「映画を観ながら自分の場所を見つけてほしい」ダルデンヌ兄弟が語る『ロルナの祈り』
偽装結婚、マフィア、ドラッグ。『ロルナの祈り』が扱うのは、ハリウッドならサスペンス・アクションの大作に仕立て上げそうな題材だ。そこから、こんなにも静かで、同時に観る者の心をわし掴みにする作品を生み出したのはジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟。示し合わせたわけでもないそうだが、質問には必ず兄弟が交互に答える。まず弟のリュックが口火を切った。
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「ハリウッド映画は、ひとつのストーリーにさらに何層もストーリーを重ねて、畳みかけるように作っていきます。私たちの場合は、クローディが死ぬか、死なないか。ファビオがロルナを消すか、消さないか。そして、ロルナ自身はどうするか——元の彼女に戻るのか、それとも変わっていくのか。この3つのポイントでもう十分だと思ったんです。それ以上のことを描こうとすると、ロルナの愛と道徳の問題が消えてしまう。最後にロルナは、自分が愛した男性が誰なのかに気づきます。彼に対する愛を存在させるためには、罪の意識を持たなければならない。つまり、真実を語らなかったことに対する罪悪感です」。
昨年のカンヌ国際映画祭で脚本賞に輝いた本作は、『ロゼッタ』、『ある子供』をはじめとする過去作同様、あるいはいつにも増して、説明的な描写を省いている印象が強い。兄のジャン=ピエールは「それは私たちが観客の位置に気を遣っているからです」と語る。「観客も、自分の場所を映画の中に見つけなければなりません。噛み砕いて消化されたものを受け取るだけの存在であってはならないのです。登場人物の軌跡をたどりながら、観客も自分の道をたどって自分自身の場所を見つけるということが重要です」。
ヒロインのロルナは、新天地を求めてアルバニアからベルギーへ来た。国籍を得るためにタクシー運転手のファビオの手引きで、麻薬中毒者のベルギー人男性・クローディと偽装結婚している。同郷の恋人とバーを開く夢を持つロルナは、さらに国籍売買のビジネスに彼女を利用しようとするファビオに言われるまま、クローディを死なせて“未亡人”になり、今度はロシア人男性と“再婚”する計画を実行に移し始める。
「ロルナに対して観客が共感をすることもとても重要でした。彼女はとらえようのない存在ですが、人間として厚みがある。観客が共感を持つことに私たちは賭けているのです。映画は裁判ではありません。登場人物たちの冒険に参加をし、そこで起きる事件を自分で再構成していくのが観客です。我々が善悪を振り分け、映画を裁判所にするつもりはありません。登場人物それぞれが素材としての可能性を持っていることが重要です。だから、説明的な状況が出てこないんでしょうね」(リュック)
ロルナを演じたのは、アルバニアの隣国でコソヴォ共和国出身のアルタ・ドブロシ。
「私たちのアシスタントがアルバニアに行き、100人ほどの女優を撮影してきたビデオの中にアルタを見つけました。サラエボまで彼女に会いに行き、テストしました。彼女の内面にロルナになりきれる可能性があることを感じ取ったのです」(ジャン=ピエール)
撮影は、これまでの作品と同じく、シナリオに沿った順撮り。そこにはこだわりがある。
「このやり方なら、私たち自身が自分たちの映画をよりよく感じとることが出来ます。最初の頃に撮ったシーンを2週間ほどしてから撮り直すこともあります。順撮りをしているからこそ、そういう工程を経ることも、ラストを変えたりすることも可能なんです。俳優も順撮りを好みますね」(リュック)
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