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【MOVIEブログ】2017カンヌ映画祭予習(5/5)

【批評家週間】

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【批評家週間】

「批評家週間」は若手監督の応援を使命としていて、長編1作目か2作目までの監督が対象にされています。「監督週間」同様、「公式部門」の映画祭とは別の事務局が運営していて、主催はフランスの批評家連盟です。

監督の知名度が低く情報が少ない分、片っ端から見るしかないのですが、その分「発見」したときの喜びは大きいです。昨年はフランスのティーン・カンニバル映画『Raw』が会場を絶叫と爆笑のカオスに叩き込んで歴史を作りましたが、果たして今年はどうなるでしょう?

長編コンペは以下の7本です。

レア・ミシウス監督(仏)『Ava』
グスタヴォ・ロンドン・コルドヴァ監督(ベネズエラ)『La Familia』
フェリペ・ガマラノ・バルボサ監督(ブラジル)『Gabriel and the Mountain』
エマニュエル・グラ監督(仏)『Makala』
平柳敦子監督(日)『Oh Lucy!』
マルセラ・サイド監督(チリ)『Los Perros』
アリ・スーザンデフ監督(イラン)『Tehran Taboo』

『AVA』(写真)のレア・ミシウス監督は89年生まれ。世界的に有名なフランスの映画大学フェミスの脚本科を卒業し、短編を3本監督して映画祭で評価され、カンヌのシネフォンダシオン(学生部門)で受賞し、初長編『AVA』が「批評家週間」入りしました。さらに今年のカンヌのオープニング作品であるアルノー・デプレシャンの『Ismael’s Ghost』には共同脚本として参加しており、着実に王道を歩んでいる感があります。『AVA』は視力を失いつつある13歳の少女の夏休みを描く物語。作品ビジュアルが鮮烈で、期待をあおります。

グスタヴォ・ロンドン・コルドヴァ監督は77年生まれ。ベネズエラとチェコで映画を学んだのち、短編の製作を開始してベルリンの短編コンペに入るなどの実績を残してきています。処女長編『La Familia』は荒れた郊外都市で問題を起こしてしまった少年とその父の物語。不穏な情勢が伝わってくる昨今のベネズエラから、どのような光景が届くでしょうか。

ブラジルのフェリペ・ガマラノ・バルボサ監督は80年生まれ。短編でサンダンスなどの映画祭に参加し、処女長編『Casa Grande』が2014年のロッテルダム映画祭のコンペに選ばれています。『Casa Grande』はブラジルの貧富格差や人種差別などの問題を盛り込んだ家族の物語で、実に秀逸な出来栄えでした。自分の当時のメモを読み返してみたら、グランプリ候補だと書いていて(実際は逃した)、早くもバルボサ監督の将来に期待していたものでした。

2本目の長編となる今作『Gabriel and the Mountain』は、大学入学を控えた青年が世界をバックパック旅行する内容とのことで、前作とはかなり異なるテイストのようですが、処女作で見せたストーリーテリングの上手さがどのように発揮されているか、「批評家週間」期待の1本です。

エマニュエル・グラ監督は76年生まれのフランス人男性。撮影を学び、ビジュアルにこだわりを持つ作家として活動し、短編ドキュメンタリー作品を複数本監督しています。今作『Makala』は2本目となる長編ドキュメンタリー作品で、コンゴの貧しい村で家族によりよい暮らしを与えようと苦闘する男の姿を追う内容のようです。徹底したリアリズムなのか、あるいは詩的なタッチなのか、未知の作家だけに好奇心がうずきます。

日本の平柳敦子監督は長野出身の75年生まれ。ニューヨークで学び、在学中に製作した短編『もう一回』が2012年のショート・ショート・フィルムフェスティバルで受賞し、修了作品の短編『Oh Lucy!』は2014年のカンヌ「シネフォンダシオン」(学生部門)で入賞、同年のトロント映画祭と翌年のサンダンス映画祭でも受賞するなど、世界の映画祭を席巻してきました。その短編を長編映画化したのが今回の『Oh Lucy!』で、主演は寺島しのぶさんに、ジョシュ・ハートネット。

すごい歩みですね。「批評家週間」に日本映画がノミネートされるのは10年振りとのこと(2007年の吉田大八監督『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』以来)。もはやこれは事件ですね。僕は極めて痛恨ながら短編を拝見していないのですが、長編『Oh Lucy!(オー・ ルーシー!)』のカンヌデビューの瞬間をしかと見届けたいと思っています。

