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キアヌ・リーヴス監督作からジブリまで 日本が誇る美術監督・種田陽平の流儀

美術監督の仕事とは――?

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美術監督・種田陽平/Photo:Naoki Kurozu
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美術監督の仕事とは――?

『キル・ビル Vol.1』で描かれる異国人の目に映るTOKYO。『スワロウテイル』の猥雑でエネルギーにあふれた円都(イェンタウン)。スタジオジブリ最新作『思い出のマーニー』で少女・杏奈が不思議な少女・マーニーと出会う、海辺に静かに佇む“湿っ地屋敷”――。

ほかにも『悪人』、『フラガール』、『花とアリス』、『空気人形』、『THE 有頂天ホテル』、『ザ・マジックアワー』、『清須会議』、『金陵十三釵』、『曹操暗殺 三国志外伝』と挙げればきりがない。彼の名を知らずとも、映画好きならどこかのスクリーンでその仕事を目にしたことはあるはずだ。ハリウッド大作を含む海外作品から邦画、アニメーションまで、文字通り国境もジャンルも飛び越えて活躍する美術監督・種田陽平。

あのキアヌ・リーブスの初監督作品となる武術映画『キアヌ・リーブス ファイティング・タイガー』でも、種田さんは美術監督を務めた。本作のDVD発売を機に、種田さんへのインタビューを敢行! キアヌと共に練り上げた本作の美術についてはもちろん、普段、なじみのない、“美術監督”のお仕事の世界についてたっぷりと話を伺った。

映画の舞台は北京。太極拳を学ぶ・タイガー(タイガー・チェン)は師の寺院の存続のため、謎の男・ドナカ(キアヌ)の誘いを受け、闇の武術大会に出場し、敵を打ち倒していく。だが、徐々にドナカの組織に疑問を持ち始め…。

登場人物が住む部屋や事件が起こる建物、戦いが繰り広げられる舞台など、映画における美術の責任者であり、俳優が演技をする“場”を作り上げるスタッフというのが多くの人にとっての美術監督のイメージだろう。おそらく、それは間違っていない。

では具体的に、美術監督は映画製作のどの段階から、どのように作品に関わっていくのか? 種田さんによると「監督やプロデューサー次第。作品の規模によっても異なる」とのこと。

「ある程度、任せていただくこともあれば、監督自身がキッチリとしたイメージを最初から持っていることもあります。脚本の執筆段階で、プロデューサーと一緒にロケハン(=撮影に適した場所を探すロケーションハンティング)をすることもあれば、撮影開始のギリギリのタイミングで、注文された美術を用意しなくちゃいけないこともある」。

<監督との“共犯関係”で美術の方向性を探っていく>

「やはり、美術監督としては、プロットの段階からアイディアを出して、脚本の執筆と並走する形で進めたいという思いはありますね。若い時分は、なかなかそうもいかずに、ギリギリのタイミングで受けて『何でこんな台本で…。おかしいだろ!』なんて文句を言ってたこともありましたけど(苦笑)。例えば脚本では『長野の山奥の…』と書いてあるけど、この話なら北海道の草原の方が良いんじゃないか? 原作では喫茶店だけど、レストランではどうか? といった設定作りから監督と“共犯関係”を持つことができると楽しいですね。様々な“縛り”を解いて、監督や俳優が少しでも自由になれるような環境を整える提案をするというのも、美術スタッフの仕事の一面だと思います」。


<ロケハン~セット製作まで 予算や効率を念頭に計画を組む>

例えば、このシーンはロケ撮影で、実際に存在する建物を使用するのか? それともスタジオにセットを組むのか? といった提案も美術監督の仕事。日本と中華圏、そしてハリウッドで、仕事の進め方が大きく変わっていく部分も。

「ハリウッドのプロダクション・デザイナー(=美術監督)は、ロケハンから入るのが当たり前ですね。実際、早い段階で入れば『ここはテキサスまで行かなくてもロスで撮影できる』とか、『これはスタジオでセットを組まなくとも、既存のあの家をちょっと改造すれば大丈夫』などと先を見越して提案できるから効率がいいんです」。

今回の『ファイティング・タイガー』は北京を舞台にした中国とアメリカの合作だが、先述のような“ハリウッドスタイル”で進められていった。例えば、主人公のタイガーが守ろうとする古寺はどのようなプロセスを経て美術としてカメラに収まることになったのか?

「まず、(撮影の拠点の)北京周辺の寺院――車で2時間くらいのところはひと通り見て回ったけど、キアヌが求める古くて素朴なお寺というのは残っていないんです。ないものはしょうがない、作るしかないということで、四川省に実在するお寺などを参考にしつつ、撮影所の敷地内に丸ごと作っちゃいました」。

本作では北京だけでなく、香港での撮影も行われているが、「香港の方が制作費がかさむ」とのことで、一部のシーンを除いて、出来うる限り北京で撮影を行なうことも提案した。

「先ほどのロケか、スタジオか? といった選択もそうなんですが、それで費用が大きく変わっていく部分です。そこは美術監督の腕の見せどころであり、信頼を勝ち取るための重要なアプローチでもあります。好き勝手に進めることはない。いかに効率よく、予算を抑えつつ進められるか? それを考えるのも大事な仕事です」。


<キアヌ・リーブスが種田陽平を起用した“意図”>

この古寺とは対照的に、キアヌ演じるドナカの家や、タイガーが戦いを繰り広げる闘技場などは、モダンな造りとなっている。細部の意匠について話を聞く中で、キアヌが種田さんを起用した意図が見えてくる。

