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実話! ユングとフロイト…偉大な心理学者の関係と、歴史の陰にあるスキャンダル

ジークムント・フロイトとカール・グスタフ・ユング。心理学界における永遠の二大巨頭である彼らの名前は知っていても、2人のデリケートな関係性について詳しく知る人はそれほど多くはないかもしれません。『危険なメソッド』は、フロイトとユングの出会いから蜜月時代、そして決別までの軌跡をたどったヒューマンドラマ。2人の関係の変化には一人の女性の影があったことにまで踏み込んだ、ちょっとスキャンダラスな物語なので、心理学に興味のない方であっても、歴史の陰にあるミステリアスな“三角関係”にはきっと興味を持つことでしょう。

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『危険なメソッド』 -(C) 2011 Lago Film GmbH Talking Cure Productions Limited RPC Danger Ltd Elbe Film GmbH. All Rights Reserved.
『危険なメソッド』 -(C) 2011 Lago Film GmbH Talking Cure Productions Limited RPC Danger Ltd Elbe Film GmbH. All Rights Reserved. 全 4 枚
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ジークムント・フロイトとカール・グスタフ・ユング。心理学界における永遠の二大巨頭である彼らの名前は知っていても、2人のデリケートな関係性について詳しく知る人はそれほど多くはないかもしれません。『危険なメソッド』は、フロイトとユングの出会いから蜜月時代、そして決別までの軌跡をたどったヒューマンドラマ。2人の関係の変化には一人の女性の影があったことにまで踏み込んだ、ちょっとスキャンダラスな物語なので、心理学に興味のない方であっても、歴史の陰にあるミステリアスな“三角関係”にはきっと興味を持つことでしょう。

同じ精神世界に興味を持ち、同じ時代に生きた2人は、一時は師弟関係にありました。1856年生まれの精神分析学の大家(フロイト)と、彼を慕い、彼の提唱する“談話療法”に刺激された1875年生まれの若き精神科医(ユング)という、立場や年齢の違いこそあれ、精神分析の研究に熱心な2人は、ユングのもとに訪れたひとりの患者をきっかけに、20世紀初頭に出会ったのです。

精神世界に神秘性を感じていたユングと、あくまでも“性”に執着し科学として確立させたいフロイトには、様々な考えの違いがありましたが、初対面で13時間も対話や議論を続けたほどの意気投合ぶり。チューリッヒとウィーンと遠く離れてはいても、友情を育み続け、フロイトにして「君が私の後継者だ」とユングに告げさせるほど信頼し合っていたのです。ところが、そんな交流は長く続きませんでした。実は、その原因となったのが、2人が出会うきっかけとなった患者・ザビーナ。彼女こそ、2人の蜜月時代を終わらせた張本人なのです。

ユングが最初にザビーナに会ったとき、彼女は幼少期から続く性的なトラウマでヒステリー状態に苦しんでいました。その原因を、フロイトの“談話療法”で突き止めることに成功したユングは、彼女が好転していることをフロイトに報告しに行くことで精神分析の大家と出会うことになるのです。ユングは常に冷静で感情を抑圧した姿で描かれていますが、実はザビーナと出会った後、自らの内なる欲望を目覚めさせ、彼女と一線を越えてしまいます。自らも精神科医を目指す聡明で美しいザビーナとユングの会話、フロイトとユングによる夢分析、医師でありながら快楽主義者で患者たちと関係を持つことに罪を感じないグロスとの会話などから、ユングの微妙な変化が感じ取れます。その変化は、彼の内面に葛藤を生み出すのですが、それにより、フロイトとの関係にも変化が生じてしまう様子が、静かに描かれていくのが本作の見どころ。

