【ディズニーの楽しい映画の作り方 第2回】苦難も笑顔で乗り切る“タフな”アーティスト
『美女と野獣』や『ピーター・パン』などのスピンオフ作品を製作し、良作なアニメーションを生み出し続けるディズニーの新たな顔となる――ディズニー・トゥーン・スタジオ。アメリカ・ロサンゼルスにある、誰も足を踏み…
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第2弾は、“ストーリー・アーティスト”のアート・ヘルナンデス。アニメーション映画の“絵”を作り始める、その最初の部分を担当する彼らの仕事。楽しいディズニー映画の屋台骨を支えるアートにその魅力と苦労を語ってもらった。
――まず聞きたいのが、3Dアニメーション映画を作るという複雑な工程の中で、“ストーリー・アーティスト”とはどんな仕事なのだろうか?
アート:僕たちの仕事は、(監督や美術監督が作り上げた)膨大なスクリプトを基に、それを“ビジュアルに変換”していくことなんだ。1本の映画に8~10人くらいいるんだけど、その作業は全体で1年~1年半くらいかかるかな。1人が1本の映画すべてのシーンを担当するのではなくて、複数人でそれぞれに担当するシーンが違うんだ。
監督や脚本家たちと凄く蜜に仕事をすることになるんだけど、なにせ映画を形作っていく“最初”の部分だからね、相談しながら色々なパターンを試して作っていくんだ。白黒の線と影だけを書くんだけど、実際に4,000枚くらい書いてみて、そのほとんどがボツになったよ(笑)。
実際には一つのシーンを担当することになると、まず2~3日くらいそのシーンをどう見せるのかを分析するんだ。そのあとは背景まで書き込んだものを、10分~20分で1枚書いて行くんだ。
――そんな苦労も陽気に話してしまうアート。そのハートの強さには、モノづくりに関わる誰もが頭が下がる思いだろう。さらに、本作『プレーンズ』にはさらなる難関があったそうで…。
アート:『プレーンズ』は飛行機たちが生きる世界だからね、主人公ももちろん飛行機だ。一番頭を悩ませたのは、人間のように感情豊かに表現したいけど、人間と違って、目・口・サスペンションの伸縮、その3つだけで感情が観客に伝えないといけないことだった。
――そういってサラサラと自身のPCを使って本作の主人公・ダスティを書いていくアート。何度も何度も書いてきたキャラクターだけあって、その手際の良さは流石だ。そんな彼に感心していると、「でも、僕たちの仕事はこれだけじゃないんだ」と語り始める。これまで聞いてきただけでも、相当量の作業だが、この上さらにどんな仕事があるのだろうか?
アート:僕たちは書くだけで終わり…じゃないんだ。その書き上げたものを、監督(クレイ・ホール)に売り込まないといけないんだ(笑)。そこで「これはOK」とか「ここがダメ」と指摘されながら、採用・不採用が決まっていくんだよ。
――アーティストでありながら“売り込み”まで…なんというタフな仕事なのだろう。そんなことを考えていると、アートは自身が担当したというワンシーン(線のみで描かれたものが10枚程)を画面に表示させると、「じゃあ、実際にその“売り込み”をやって見せよう」と実演してくれた。
アート:<売り込みを実演(ダスティとエル・チュパカブラが出逢うシーン)>
――一部始終を見て思ったことが一つ…キャラクターの“声”まで演じるのか!? イメージしていたのは、「このシーンは、ダスティがこんなセリフを言いながら、こんな風に動きます」というようなただの“説明”だったが、彼らは登場するキャラクターを実際に“演じる”ことで監督に売り込んでいくのだ。それも声優かと聞き違えそうになるほど達者なのだ。職人とはかくも器用でないと務まらないのか。まさに驚愕である!
アート:僕と同じストーリー・アーティストでも恥ずかしがり屋の人は、声の演技まではしないみたいだけどね。『プレーンズ』がミュージカル作品じゃなくてよかったよ、歌わなくて済んだからね(笑)。
でも本当の胸の内は、いつも監督に売り込む前は、祈るような気持ちなんだ。実際におまじないを掛けたりするしね。もしも監督に作ったものが気に入ってもらえなければ、全部がボツになってしまうからね(笑)。皆それぞれに監督を説得させるために、出来る限るのことをやるんだよ。
――途方もない努力の積み重ね。映画作りのたった一工程をとってみても、驚くほど多くの人々の汗と涙(…はないかもしれないが)が注がれているのだ。アートが描き上げるのは、紙芝居のような状態の最も始まりの部分。その後、色が付けられ立体となり、そこに動きがプラスされて映像となり、最後に声優たちが声を乗せて命を吹き込む。アートたち“ストーリーアーティスト”はその要の部分を生み出している。
アート:もしスクリプトの部分で、ダスティが怒っていたり、喜んでいたり、感情がそこにあるのならば、僕たちはビジュアルに変換するときに、絵としてそれが後に作業する人たちにまで伝えないといけないんだ。これはどんな工程においても言えることなんだけど、前の工程(アートが担当する場合ならスクリプト)で出来上がったものを、さらに良いものへと作り変えていかないといけないんだ。
――計り知れない作業量を経て、全力で売り込み、それでもボツをくらう。そんな大変そうな仕事でもアートの語るディズニーの仕事は、笑いに満ちあふれた陽気なものだった。彼は折りに触れて、「でも楽しいんだ!」と繰り返していた。彼が作り上げた絵は、後にアメリカで、イギリスで、日本で…世界中の人々に笑顔を咲かせ、感動を与える。それを思いながら、今日もアートは陽気に筆をとるのだろう。
《シネマカフェ編集部》
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