空前の大ヒット!『最強のふたり』監督が語る 世界を変えるための“ユーモア”
本国フランスでは3人に1人が観たと言われ、さらにサルコジ前大統領や米オバマ大統領までが興味を示し、昨年のカンヌ国際映画祭で配給権を巡っての争奪戦が行われるほどの人気ぶりを見せたフランス映画『最強のふたり』。今年のフランス映画祭の開催に合わせて初来日を果たしたエリック・トレダノ監督を直撃した。本作について、そしてフランス映画の魅力について話を聞いた。
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開口一番、本作が海外で巻き起こしている社会現象について「全く予想していなかった」と語るトレダノ監督。これまで日本で劇場公開された作品はなく、失礼を承知で言うならば、まったくの無名監督。それが本作で世界中の賞を総なめにし、早くもハリウッドでのリメイクが決定しているという熱狂ぶり。実際、この反応をどう受け止めているのだろう?
「すごく舞い上がりながらも、誇りに思っているよ。僕が表現したかったユーモアや価値観が、こうしていろいろな国で受け入れられている。その中で、それぞれの国でリアクションが違うのもまた面白い。フランスでは本当に社会現象になって、この映画をきっかけにハンディキャップをもった人やスラム街に住む移民たちについてのディベートまで生まれたことには本当に驚いたよ」。
『最強のふたり』で描かれるのは、ある事故をきっかけに首から下が全て麻痺状態となり車椅子生活を送る大富豪・フィリップと、彼の世話係をすることになったスラム街出身の黒人青年・ドリスの友情の物語。この一見ありえないようなストーリーは、実話に基づいて作られたお話なのである。一体何が、監督を映画化へと走らせたのか?
「元々、モデルとなった実在の2人(フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴ&アブデル・ヤスミン・セロウ)を描いたドキュメンタリーを観たことがきっかけなんだ。とても現代的なテーマだと思った。“黒人で貧しい地域に住んでいる男は、すぐに盗みを働くに違いない”とか、“ハンディキャップをもっている人に対しては特別なルールが必要”とか、そんな社会的な先入観を全部取っ払ったものが描けるだろうと思ったんだ」。
それから共同監督のオリヴィエ・ナカシュと共に、何度となくモデルとなったボルゴ氏の元に足を運び、映画化を進めていったトレダノ監督。その中で見つけ出したもの、それは苦境の中にあっても忘れない“ユーモア”だったという。
「実際の2人のエピソードをフィリップに語ってもらって、脚本を練っていったんだ。だから、劇中のフィリップとドリスはお互いにからかい合いながらも、決して相手を傷つけるような意地悪は言わない。そうやってユーモアを通して自分たちが抱えている深刻な問題の重さを、お互いに少しずつ減らし合っていく姿をリアルに描くことができたんだ。話を聞いていくうちに、フィリップは知性もユーモアもあふれていて、17年間の苦しい車椅子生活を通して、人生の意味を何度も自分に問い直してきた人なんだと感じたよ」。
既に世界中でこの感動を体験した人々から、絶賛の声が数多く届けられている本作。モデルとなったボルゴ氏たちは完成した作品についてどのような反応を見せたのだろうか?
「パリでプレミア試写会を開いたときに、約500人の観客に混じってフィリップに完成した映画を観てもらったんだ。映画が終った後で彼はこう言ったんだ、『いま、私は両手で拍手しているよ(笑)』って」。
本作然り、本年度アカデミー賞で5部門受賞した『アーティスト』など今年に入ってのフランス映画の躍進には目覚しいものがある。監督はその理由はアメリカ映画とは異なる魅力にあると言う。
「『アーティスト』をミシェル(・アザナビシウス監督)が撮ると言い出したときは、いまの時代に無声映画なんて狂っていると、みんなから言われていたんだ。僕のときも、やはり周りからはあまりにも危険だと言われた。アメリカでは3D大作だったり、エンターテインメント色の強いものだったりと、すごく凝ったものが多い中で、フランス映画においてはリアルなテーマを扱って本当に映画として良い作品が出てきていると思うんだ。こうして3億5,000万ドルの興行収入と世界中でいろんな賞をもらえたしね(笑)。だから、いまは斬新で冒険的なテーマが報われている、いい時代なんだと思うよ」。
どんなときもユーモアを忘れなければ、人生はいつだって楽しいものに変えられる。ただし長い人生、ひとりで楽しむのは難しい。そんなメッセージを、この映画はそっと優しく語りかけてくれる。
《シネマカフェ編集部》
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