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【シネマモード】『LION/ライオン』原作者サルー「不幸を嘆くのではなく、いま起きていることを讃えよう」

5歳のときにインドで迷子になり、オーストラリアの里親のもとで育った青年が、25年後Google Earthを使って故郷を見つける…

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Saroo and Kamla - Photo credit Richard Malone/『LION/ライオン ~25年目のただいま~』 -(C) 2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia
Saroo and Kamla - Photo credit Richard Malone/『LION/ライオン ~25年目のただいま~』 -(C) 2016 Long Way Home Holdings Pty Ltd and Screen Australia 全 9 枚
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5歳のときにインドで迷子になり、オーストラリアの里親のもとで育った青年が、25年後Google Earthを使って故郷を見つける――。そんな驚きの実話をもとに描かれる映画『LION/ライオン ~25年目のただいま~』。作品の公開に先駆けて、原作本『25年目の「ただいま」 5歳で迷子になった僕と家族の物語』の執筆者にしてこの奇跡の主人公でもあるサルー・ブライアリー氏が来日したので、お話を伺ってきました。

映画を観れば誰もが、こんなことが起こり得るのかと思うほど、数奇な人生を歩んできたサルー氏。壮絶な体験を経たとは思えないほど穏やかなたたずまいの人物です。
「自分がどこから来たか、何者であるかということを知らずに生きる人生はとても辛いものです。かつての僕と同じ不安を抱えている人には、この本、そして映画が世に出ることで、自分にも長いトンネルから抜け出せる手段があるかもしれないと思ってもらえるといいなと感じたんです」。
本を執筆した最大の理由について聞くと、こう話してくれた彼。壮絶すぎる過去を語ることは辛い出来事を思い出すこととイコールでもあるはずなのに、惜しみなく経験を共有してくれようとする寛容さに、まずは驚かされました。

――あなたが迷子になったときと、いまでは世界を取り巻く状況がずいぶん変わっていますよね。あなたが使ったGoogle EarthやFACEBOOKの進化により、世界は以前より狭くなったようにも感じます。それでも、インドでは年間8万人もの子供たちが行方不明になっている。彼らを救うのは、人なのでしょうか、それともテクノロジーなのでしょうか。
「僕が迷子になってから30年近くの時が流れました。テクノロジーは進化し、世界は小さく感じられるようになったかもしれません。子どもたちが路頭に迷い、貧困に苦しんでいる現状もより明らかになり、その事実に関心を抱く人も増えています。きっと、彼らを救うのは、人でもありテクノロジーでもあるのでしょう。誰かを助けたいと思う人の心がまず大切です。それと、どうやったら助けられるかという知恵、そしてその知恵を補う方法が必要となる。もし、Google EarthやFACEBOOKという新しいテクノロジーがなければ、僕だって帰路を見つけられなかった。僕の場合は、帰りたいという希望を持ち続けること、そして希望を実現する手段が意味を持ったんです。テクノロジーの進化は、あのときの僕と同じような境遇の子どもたちを救う可能性を確実に広げていると思いますね」

――いま、あなたの人生は?
「素晴らしいです! 現在は映画や本の宣伝で世界を回っています。自分の過去を日々振り返り、25年間離ればなれだったインドの家族との関係を大切にしながら。25年前に一度閉じられてしまった関係が、4年前にやっと開き始めましたから」

――迷子になり警察に保護されて養子となるまで、あなたは5歳の子どもには過酷すぎるサバイバル生活を強いられています。当時のことを、今はどんな風に振り返っているんですか?
「あれはどうあっても忘れることのできない種類の経験です。そしてある意味では、とても大切な思い出なんです。心のとても近い場所にあると言うか。インドでの経験は、自分のアイディンティティを探すカギでもあるんです。つらい経験だからといって、あれをなかったものにしようとすれば、自分自身が損なわれてしまうと思っています」

――自分が経験してきたことは自分の一部であるとは言っても、あの経験を本に記すことは精神的にとても大変ではなかったですか?
「そうですね。もちろん、ひとり列車に閉じ込められてカルカッタにつき、そこで過ごした日々をふり返るのはとてもつらいことでした。でも、その一方で特別な経験でもあったんです。なぜなら、長いこと光を当ててこなかった部分を、オープンにしたわけですから、解放されたような気分でもあったんです。インドの家族と過ごした幼いころの日々を思い返すのも素晴らしい経験でした。すべての物事には、光と影があるものです」

――本を書くことと、映画を観ることは、自分の過去をたどるという意味では同じ旅のようでもありますが、感情的には大きな違いがありましたか?
「もちろん。映画はすべてがビジュアル化されていて、観ているだけで過去に引き戻されてしまいました。そして、当時の感情が鮮明によみがえってきました。ですから、冒頭からエンディングまで、目を向け続けるのはとてもつらいことでした。でも、こうも思ったんです。これが私の辿ってきた人生という旅なのは紛れもない事実だから、そんな運命を喜んで受け入れようと。なぜこうなったとか、どうして自分がとか、そういうことを考えるのはよそうと。世の中にはこういうことが起きてしまうもので、そこに答えはないんです。そこに意味を見出そうとすると苦しくなる。だから、こう思うようにしたんです。こんなことがあったにもかかわらず、僕はそこから抜け出して元気に生きている。素晴らしい家族がいて、この信じられない物語を語る幸運にも恵まれている。起きてしまった不幸を嘆くのではなく、いま起きている素晴らしいことを讃えようじゃないかってね」

――驚くべき経験を経て、人生で最も大切に思うものは?
「家族は僕にとっていつだって大事で、最優先されるべきものです。自分が幸せになるために必要な存在です。僕の人生はとてもシンプルなんです」

――25年の経験が教えてくれたこととは?
「自分の人生を生きたいなら、自分の心を従うということだということを学びました。世界は本当に神秘に満ちていると思います。つまり何が起きるかわからないんです。だから、人に従うのではなく、ほかの人がいいと言ったことをやるのではなく、芝生が青いからそこに行くのではなく、自分自身で判断することが大切だと思っています。自分自身が感じ、考え、夢見て、追及することでしかたどり着けない場所があるから。僕がGoogle Earthを使って故郷を探したときも、それは効果的なやり方じゃないとも言われたけれど、その意見に従っていたら、いまの僕はなかったわけです。これはシンプルなことですが、実行するのは難しいんですよね」

――まさにそれが、あなたが辿りついた真理であり、あなたが実践している生き方でもあるんですね。
「そうです。死ぬとき、“どんな人生だった、サルー?”と自問したとき、はっきりと自分の世界を築けたと答えられる人生を送りたいと願うばかりです」

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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