【インタビュー】三谷幸喜から役所広司へ“脚本という名のラブレター”…『清須会議』
何か映画を観たいと思ったとき、アクション、ラブストーリー、ヒューマンドラマ…というように、ジャンルで選ぶこともあれば、好きな監督や俳優で選ぶこともある。その中で、三谷幸喜監督作だから無条件で観てみたい!
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それにしても、三谷監督はこれだけのキャストをどうやって口説くのだろうか?
「僕にとっての“いい俳優”さんというのは、一度お仕事をさせてもらって、この人にはこういう面があるのか! こういう表情をするのか! と驚かされて、次はこの人でこんなことをやってみたい! という感覚を与えてくれる人です。それが僕にとっての“いい俳優さん”の条件」。
「たとえば、今回、信長の次男・織田信雄を演じてもらった妻夫木くんにしても『ザ・マジックアワー』に出てもらったときに、彼の天真爛漫な笑顔はバカ殿に向いているんじゃないか? と思っていたからで。キャスティングはこれまでに感じたストックからの集大成なんです。なので、一度仕事をしてみないと見えてこない部分があるんですよね」。
『清須会議』の主役・柴田勝家を演じた役所さんは『THE有頂天ホテル』に続く三谷作品の出演となる。前回の「非の打ち所のない副支配人役」とは打って変わり、今回の勝家役は三谷監督曰く「愚かさとマヌケさがにじみ出ている」キャラクター。妻夫木さん同様に配役のきっかけは過去作品『THE有頂天ホテル』のときに感じた気づきだった。
「鹿の面をかぶったときのマヌケさを見て、この人のマヌケな部分をもっと見たいと思ったし、別れた奥さんにバレたときのあの切なさもなんだか似合うなぁと(笑)。ただ、勝家という役は愚かな役ではあるけれど、戦国武将としての強さを持ち合わせている人物。役所さんなら強くてカッコよくて、情けなくて、切ない勝家ができるだろうと思ったんです。人間的な魅力をもって勝家を演じられるのは役所さんしかいないと思いました」。
そんなラブコールを受け取ったならば役者として断る理由はなく、役所さんも「ただただ嬉しいですね」と頬がゆるむ。
「役者としては、監督のイメージに近づけるよう努力するだけなんですが、三谷さんのことだから史実に基づいて書くだろうと思って、原作以外にも勝家に関する書物を読んだりしました。事前準備はそれくらいですね。あとは扮装テストをしながら自分の中で勝家を創り上げていきました。今回の勝家はあくまでもこの映画の中での勝家像なので、勝家ファンにとっては、彼はこんなにバカじゃないわよ! という人もいるかもしれないですけどね(笑)」。
三谷監督は脚本を書く前に原作も執筆。原作の段階では勝家のイメージはショーン・コネリー、特に髭の雰囲気は『風とライオン』のコネリーをイメージしながら書いたそうだが、脚本の段階では「役所さんにこんな勝家を演じてほしい」という願望をめいっぱい込めた。そして、三谷監督が役所さんに伝えた勝家像は──「体臭が匂う、口臭がひどい、いつも脂っぽい、耳毛も生えている」という文字にすると何とも残念な人物を思い浮かべてしまうビジュアルだったと、苦笑いしながらも嬉しそうに語る役所さん。
けれど、そこにも「戦国武将のビジュアルをきちんと表現したかった」という三谷監督の強い思いがあり、猛将としての存在感はもちろん「映画で体臭を感じさせるのはなかなか難しいんですが、見事でしたね。さすが役所広司(笑)」と三谷監督が言葉を加える。
「役所さんにこれをやってほしい、言ってほしいということを台本に詰め込んでいるのは、僕にとって台本は俳優さんへの“ラブレター”だから。台本を読んで映画に出てもらえるかどうかを決めてもらうので、自然と力も入るんですよね」。
脚本という名のラブレターを受け取った役所さんは、「主君に対しての忠誠心やお市様に対する愛情から見ても勝家はとてもいい奴だったんだろうなと思うんですよね」と、これまで目にしたことのない愛すべき勝家像をスクリーンに刻み、三谷監督からのラブレターの返事をすばらしい芝居で返した。
天下統一目前に明智光秀の謀反によって本能寺で命を絶たれた織田信長。彼の亡き後に行われた清須会議を舞台に、猛将・柴田勝家と後に天下を統一する羽柴秀吉(大泉洋)の頭脳戦が描かれる。歴史を動かす会議だけでなく、お市様(鈴木京香)をめぐる勝家と秀吉の三角関係を組み込んでいるのも面白い。恋愛要素を入れた三谷監督の意図はこうだ。
「映画を作るときに、“女性が観に来る映画を作りなさい”と決まって言われるので、女性目線も入れておかないとな、というのもあったんです(笑)。でもそれだけではなくて、女も女なりにあの時代を必死に生きていたというのを、お市様と寧(中谷美紀)と松姫(剛力彩芽)で表現したいと思ったんですよね」。そんなお市様にふり向いてもらおうと必死の勝家の姿がまた滑稽であり一生懸命であり、お市様に振りまわされる勝家の心中については役所さんが代弁する。
「お市様に対する愛情の深さは、勝家と秀吉とでは全然違いますよ。だって、秀吉はそもそも不倫ですからね(笑)。史実にあるように、お市様は勝家に好感を持って輿入れしたわけではないと思うけれど、最後は一緒に死んでいるわけですから。一緒に過ごした時間は短いながらも、僕自身が感じたように、きっとコイツはいい奴だなと思ってくれたんじゃないか、そう捉えたいんです。勝家は、お市様のそばにいるだけで幸せだったんじゃないかなと思います」。
猛将と歴史に刻まれた人物でありながらも恋愛は不器用だった、三谷流の解釈を滑稽かつドラマティックに演じた役所さん。きっとそれは、三谷監督が望んだ以上のものだったに違いない。そして、見たことのない俳優・役所広司の表情が詰まっている本作で、監督がいちばん気に入っている表情はラストカットに収められていると言う。
「フレームアウトする直前の勝家のものすごく悲しい顔ですね。台本を書いていたときに思い浮かべていたよりもずっと悲しい顔でした。役所さんのその表情を見たとき、ああ、勝家はすべてを分かったうえで、今後の運命も分かったうえで馬上にいるんだなと。そういう切ない感じが伝わってきたんです」。
『THE有頂天ホテル』のときに「役所広司はこういう表情もするのか!」と刺激を受け、「次はこういう役所広司を見たい!」と、その願望を実現させるために『清須会議』を書いて演出した三谷監督。
もちろん『清須会議』の役所さんを見て、次の構想はすでに頭にあるそう。「でも、ここでは言わないですよ。言っちゃうと叶わないジンクスがあるからね」と、いたずらっぽく笑う。秀吉ではなく勝家を主人公に据えた理由を「敗れていった人たちに興味があった、敗者にこそ裏表の可笑しさがある」と話す三谷監督だが、きっとこの映画『清須会議』は勝者として日本映画史に残るだろう。
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