『ウルフマン』ベニチオ・デル・トロ インタビュー “初変身”を鏡で見ての感想は…
ハリウッドを代表する演技派ベニチオ・デル・トロは、名声を手にしたいまでも挑戦し続けている。役者としてそれは当然のことではあるが、演技力を認められるほどハードルは確実に上がる。挑戦し続けることは意外と難しいものだ。『トラフィック』('00)でアカデミー賞助演男優賞を、『チェ』ニ部作('08)でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞した彼が新たに挑むのは、世界中で語り継がれている伝説の物語「狼男」を題材にした『ウルフマン』。ハリウッド映画界の重鎮でありオスカー俳優のアンソニー・ホプキンスが主演を務めるこのサスペンス・ホラーで、呪われた宿命を背負う男・ローレンスを演じている。元々、野性的な色気のあるデル・トロにとって絶好のはまり役となった。
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『チェ』ニ部作でプロデューサー業を経験したデル・トロは、今回も製作に名を連ねている。そして「狼男」との出会いは35年以上遡ると話し出す──。
「6歳くらいからこの企画はあったと思うんだ。というのは、僕の記憶の中で一番最初にタイトルと俳優の名前を覚えられたのは『狼男』('41)のような往年のホラー映画。その頃は自分が俳優になるなんて夢にも描いていなかったけれどね」。
オリジナルの『狼男』の大ファンであるという彼の家にはロン・チェイニー・Jr.の顔がアップの『狼男』のポスターが飾ってあり、それが21世紀版『狼男』のきっかけとなった。
「いまでは伝説のようになっている話なんだけれど、『ウルフマン』のプロデューサーのひとりのリック・ヨーンは僕のマネージャーでもあって、彼の一言からこの企画はスタートしたんだ。ある日、リックが僕の家に遊びに来ていたとき、オリジナルの『狼男』のポスターを見て、僕を見て、映画会社に『狼男』のリメイク企画を持ち込んでみようかと言い出した。きっかけはどこにでも転がっているということだね」。そのときのデル・トロの顔がヒゲだらけだったため、彼がポスターの狼男と重なって見えたというエピソードだ。ワイルドで彫りの深い顔は確かに狼男似と言えるかもしれない。
だが「それまで面と向かって(狼男に)似ていると言われたことはなかったんだ。陰で言われていたかもしれないけどね(笑)」と、微笑む顔からは、あの恐ろしい狼男の形相は想像し難い。しかし、特殊メイクの第一人者として活躍するリック・ベイカーの手によってデル・トロは満月の夜、獣に変身することになる。変身に要するメイク時間はなんと4時間!
「鏡の前で徐々に狼男になるまでを見ていたわけだけれど、初めて完成した姿を見たときは、僕の飼っているセントバーナード犬に似ていると思ったよ(笑)。格好いいとも思った。ただ、狼男になるまでの4時間は楽しくても、元に戻るまでの2時間は楽しくない。この特殊メイクは各パーツを顔に貼りつけているから、撮影が終わると2時間かけてそれを剥がすんだ。しかも、ほかのみんなは家路についているのに、僕とメイクのスタッフだけが広いスタジオに残されてさ。そのときばかりはリック・ベイカーを殺したくなったね。まさにウルフマンの気分だったよ(苦笑)」。
CGI全盛期のこの時代に敢えて手間ひまかける手法を選ぶ。それはデル・トロのオリジナルへの愛、いかに『狼男』という映画を愛しているかの証でもある。
「オリジナルを彷彿させたかったから敢えてスタントの部分もCGIを使わないようにしたんだ。手作りの感覚を大切にしたくて。とは言ってもローレンスが徐々に狼男に変身していく過程と四つ足で走るシーンはCGIを使っているけれどね」。元々ある重厚なクラシカルさに輪をかけ、特殊効果とCGを組み合わせることで、往年の名作がバージョンアップしたというわけだ。
そして、何よりも物語の奥深さ──ホプキンスの演じる父・ジョンとデル・トロの演じる息子・ローレンス、この親子の悲劇を軸にローレンスの心に住む暗黒部分が徐々にえぐり出され、中盤からはローレンスと彼が想いを寄せるグエンのロマンスが加わる。ラブストーリーの要素も見どころだ。デル・トロ自身もその展開がオリジナルとは違う『ウルフマン』らしさだと語る。
「(主軸となる親子のストーリーに)付け足したようなラブストーリーではないこと、それも気に入っているよ。オリジナルにもロマンスは含まれていたけれど、今回はそれを広げることたできたからね。美女が野獣を助けようとする姿をエミリー・ブラントがよく演じてくれたと思う。この映画は大きな何か(テーマ)がポンとひとつ横たわっているのではなく、ところどころに宝石が散りばめられている、そういう映画だと思っているんだ」。
もちろん、ベニチオ・デル・トロ自身も宝石のひとつと言える。愛して止まない『狼男』を自分の手でリメイクし、名優アンソニー・ホプキンスと共演することで新たな一面を見出したこの『ウルフマン』は、挑戦的な1作と言っていいだろう。
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