チリのマルセラ・サイド監督は72年生まれ。2013年の処女長編『The Summer of Flying Fish』は同年のカンヌ「監督週間」に選ばれており、今回の2本目『Los Perros』が「批評家週間」です。「監督週間」→「批評家週間」という流れもたまにはあるのですね。今作は、チリの上流階級の主婦が特権的地位を謳歌するものの、国家の過去の暗い歴史が彼女の生活に暗い影を落としていく内容とのことで、これはとても興味をそそられます。ブラジル、コロンビア、チリ、これら南米諸国の映画界はとても活気があり、もっと日本にもその勢いを紹介したいところです。

イランのアリ・スーザンデフ監督は1970年生まれ。95年からドイツを拠点に活動し、長編監督デビュー作となる『Tehran Taboo』はドイツ・オーストリア映画とクレジットされています。本作はアニメーションで、3人の女性とひとりの男性ミュージシャンを主人公に、テヘランではびこる腐敗、売春、ドラッグ、そして宗教的タブーが描かれる内容とのこと。テヘランを経験したばかりの僕には、もう必見中の必見で、しかもアニメーションとなればさらに興味も倍増です。これはヤバいですね。

以上が「批評家週間」の長編コンペです。この部門のコンペにドキュメンタリーとアニメーションが入ったのは初めてだそうで、部門の活性化を目指す主催者の意欲が感じられます。

そしてこの部門の特別上映扱いになっているのが下記3作品です。

ファビオ・グラッサドニア監督&アントニオ・ピアッツァ監督(伊)『Sicilian Ghost』
ユベール・シャルエル監督(仏)『Bloody Milk』
ティエリー・ドゥ・プレッティ監督(仏)『A Violent Life』

ファビオ・グラッサドニア監督とアントニオ・ピアッツァ監督のシチリア出身コンビは前作『Salvo』(2013)が「批評家週間」のグランプリを受賞しており、日本では翌年のイタリア映画祭で上映されています。ヒットマンの青年と盲目の少女のドラマを描いた『Salvo』は、ノワールなサスペンスと繊細な人間ドラマが上手く融合した濃厚な作品でした(『狼は暗闇の天使』のタイトルでDVD発売されています)。

新作『Sicilian Ghost』は、シチリアの森の外れの村で行方不明になった少年を探す少女の物語。おとぎ話というか、ファンタジー的な展開もあるようですが、それがどのようなタッチで描かれているのか、これまたとても見たい1本です。

フランスのユベール・シャルエル監督は1985年生まれの男性で、農家出身でしたが映画を志し、2011年にフェミスを卒業。『Bloody Milk』が第1作で、家畜が伝染病に感染して苦悩する若い農場主の物語だとのこと。なぜコンペでなく特別上映扱いになったのか分からないのですが、自らの出自を題材にしていることから「特別」になったのかもしれません。ちょっと興味をそそられますね。

ティエリー・ドゥ・プレッティ監督もコルシカ島出身のフランス人で、1970年生まれの男性。演劇界で演出を手掛け、映画では俳優として出演したのち、2013年に『Les Apaches』でカンヌ「監督週間」入りを果たしています。今作『A Violent Life』が長編2作目。コルシカの暗部を主題にした作品で(前作もコルシカが舞台だった)、これまた監督自らのルーツを扱っているようです。

以上、「批評家週間」の長編作品をチェックしてみました。本数が絞られている分、個々のクオリティーは毎年高く、必ず発見があります。上映劇場がメイン会場と少し離れているのでハシゴが難しいのですが、やはりきっちりと通いたい部門です。

【ACID部門】
カンヌといえば「コンペ」「ある視点」「監督週間」「批評家週間」と思っている人も多いかもしれませんが、「ACID」という部門がここ数年存在感を増してきています。

ACIDはAssociation du Cinema Independent pour sa Diffusionの略で、「インディペンデント映画普及協会」と訳せばいいでしょうか。インディペンデントの監督たちで作っている組織で、1992年に発足し、カンヌでは1993年から自主的に部門を開設しています。配給会社やセールス会社のついていない作品、つまりは監督が自ら上映に向けて行動しなければならない作品群が紹介されます(もっとも、カンヌで上映されるまでには会社がついていることも多く、これもカンヌで部門を持つメリットであるのは間違いないでしょう)。

僕も数年前まではACIDにまで手が回らなかったのですが、注目作が上映されることが増え、同僚たちと手分けしてなるべく見るようにしています。今年はさらに充実しているとの下馬評が届くので、チェックしないわけにいきません。

マリアナ・オテロ監督(仏)『L’assemblee』
Maryam Goormaghtigh監督(仏/イラン?)『Avant la fin de l’ete』
マリー・デュモラ監督(仏)『Belinda』
イラン・クリッパー監督(仏)『Le ciel etoile au dessus de ma tete』
クリスチャン・ソンドレゲール監督(仏)『COBY』
リラ・ピネル監督&クロエ・マイユ監督(仏)『Kiss and Cry』
チャン・タオ監督(中)『Last Laugh』
クリストフ・アグー監督(仏)『Sans Adieu』
マタン・ヤイル監督(イスラエル)『Scaffolding』