「キアヌの中にある“イメージ”を引き出していくという作業でした。キアヌは、自身のルーツでもある“アジア”を非常に大事にしています。劇中のドナカも日本の血が流れているという設定で、彼の居住空間には格天井を用いたり、モダンな回転ドアも京都風の縦格子のデザインを取り入れたりしました」。

“監督”キアヌ・リーブスの印象として、種田さんはコミュニケーション能力の高さを挙げる。

「美術に関する打ち合わせでも、話し合ってすり合わせていくことが巧みでした。美術に関する造詣が深く、インテリアのデザインから、小包のパッケージ、名刺のデザインに至るまで具体的にリクエストを出してくる。一方で、こちらの提案にも耳をよく傾けてくれました。古いフランス映画やキューブリックの初期作品のシーンを引用することもありました。つまり、映画史の流れの中に身を置いているんですね。フィルムとデジタルの撮影をめぐるドキュメンタリーを作ったりしているし、いわゆる“ハリウッドスター”とは違うセンスの持ち主ですね」。


<「日本人であること」が美術に与える影響>

世界を股にかけて活躍する種田さんだが。海外で仕事をする中で“日本人である”ということを意識させられる部分は?

「まず、日本という国がすごく曖昧ですよね。アジアの一部でありつつも、その中心にいるかというとそうではなく東の端、“辺境”にいるわけだし。僕らに欧米のセンスがないわけじゃないけど、もちろんオリジナルとは全然違うし。だけどこの曖昧な『日本という国の日本人』という中にこそ、僕ら独自の立ち位置やバランス感覚のようなものがあるんじゃないか。そして、それを映画の中でうまく生かすことができれば、面白い世界を作れるのではないかと信じて仕事をしているところはあります。やはり、自分はサンフランシスコやロスで育った人間とは物の見え方が異なるところがある。日本人として生まれ育ったことで持っている美意識というのはあるはずだし、それを生かしていきたいと思います」。

公開中のスタジオジブリ作品『思い出のマーニー』では北海道という設定の中で、色鮮やかな緑が印象的な幻想に満ちた空間を作り出した。アニメーション作品での仕事について、種田さんはこう語る。

「ずっと実写畑でやってきて、どちらかというと僕は“アウトドア派”なんです。解決方法を探す時も、机にしがみついているよりも外に出て答えを探すタイプ。海外で仕事をする理由も、先ほどの話と矛盾するかもしれないけど、外に出ることで、自分でも気づかなかった自分の中にある“無国籍性”とか“インターナショナル”といった本質的なことに気づかされることがあるから。そういう経験やプロセスを積み重ねる中で、アニメーションでも仕事ができるようになった、という言い方が正しいかもしれません」。


<「ジブリという“国”でロケをした」――『思い出のマーニー』>

「ジブリでの仕事では『ジブリという国でロケをしている』という感覚で、あくまで“外”からその世界に入れていただいた人間として、小金井のスタジオに通ってました。もし、僕が完全にアニメに取り込まれて、『アニメの世界』として思考するようになっていたら、僕が美術を担当する意味はない。『ファイティング・タイガー』で多くの中国人スタッフと仕事をしたように、ジブリには、ジブリの国の美術部の素晴らしいスタッフが20人いるという気持ちで臨んでました。もちろん、アニメならではのジレンマもありました。実写なら『本番!』という声が掛かる直前に『ちょっと待って! このイスはもっとこちらに』と言えるけど、アニメはもう動かせない(苦笑)。でも、そうした制約の中で今回、いい仕事ができたと思います」。

自負を込めてそう語るが、奇しくも同じ時期に世に出ることになったこの『ファイティング・タイガー』に対しても、同じかそれ以上に強い思いを抱いている。

「それこそ『マーニー』と同じくらいの時間をかけて、力を込めて作り上げた美術です。『マーニー』の美術を見ていいなと思ったら、ぜひこちらの作品も見ていただきたいです」。

世界と日本、アニメーションと実写、ロケとセットなどなど、様々なポイントから、ぜひ日本を代表する美術監督の自信のお仕事を体感してほしい。


『キアヌ・リーブス ファイティング・タイガー』
発売中
ブルーレイ:3800円(税別)
DVD:3200円(税別)
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

<種田陽平/プロフィール>
日本を代表する美術監督のひとり。公開最新作は、スタジオジブリ『思い出のマーニー』。映画美術展「思い出のマーニー× 種田陽平展」の監修・美術監督、「ジブリの立体建造物展」 のコンセプトデザインも務める。岩井俊二監督作『スワロウテイル』、『花とアリス』、三谷幸喜監督作『THE 有頂天ホテル』、『ザ・マジックアワー』、『ステキな金縛り』、『清須会議』、李相日監督『フラガール』、『悪人』、是枝裕和監督『空気人形』など邦画話題作多数。また、『キル・ビル Vol.1』でクエンティン・タランティーノ監督、『The Flowers of War ; 金陵十三釵』でチャン・イーモウ監督、『セデック・バレ』でウェイ・ダーション監督、そして『ファイティング・タイガー』でキアヌ・リーブス監督とコラボレーション、海外の監督たちからも絶大な信頼を得ている。2010年に芸術選 奨文部科学大臣賞を、2011年に紫綬褒章を受けている。

《photo / text:Naoki Kurozu》

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