岩井俊二監督インタビュー N.Y.のダコタハウスが『リリイ・シュシュ』に影響
その街は多くの人々を魅了し、また惑わし、時に温かく迎え、時に冷たく突き放す——。人も、出会いも、別れも愛も悲しみも…その全てを包み込む街、ニューヨーク。そびえ立つ摩天楼のはざま、公園、街角、バーなど、この街のどこかで生まれる様々な“愛”を世界各国から集まった監督たちがオムニバス形式で綴った『ニューヨーク,アイ ラブ ユー』。唯一、日本から参加となったのは海外にも多くのファンを持つ岩井俊二監督。ジョン・レノンゆかりのダコタハウスを印象的なロケーションとして使った作品で一編を担っている。岩井監督はニューヨークで何を思い、どのようにこの作品を作り上げていったのか? 映画の公開を前に話を聞いた。
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岩井監督の作品に出演しているのは、オーランド・ブルーム&クリスティーナ・リッチという日本でも高い人気を誇る2人の俳優。互いに直接会ったことはない、仕事上のつながりだけの関係の男女の、携帯電話を通じてのコミュニケーションが軽妙に描かれる。この一編を引き受けることになったきっかけは、この作品のプロデューサーから届いた一通のメールだった。
「ごく普通にメールが届いたんです。『こういう企画をやってるんだけど参加しませんか?』と。それで『じゃあやります』って。メールで依頼が来ることは多いですよ。今回に関して言えば、実際にニューヨーク入りして撮影が始まるまでは全て電話とメールのやり取りだけでしたし。まさにこの映画と同じ(笑)。直接会わずにメールと電話だけで仕事が進んでいく感じでした」。
オーランドの起用に関してもひょんなきっかけから決まった。
「僕はハリウッドの俳優さんは詳しくなくて、プロデューサーやキャスティング・ディレクターにいろいろ見せてもらったり紹介してもらったりしてて…。そんなことを繰り返してるうちにたまたまオーランドに行き当たったんだけど、実は彼はすごい親日家で、僕の以前の作品も観てて、すごく気に入ってくれてるということだったんです。最初はスタッフたちも『こういう内容の作品だし、キャストは大スターじゃない方が…』とか言ってたのに、オーランドがっていう話になった途端、女性スタッフは『キャー!』って(笑)。それから喫茶店で彼と会って話をして、すでに彼は役作りの話までしてくれてました。(印象は)猪突猛進型で、男らしいタイプですね(笑)」。
岩井監督の本作に対するスタンスは「自然体」。本作の原案となっているパリを舞台にした『パリ、ジュテーム』を引き合いに出しつつ、監督はこう語る。
「今回作るに当たって考えたのは、肩に力を入れずにフッとボールを投げようということ。個人的に、『パリ、ジュテーム』は18人の監督たちが18分の1の中で何とか特徴を出そうとユニークさを追求したのかな、と。ともすればそこに力みを感じなくもない気がして——。だから僕は力を入れずに自然体を心がけたんですが、完成した作品観たらほかのどの作品も全く力みがなくて同じ球筋でしたね(笑)」。
では、その中で特に気に入っているのは?
「個人的にはブレット・ラトナー監督の撮った車椅子の女の子の作品(アントン・イェルチン、オリヴィア・サールビー出演)が好きですね。まさに力が入ってない、いい感じの展開の物語でした」。
監督はこの作品以前にニューヨークに1か月ほど住んでいた経験があったということだが、監督にとってこの街はどんな街なのだろうか?
「自分にとって一番思い出深いのはダコタハウス。ここでジョン・レノンを殺したチャップマンという男についてのルポルタージュを読んだことがあって、すごく印象に残ってたんです。彼はポケットに『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー著)を入れてるんだけど、『ライ麦畑』にもニューヨークが出てくる。ジョン・レノン殺害までの数日間、町をうろつくさまが(小説の主人公の)ホールデンと重なって…。自分で実際に(ダコタハウスに)訪れてみると、ただの場所でしかないんだけど、すごく(自分の中で存在が)大きくて。その後に作った『リリイ・シュシュのすべて』にもすごく影響を与えましたね」。
最後に、もし監督が東京でこうしたオムニバスを撮るとしたら、どこを舞台にどんな物語を作るか聞いてみた。
「どこだろう…恵比寿とか目黒かな? 深い意味はないんですが慣れ親しんでいて、好きな街なんです、渋谷から少し離れていて…。等身大の気張らない物語を撮ると思います」。
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《シネマカフェ編集部》
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