどに色っぽい女優と言えば、スカーレット・ヨハンソンでしょう。8歳でショービジネス界にデビュー。10代の頃から、妖艶な眼差しと気だるさで群を抜き、注目されてきました。当然ながら、これまで演じてきた役は、ファムファタール的なものばかり。そうなると、実際の彼女も「小悪魔なのかな…」と考えてしまうのが人の常。20代になったばかりのときに流れた、親子ほど離れた年齢の男性たちとの恋のうわさや、妙に大人びていて生意気な発言も、そんなイメージに信憑性を与えていました。
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若さと、熟年のような大人っぽさの共存が創作意欲をそそるのか、有名監督たちのお気に入りでもある彼女。ウディ・アレンなどはかなりメロメロ。彼女をベタ褒めし、『マッチポイント』に続く『タロットカード殺人事件』でも彼女をキャスティング。新作『ヴィッキー・クリスティーナ・バルセロナ』(原題)では3度目のコラボレーションも果たしたほどです。俳優としてだけでなく、監督としても名高いロバート・レッドフォードは『モンタナの風に抱かれて』ですでに13歳の彼女を青田買い。コーエン兄弟は『バーバー』で、ソフィア・コッポラは『ロスト・イン・トランスレーション』で彼女を起用。誰もが彼女を高く買っているのはご存知の通りです。
ハリウッドのクラシカルな美女を思わせる豊かな曲線も彼女の魅力。痩せ過ぎ体型を崇拝するハリウッドにいながら、グラマラスなボディを自慢にする独自の価値観もあっぱれ。彼女の体型は163cmの身長に、体重54キロなのだとか。なんだか親しみがわきますね。『ロスト・イン・トランスレーション』のオープニングでアップになった豊満なヒップについても、とあるインタビューで、“自前”であることを明かし、「自慢のお尻なのよ」と誇らしげに語っていましたっけ。堂々と、自分のことを愛せる彼女は、女性から見ても色気たっぷりです。
役柄と、演じる役者とは別人格。それは分かっているけれど、男性を誘惑するフェロモンむんむんの役をスカーレットが演じると、あまりにハマりすぎてしまって、それが彼女の素顔のような気がしてしまうほどでした。
ところが最近になって、実は彼女はそれほど小悪魔でもないのかも、と思わせる仕事が立て続けに発表されています。まずは『ブーリン家の姉妹』(写真上、右上)。ここでは、ダイレクトなお色気を封印。ヘンリー王に一目惚れされながらも、その寵愛を負けん気の強い姉に横取りされてしまう妹を演じています。これまでのイメージでは、どう考えても、愛を横取りする姉の方がスカーレット向きの役なのですが、いったい彼女に何があったのでしょう。
凝り固まってしまったパターンを打ち破りたいのか。新境地を切り開きたいのか。いずれにしても、その試みは大成功。じっと耐えるスカーレットもなかなか良いのです。悲しみは内に秘め、家族への愛のために私利私欲を封じ込めようとするさまに、女の強さを感じます。たいていの場合、強い女というものは、肝っ玉母さんを思わせる、色気とは対極にありそうな存在。しかも、父親の命令に従わされて、望んでいない道を歩まされたり、男を姉に取られたりと悲壮感が漂っているので、かわいそう過ぎる人でもあります。だから、一歩間違えば、色気を感じるというより、同情を覚えてしまいがち。ですが、スカーレットは、“耐える女”の要素をうまく取り入れて、極度に色っぽい女性像を作り出しました。ダイレクトに色気をかもし出すのではなく、迂回する。これは、スカーレットの新境地かもしれません。
「スカーレットに何があったのか?」という疑問は、『私がクマにキレた理由(わけ)』(写真左)で見せるコメディエンヌぶりからも生まれてきます。演じるのはごく普通の女の子。気だるさ満点、とろんとした瞳と、半開きのくちびるで、男性を翻弄していた少女も、いまや5歳児に振り回されるナニー(幼児保育のプロ)役にまで挑戦し、またまた新境地を切り開いているのです。『マッチポイント』で見せた、“不倫の果てに妊娠してしまった女”のキレ具合も滑稽で面白かったけれど、今回のコメディ演技は、フィジカルなズッコケもあって本格的。もしかして、コメディ演技が見事にうまく行ったのは、TVドラマで人気になった婚約者ライアン・レイノルズの影響もあったりして。
とにもかくにも、息の長い演技者であるためには、幅の広さは欠かせない要素。強すぎた小悪魔のイメージを、ほんの2作で払拭したスカーレット。きっと、今後も良い意味で期待を裏切っていってくれることでしょう。
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