シネマカフェブロガー初対談!「東京国際映画祭の魅力」 矢田部吉彦×雅子 <後編>
第25回東京国際映画祭(以下、TIFF)の開幕を前に実現した、映画祭プログラミング・ディレクターの矢田部吉彦とモデルの雅子による対談<後編>をお届け! 今年で創設5年目を迎え、雅子さんが審査員を務めることになった「natural TIFF」の魅力、さらに矢田部さんを毎年、刺激しつつも苦しめるコンペティション作品15本の選定のプロセスとは——?
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
雅子:矢田部さんがTIFFに関わるようになったのは第何回からですか?
矢田部:15回目からですね。トム・クルーズが『マイノリティ・リポート』('02)のプレミアで渋谷の街を歩きました。その年はエイドリアン・ブロディも来日しました。選定に関わるようになったのは18回目からですが、最初は日本映画でした。徐々に海外作品にも携わるようになり、コンペティションに関わるのは今回で6回目です。
雅子:作品選びは慣れていくものですか?
矢田部:慣れませんねぇ…。でも作品の選び方は変わってきたと思います。初めて選んだコンペ作品と見比べてみると、良い作品だと思いつつもいまだったら選ばないかもというものもありますね。
——矢田部さんの中では選ぶ上での基準などはあるんですか? 観客層を想定したり、あるいはとことん作品の質を重視したり…。
矢田部:そこは両方意識してます。15本の中で、完全なアート映画で作家の個性が炸裂しているけど、万人受けしなくてもいいから入れようと思う作品もある。でも、15本全てそんな作品が揃うと偏ってしまうので、クオリティを重視しつつ、よりオープンな作品を入れてバランスを取ったりします。
雅子:年ごとの全体のテーマがあるわけではないんですね?
矢田部:ないです。結果的に、例えば昨年は移民問題を描いた作品が多かったりというのはありますし、今年は安楽死を扱った作品が多いですが、選んでる最中は意識してないですね。
雅子:選ぶ際は候補作をふるいにかけていく感じですか?
矢田部:そうですね。今年は1,000本以上あったんですが、それを50本くらいに絞って。30本くらいになれば、後はパズルのような感じですね。「この2本はどちらも良いけどカブっているのでこちら」とか。あとは国のバランスです。今年はチリ映画で面白いものがいくつもあったんです。でも東京の映画祭のコンペに3本もチリの作品が入ってるのも不自然でしょ? そのチリ映画には全く罪はないし、違う年や国だったら入ってもおかしくないけど泣く泣く外したり…。8月中はそんな感じでずっと胃が痛いです(苦笑)。夢の中でもとり憑かれてます。
雅子:頭の中を覗いてみたいですね(笑)。一晩、考えに考えた末に外したりとか?
矢田部:もちろんあります。
雅子:夜中に書いたラブレターを朝になって読み返すような(笑)。
矢田部:背負いきれなくなったら周りに観てもらって、「いいよね?」と背中を押してもらいます。非常に孤独な作業であると同時に共同作業なんです。ただ合議制で選べば全てが中途半端になってしまうので、最終的には誰かが個性を汲んで選ばないといけないとは思ってます。
——先述の『最強のふたり』もそうですし、『アーティスト』で今年のアカデミー賞を制覇したミシェル・アザナヴィシウス監督の『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』(TIFF上映時の邦題は、『OSS 117 カイロ、スパイの巣窟』)が2006年のTIFF(第19回)でグランプリに輝いたり、TIFFで注目を浴びて、その後、世界的な飛躍を遂げる作品や監督、俳優も大勢います。矢田部さんが関わってきたこの10年ほどの中でもいろいろな思い出があるのでは?
矢田部:アザナヴィシウス監督が受賞した際は、僕はまだ選定の責任者ではなかったのですが、『これがコンペ作品?』という声もある中で僕の前任のディレクターが選んだんです。その後の化けっぷりを見ると、その才能を見抜いていた前任者、そしてTIFFはそのことを誇っていいと思うし、オスカーを獲ったときは本当に嬉しかったです。
雅子:『最強のふたり』は選ぶ過程でもこれまでと違う感触がありましたか?
矢田部:正直、コンペに入れるかどうか1か月くらい悩んだんです。もっとアート寄りのフランス映画を入れるべきか? それとも観た後の爽快感を重視してこれを入れるか? コンペの性質が変わってくるので、そういう意味で最も悩んだ作品と言えるかもしれません。その後のヒットも含めて印象深いです。
矢田部:さて、そんな我々が今年、これまで以上に強い思いで取り組んだのが「natural TIFF」部門です。エコロジーグリーンを映画祭のテーマカラーとして5年目になります。最初は「エコロジーと映画って相性がよくないかも…」という思いもあって、あまりガチガチなエコロジーにこだわらず、“自然と人間の共生”を描いた作品を幅広く選んできました。今年はもっとアピールしようと、どの部門よりも早めに選考に入ったんですが、観始めるとメチャクチャ面白いし、勉強にもなる。何より「このままじゃ地球がヤバい!」って思うようになりました。そこで中途半端なエコロジーではなく、ガチなエコ映画を入れて8本を揃えました。その審査員の一人を雅子さんに務めていただくことになりまして。
雅子:コンペ、ワールド・シネマと同様に注目している部門で、昨年もいくつかの作品を観ています。審査員のお話をいただいたときは単純に嬉しかったし、とても光栄なことです。やはり昨年の震災以降、環境問題やエコに興味を持っている人が非常に多くなってきたと思います。特にファッション界とエコロジーは手を結ぼうという流れもあります。いまは正直、どんなに過酷な現状を見せられてもビックリしないんですよね。少し前なら「こんなのを見せるの?」と思われていたのが、実際に震災で惨憺たる現実を見せられましたから。
矢田部:これをきっかけにファッションやライフスタイルなど映画とは違う世界にアピールできればと思います。いわばほかの映画、部門とは違う戦略で売り出していけたら。審査員という立場なので言えないことも多いと思いますが、ラインナップをご覧になっていかがですか?
雅子:環境を扱ったもの、動物を描いたもの、それから夢を売るような作品と3つくらいのタイプに分かれてますね。エコロジーについて描く作品はすでに山ほどありますが、だからこそどんな切り口で来るのか、観るのが楽しみです。すんなりと心に入ってきたものを感じたい。全てドキュメンタリー作品ですが、映像の美しさにも期待しています。もうウソは見たくない、真実を知る発見がありますから。
矢田部:こういう作品の難しさって扱っているテーマは重要だけど、作品としてつまらないことも多いということ。「この問題は伝えたいんだけど…」と思っちゃう。その点、今回はそういった部分で悩む必要のない作品が揃ってますので期待してください!
雅子:はい、楽しみにしてます!
(photo/interview:Naoki Kurozu)
第25回東京国際映画祭は10月28日(日)までTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて開催中。
特集「東京国際映画祭のススメ2012」
http://www.cinemacafe.net/special/tiff2012/
《シネマカフェ編集部》
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