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【インタビュー】綾野剛 一人歩きする妄想・憶測・噂話…SNS隆盛の現代に警鐘

湊かなえの原作を『ゴールデンスランバー』『奇跡のリンゴ』の中村義洋監督、井上真央主演で映画化した『白ゆき姫殺人事件』。地方都市で起きた“美人OL殺人事件”で…

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綾野剛『白ゆき姫殺人事件』/PHOTO:Nahoko Suzuki
綾野剛『白ゆき姫殺人事件』/PHOTO:Nahoko Suzuki 全 9 枚
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湊かなえの原作を『ゴールデンスランバー』『奇跡のリンゴ』の中村義洋監督、井上真央主演で映画化した『白ゆき姫殺人事件』。地方都市で起きた“美人OL殺人事件”で犯人の疑いをかけられた地味な同僚女性と、事件後に行方をくらませた彼女について取材する男を中心に、人が噂に翻弄されていく姿を描く。綾野剛は知人から情報を得て、現地に乗り込むTVのワイドショーのディレクター・赤星を演じた。

完成作を観て「面白い作品を観たというのが一番の感想ですね」と言う。

「自分の出演作を、ここまで客観性を持って見られたのは初めてだったように思います。いつもは自分のアラ探しばかりで見るのが酷なわけです。さらに自分を切り刻むような作業なんで。でも、そういうのも越えて、本当に面白かったです」。

綾野さんが演じる赤星は、中村監督の言葉を借りると「薄っぺらい男」。仕事よりもTwitterへの書き込みに熱心だった彼のもとに美人OL殺人事件をめぐる情報がリークされる。「オレにもチャンスが向いてきた!」とネタに飛びつき、周辺取材を始めると、次々と思わぬ“情報”が集まってくる。

「僕は赤星という人間を通して、真実をちゃんと見抜こうとせず、提供された情報を鵜呑みにしていくことがいかに危険かを伝えたかったんです。ジャーナリストが現地へ行って取材して報道するものにも、その人の主観は入っている。それを全部本当のことだと思ってしまう危険性を怒りに変えて、役を通して表現したつもりです。でも、これが中村さんのマジックであり、湊かなえさんの本当の力だと思うんですけど、赤星だけ嘘ついてないんです。ほかの全員が嘘をついているのに、彼は自分の得た情報を真実だと思い込んでいるから、彼自身は嘘をついていない」。

「僕に薄っぺらいところがないって言いたいわけじゃないですが、すごく難しかったです。相当苦労しました。本質で薄っぺらくないと、芝居をしてもちゃんとそうならないというか。どうやったら、薄っぺらくなるかをすごく考えました。全部を真に受ける男なので、芝居の仕方によってはピュアな人にも見えてしまう。でも、ただ素直な人に見えちゃうと敗北なんです」。

そのために、まずは外見から作っていった。
「髪をツーブロックにして、ひげをキレイに整えてピンクのシャツ着て、“オレ、イケてるぜ!”って。現場でも鏡はもちろん、自分が映るものがあれば常に覗き込んで、ずっとひげ触ったりして。人の話を聞いてるときは口を開けてるとか」。

中村監督の演出にも大いに助けられたという。
「演出するとき、非常にブラックな言い方をされるんです。でもそこには真意がある。そこに全部演出が詰まってるんです。とんでもない人です(笑)」。

赤星に情報を流したのは旧知の女性・里沙子(蓮佛美沙子)。美人で優しかった被害者・三木典子(菜々緒)を慕う会社の後輩で、彼女は典子の同期の城野美姫(井上真央)が犯人ではないかと言う。赤星の取材を受け、美姫の同僚、両親、かつての同級生がさまざまな噂を語り始める。

女性同士の駆け引きの凄まじさがそこに介在するが、綾野さんは「この感じは、男はあんまり分かっていないんです」と言う。「自分のいる環境で主役になるにはどうしたらいいか、それを競っているんだろうな、そのために多面性が必要なのかな、と思うんですけど。男にはそうそうないことだと思います。でも、女性にあるのは理解もできるんです、同時に」。

女性に限らず、むしろ人間の恐ろしさについての物語とも言える本作。Twitterが実名で登場し、物語を動かす役割を果たしている。SNSを通して、あることないこと、話し手の妄想や憶測にさらに尾ひれがつき、噂話があたかも事実であるかのように一人歩きしていく。

「人は記憶したいように記憶するから。本当に曖昧なものです。僕は記憶と思い出は違うと考えています。幸せなことはすぐ忘れるけど、痛みは覚えてるのと一緒で、全てはそこに伴わないと自分のものにならないんじゃないかな。僕は、記憶は消すものだと思っています。新しい情報取り入れるために。新鮮で確かな情報を見極めるためにも、過去の記憶をどんどん消していくんです。いつの間にか、そういう風になっていました。台詞を覚える能力とは別の、本当の意味の記憶力が衰えてきた気がして。間違った見方を正しいと思ってしまうんじゃないか、という恐怖心があります。ちゃんと自分が記憶していいものだけを、ちゃんと見極める能力は持たないといけないとは思います、思い出はたくさん作っていいと思うんですけど」。

SNS一般については「発信できる能力を手に入れると、自分が情報源になりたくなる。そういう意識が高まるものだと思っています」と言う。綾野さん自身、Twitterはやっていない。「映画とかドラマとか、基本的には作品を中心に発信していきたいと思います」と話す。

「顔も見たことない者同士で、違うコミュニケーション能力が生まれるのであればいいと思います。ただ、自分がやると発信意欲が出てしまう可能性がある。それがいつか義務感に変わってくるはず。その間違った成長だけはしたくないから、自分が発信できる場所は仕事だけでいいんです」。

《text:Yuki Tominaga/photo:Nahoko Suzuki》

好きな場所は映画館 冨永由紀

東京都生まれ。幼稚園の頃に映画館で「ロバと王女」やバスター・キートンを見て、映画が好きになり、学生時代に映画祭で通訳アルバイトをきっかけに映画雑誌編集部に入り、その後フリーランスでライター業に。雑誌やウェブ媒体で作品紹介、インタビュー、コラムを執筆。/ 執筆協力「日本映画作品大事典」三省堂 など。

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