歴史の中では、2人が1913年に長旅を共にしていたとき、互いの夢を分析し合っていたときに激しくぶつかり、破局したとも言われています(映画にもこの辺りの描写があります)。その後、ユングはショックから精神的な混乱に見舞われるのです。こういった経験を通し、彼が確立したのが分析心理学。フロイトの確立したものは“精神分析”と呼ばれ、それぞれへの支持を表明するとき、「ユング派」、「フロイト派」とされるようになったのです。詳しい理論の違いについては、ここでは言及しませんが、ご興味があれば調べてみたらいかがでしょうか。と、歴史上は2人の決別は学問上の理論の違いだったとの印象も受けますが、実はもっと根源的な人間性の違いによるものだったのかもしれない、と思わせるのが本作です。劇中、2人は激しく口論することはないものの、互いに近づきすぎたことで、目をつぶれない相手との違いに気づいていき、さらには、相手の抱える矛盾、自分の中の内なる矛盾にも気づいていきます。その様子は、フロイトとユングが展開するテクニカルワード満載の精神分析議論の中でも、大いに表現されていますので、このあたりは心理学好きにはたまらないのでは?

2人について、ユングを演じたマイケル・ファスベンダーはこう語っています。「ユングは何事にもオープンだったが、フロイトは心理学の1つの形態に重きを置いていた。全ての神経は性の起源から生じるとする考え方だ。ユングはそこに疑問を感じていたと思う。ユングはフロイトをとても尊敬していたが、彼はいつも二番手だし、フロイトの哲学で言えば、ユングは“父親を殺して後を引き継ごうとする人間”だ」。「彼らもただの人間だし、僕たちがお互いにしているようなことをしている。彼らにも同じ欲望と嫉妬があるし、その多くがこの映画で描かれている。彼らは優秀な人間だが、エゴだってある。エゴと共に、たくさんの個性が様々な形で、彼ら自身を暴き出していくんだ。もしこの2人の男が、互いの凄まじいエゴを乗り越えていたら、おそらく僕たちは心理学や人間の心についてもっと丸みのある考えに出会えただろう。2人が彼らの関連性をもつために互いの意見を許容していたら、面白いことになっていただろうね」。

フロイトとユングの存在の陰に、運命の女が存在していて、こんな決別の物語があったというのは、まさに心理学界史上最大のスキャンダル。このほとんど知られていなかったスキャンダラスな史実を映像化したのは、『デッドゾーン』、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』で知られる鬼才デヴィッド・クローネンバーグ。フロイト、ユング、ザビーナの関係について「とても奇妙な三角関係だ」と語っています。「師弟関係だったユングは、フロイトのことを父親のように思い、事実手紙には何度もそう書いている。だから2人の物語に僕は興味をそそられた。そこに70年代まではほとんど名前も知られていなかった、ひとりの女性が関わってくる。彼女はユングの患者となり、彼と不倫し、そして彼の保護下で、精神分析学に興味を抱き、最終的にはフロイト派の分析医となり、フロイトのもとに行く。とても奇妙な三角関係だった。彼女はフロイトと性的な関係は結ばなかったが、それでもこの三角関係のそれぞれの辺に愛があった。ユングとフロイトの間も含めてね。彼らの間には驚くべき愛情と友情があった。ザビーナはその真ん中にいたんだ」。

フロイトを演じたヴィゴ・モーテンセンも、こう分析します。「キーラ演じるザビーナが、ある意味彼ら2人を近づけている。でも同時に彼女が2人の関係を壊してもいるんだ」。後に有名な心理学者を多く育てることとなるザビーナを含め、心理学界に名を残す3人のカリスマを演じるために、入念なリサーチを行ったと言う俳優たちの分析もなかなかのもの。彼らの言葉からも察すことができる通り、この三角関係が映し出すのが、人の精神を分析する心理の専門家であり常に冷静であるべき人々が、実は制御できない自らの心に混乱していたという事実。自分の内面を引き出していくザビーナと関わることこそ、2人にとっては“危険なメソッド”だったというわけでしょうか。そんなやるせなさ、人間臭さも、この作品の見どころなのかもしれません。



特集:愛と心理学の三角関係
http://www.cinemacafe.net/ad/method

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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