『チェブラーシカ』中村監督×原作者ウスペンスキー 国境を越えた傑作誕生の秘密
ロシアの国民的な…いや、すでに日本でもその愛らしい容貌は十分におなじみと言えるだろう。大きな耳を持った不思議ないきものチェブラーシカが再びスクリーンに帰ってきた! しかも今回の映画版『チェブラーシカ』でメガホンを取ったのは日本人監督の中村誠。オリジナル作品への敬意を込めて製作された旧作のリメイクに、新たなキャラクターを加えた全く新たな物語。このほど、本作の公開を記念して中村監督と原作者のエドゥアルド・ウスペンスキーの対談が実現した。
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まずは中村監督に質問。“国民的アニメーション”という言葉が大げさでもなんでもない、ロシアで深く、深く愛されたこの作品を監督する上で重圧もあったのでは? どのような思いで本作に臨んだのだろうか。
中村:すごいプレッシャーはありましたよ(苦笑)。でも、ロシアであれ日本であれ、根っこの部分での思いは一緒だと思っていました。昔の人たちが作ったものをきちんと守りつつやっていけば大丈夫だ、と自分に言い聞かせながらやってました。いま、やはり他人に対して無関心になっている部分というのがすごく多いと思うんですよ、社会全体として。でもこの作品で描かれているのは、ワニであれなんかよく分からないいきものであれ(笑)、仲良くしようっていうメッセージ。それを伝えるのはいま、必要なことなのかな、と。
ウスペンスキー氏には自分が作った、しかも自国民にこれだけ愛された作品を海外のスタッフの手に渡すことに不安はなかったのだろうか?
ウスペンスキー:私自身はなかったですよ。日本からとっても魅力的な方たちがいらして、非常に興味深いお話をしてくださった。正直、私は1日目で「この人たちになら任せられるな」と思ってました。ソ連の崩壊でロシアのアニメーション製作は崩壊していましたから、とても高度な技術を持った日本の方たちにお任せするのは悪くないと思いました。一般的な国民は、あなたがおっしゃるように不安だったみたいです。「きっと日本人の目をしたチェブラーシカが出てくるよ」とか「チェブラーシカがヤクザやサムライになったらどうする?」ってね(笑)。でも、いまは作品を観た人たちからうわさが広まって、「どうやら良い作品になってるらしいぞ」ってみんな待っているみたいです」。
先述のように中村監督は、あえて旧作の最初の1話をゼロから作り直すという作業から本作の製作に入った。そうするに至った経緯は?
中村:ウスペンスキーさんが「ワニのゲーナ」(※ゲーナ:チェブラーシカの親友)を作られて、それをロマン・カチャーノフ監督(故人)が映画にしたのが全ての出発点。日本ではそれを知らない人も多いので、まず『チェブラーシカ』はこういうものだと紹介したかったんです。同時にそれは、私たちスタッフがこの作品を作る上での勉強のための教科書として必要なことだったんです。
では、ウスペンスキーさんに中村監督版の『チェブラーシカ』の感想を聞いてみよう。
ウスペンスキー:カチャーノフが作ったものを引き継ぎつつ、新しいテンポが加わりましたね。見どころは…全てですよ!
そもそもウスペンスキーさんにとってチェブラーシカといういきものはどういう存在なのだろう? 我が子のようなもの? それとも孫? いや、友達?
ウスペンスキー:もし、ワニのゲーナについて同じ質問をされたら「ゲーナ? いやぁ、俺の友達だよ。ちょっと一杯飲みに行くとこだよ」って言えますけれどもね。チェブラーシカは…そうですね、チェブラーシカにはそのときに「ゲーナと一杯やるからね、おつまみ買って来てくれ」って言う感じかな。そうしたら「はーい!」って言って買いに行ってくれるんじゃないかな(笑)。
では、中村監督が感じる、チェブラーシカの魅力とはどんなところ?
中村:チェブラーシカっていうのは——ゲーナもそうなんですが——「自分って何だろう?」とか、「独りぼっちは寂しい」とか「誰かに愛されたい」という、誰もが心の隅に持っている気持ちをひとつの形に収めたキャラクターだと思うんですよね。そういう存在だから、いてくれると「僕は本当に君のことが好きだよ」って言いたくなるそんなキャラクターですね。
このチェブラーシカやゲーナの性格には、ウスペンスキーさん自身の性格が投影されていると言えるのだろうか?
ウスペンスキー:いやいや、私自身が投影されているのはシャパクリャク(※本作にも登場するキャラクター。いたずら好きのお茶目で人騒がせなおばあさん)ですね(笑)。陽気でいたずら好きで、新しいことを考え付いたら動き回る。彼(中村監督を指差し)はチェブラーシカだね。
では、もし空の上のカチャーノフ氏にこの作品を紹介するなら、どんな言葉を?
ウスペンスキー:「良いものができたよ! 君も降りてきて一緒に飲んでお祝いしようよ」って言ってやるね。きっと喜んでくれるだろうし、もう少し長生きすれば良かったって少し寂しがるかもしれないな。
《シネマカフェ編集部》
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