マリアナ・オテロ監督は『L’assemblee』が第4作目で、フランスの新しいデモ集会の形態を考察するドキュメンタリー。『Avant la fin de l’ete』はイラン出身(と思われる)監督の第1作長編ドキュメンタリーで、パリで5年過ごした後、イランへ帰国を決意する青年を友人たちが何とか引き留めようとする内容で、楽しそうです。『Belinda』はマリー・デュモラ監督の4本目となるドキュメンタリー。ベリンダという女性の9歳、15歳、23歳の姿が描かれるということで、それだけの年月カメラを回したのだろうか、それとも実験的な作品なのだろうか?

イラン・クリッパー監督『Le ciel etoile au dessus de ma tete』はフィクションで、処女作が話題になった小説家の30年後の痛々しい姿を描く物語。主演は最近のフランス映画で少しずつ見かけるようになってきたローラン・ポワトルノー、そして共演に僕が好きなマリリン・カントの名があるので、この作品はとりわけ惹かれます。

クリスチャン・ソンドレゲール監督は『COBY』が初長編ドキュメンタリー。アメリカ中西部で性転換をする女性と周囲の反応を追った内容とのこと。近年、世界各地でLGBTを主題とした作品に強力なものが多いので、これは是非ともチェックしたいところです。

『Kiss and Cry』はコンビ監督の1作目でフィクション。競争の激しいフィギュアスケートの世界に身を置く少女の日常をリアリズムで描いた作品、かな? 題名は、競技後に点数発表を待つあの場所のことですね。

チャン・タオ監督『Last Laugh』は香港とフランスの合作とクレジットされています。監督の処女長編で、中身は完全に中国映画のようです。老いた母親と彼女の面倒を見ようとしない子どもたちの関係を描くドラマで、舞台は中国農村部。どことなく『東京物語』を連想させるプロットです。

クリストフ・アグー監督も『Sans Adieu』が1本目の長編ドキュメンタリー。フランスの農村部に暮らす75歳の女性と隣人たちが現代社会に戦いを挑む姿を追う内容とのことで、グローバルなテーマをローカルに描く作品が期待できるでしょうか。

イスラエルのマタン・ヤイル監督は『Scaffolding』が処女長編で、フィクション。17歳の青年が文学の道に進むか、父親の会社を継ぐかで悩む青春映画。イスラエルとポーランドの合作です。

そして、ACID部門の「特別上映」的な扱いをされているのが、俳優のヴァンサン・マケーニュが初監督した『Pour le reconfort』です。2010年代に入ってから、冴えない風貌と抜群の演技力であっという間にフランス映画界に欠かせない存在となったヴァンサン・マケーニュですが、日本でも『女っ気なし』(2011)はじめ数本が劇場公開されているし、アンスティチュ・フランセで特集し来日もしているので、彼の魅力に振り回されている人も少なくないはずです。

初監督作『Pour le reconfort』にヴァンサンは出演せず、演出に専念しているようです。両親の土地の相続問題と、その土地を買おうと企む近隣の友人たちの関係で悩む兄妹の物語とのこと。果たして俳優ヴァンサンが得意とするコメディー系なのか、それとも自らの芸風とは関係のない世界観なのか、全く予想がつかないところもヴァンサンという存在の持つ魅力だと思います。これは必見でしょう。

以上、「批評家週間」と「ACID」の両部門を見てみました。これで主要部門はほとんどチェックしてきたことになりますが、短編やクラシックが抜けています。いずれも重要であることに変わりはないのですが、僕の業務が主要部門に集中することにもなるため、泣く泣く割愛致します。

それにしても、5回ブログを書いてきて、この作品は見なくてもいいかな、と思った作品が1本もないのが恐ろしいです。有名監督作はもちろん、一見知らない監督や作品でも、少し調べてみると実は過去作を見ていたり、意外な役者が出ていたり、内容がとても興味深かったり、流せる作品が全くない。さすがカンヌなのだけど、本当に何を優先すべきかが分からなくなってしまい、スケジュールの立て方に悩みまくることになります。

長い長い予習にお付き合い下さいまして、ありがとうございました。今年のカンヌの予習になるだけでなく、作品や監督の飛躍次第では今年1年、あるいは向こう数年の予習にもなると思い、せっせと書いてみました。あとは、実際の出張でどのくらい報告できるかですが、ともかく頑張ってみます。

良き出会いがありますように!

《矢田部吉彦》

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