岡田将生「これまでにない役」に悩みつつ、軽やかに重力を振り切る!
“春”という役名がよく似合う。フワッと無垢な笑顔とユーモアで周囲を和ませたかと思えば、こちらの質問に真剣な表情を浮かべ、悩み、ゆっくりと答えを紡ぐ。「掴みどころがない」と言うと語弊があるかもしれないが、どこからが素で、どこからが“俳優”なのか、簡単にこちらに掴ませてくれない。2009年だけで4本の出演作が公開される岡田将生。中でも、当代一の人気作家・伊坂幸太郎のベストセラー小説を原作とした『重力ピエロ』は、映画化決定が報じられた当初から、誰が春を演じるのか? どのような作品に仕上がるのか? と世間の期待と注目を集めてきた。果たして岡田さんが春に込めた思いとは——。
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好きな登場人物だからこそ感じた葛藤
これまで、役を演じる上でそのキャラクターに対し、何らかの感情を持って接してきた、という岡田さんだが、今回の春という役を前にして感じたのは、好悪といった感情を超える“分からなさ”と困惑だった。
「伊坂さんの原作は読んでましたし、春はすごく好きなキャラクターでした。だからこそ『自分でやりたい』っていう気持ちと、伊坂さんの世界を壊したくなくて『やりたくない、嫌だな』という両方の気持ちがありました。でも実際演じるに当たっては、好きとかいう気持ち以前に、春ってどんな男か自分の中でイメージ出来なかった。正直、いまでも分からないですよ。この先ずっと、一生答えが出ないままなのかも。普段から僕は“役作り”って呼ばれるものが、どういうことなのか分かんないんですよ(苦笑)。でも今回に関しては、この役が、これまでの役とは全く違うものだということは少なくとも感じました」。
では、実際にどのように現場で撮影が進められていったかというと「全てのシーンで必ず監督と話し合った」とのこと。
「本当に細かい部分まで話をしましたね。『ここはこういう感じですか?』、『こうですか?』って正解のないやり取りを繰り返して作っていきました」。
撮影を通して、春の最大の理解者である兄の泉水を演じた加瀬亮さんからも相当な刺激を受けた模様。劇中では、天衣無縫な春が泉水の生活を引っかき回し、引っ張る姿が見られるが…。
「加瀬さんを引っ張るだなんて『何年早いんだ?』って話ですよ(笑)! いや実際、映画の中で春として泉水を散々引っ張っていながら、自分の中ではそんな感覚は全くなかったです。現場では、本当にくだらない話もしましたし、『このシーン、どう考えてる?』とか『こういう風でも良いんじゃないか?』って次に演じるシーンについて話し合うこともありました」。
「世間のイメージを裏切りたいという気持ちは常にあります!」
「正解が分からない」という言葉は、役柄と作品に真摯に向かい合う姿勢の裏返しと言える。実際、各シーンに話が及ぶと、言葉に力がこもる。
「葛城(渡部篤郎)と対峙するシーンは、どんな顔をすればいいんだろうって悩みました。もちろん憎しみはあるんですが、同時に哀しさもあるんじゃないかって思うんです。憎悪と共に哀しさを背負う演技というのは初めてのことで、難しかったですね。(葛城に対する)個人的な感情としては本当に憎たらしくて、ムカつきましたよ。もし自分が春の立場だったら、どうしてやろうかってくらい!」
岡田さんのこの言葉に思わずうなずいてしまうほど、春や泉水とは正反対の価値観を持って生き、映画の中でいわば人間の持つ“悪意”を体現する人物として無類の存在感を放つ葛城。逆に、こうした人物を演じてみたい気持ちは? と話を振ると即座にイエスという答えが返ってきた。
「僕自身、相当憎たらしい人間なので(笑)、そこを表現できれば面白いかもしれない。世間のイメージを常に裏切っていきたいという気持ちもありますね。そこを気にし過ぎる気もないですが。『俺だってオナラするんだぜ!』ってことを分からせたり(笑)、ド変態の役を演じたりしてみたいです」。
「重力ピエロ」のみならず、伊坂さんの作品はほとんど読んでいるという岡田さん。インタビューの最中に、同氏の初期の名作「ラッシュライフ」が映画化(※6月13日公開)されるとの知らせを聞くや「本当ですか?」とショックを受けた表情を見せ、そうかと思えば、すぐに「この取材が終わったら、道端の人でも何でもいいから出してくださいって立候補しに行こうかな」とニヤリ。まさに劇中の春さながら、軽やかに重力を飛び越えるさまを垣間見せてくれた。
《photo:Hirarock》
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