ミケランジェロ・アントニオーニ、ルイス・ブニュエル、ジョゼフ・ロージー、ルイ・マル、フランソワ・トリュフォー、オーソン・ウェルズ…偉大な監督たちと名作、傑作を残し、恋多き女優としても知られたジャンヌ。自由と愛に生きた大女優は生前数々の名言を残した。愛について、老いについて、仕事について。逝去を受けてフランスの各メディアが紹介した名言の中から、彼女の歩みをふり返ってみよう。
■恋愛について

恋愛、それはポタージュみたいなもの。最初の数匙は熱すぎて、最後には冷たくなりすぎている。(「Le Monde」ウェブ版)
一児をもうけた最初の夫で映画監督のジャン・ルー・リシャール、2年間結婚していたウィリアム・フリードキン監督、代表作の1つ『死刑台のエレベーター』(57)のルイ・マル監督と同作の音楽を手がけたマイルス・デイヴィス、『夜』(61)で共演したイタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニ…数多くの浮名を流したジャンヌ。『黒衣の花嫁』の衣装を手がけたピエール・カルダンに恋したときは、「もっと服が見たいから」と口実を作ってアトリエまで足を運んだとか。猛アプローチの末に同性愛者だったカルダンの愛を勝ち取ったが、この恋もやがて冷めてしまった。
自由とは、どの男の奴隷になるかを選べることよ。(「Le Monde」ウェブ版より)
2012年に「TeleObs」のインタビューで「多くの男性を誘惑してきたわ。私は常に才能のある男性たちと一緒だった」とふり返ったジャンヌ。恋に落ちるという現象を、こんな風に言い表している。
私が愛した男たちの共通点? 私よ!(「Le Monde」ウェブ版より)
「誰の奴隷になるか」と言いながらも、結局それを決めるのは自分。選ばれるのではない、という自負が見て取れる。
■老いについて

年齢は恋愛の危険からは守ってくれない。でも恋愛は、ある程度までは、年齢のもたらす危機から守ってくれる。(「ル・モンド」紙電子版「引用辞典」より)
老いに対する恐怖は、年齢そのものよりも人を老いさせるのよ。(「マダム・フィガロ」2008年1月19号より)
歳をとると、人は自分の殻に閉じこもって頑固になる、と昔から言われているけれど、私の場合は、時が経つにつれて皮膚がどんどん薄くなっているわ。すべてを感じ取り、すべてが見えるの。(「ル・モンド」紙電子版7月31日付追悼記事中より。80歳になる直前の発言)
■仕事について

役というのは、脱ぎ捨てられる皮膚みたいなものだけど、(演者の中に)痕跡は残る。だから人間というものを知るためには素晴らしい方法なのよ。(「L’art du theatre」1988年8~10号より)
名声には感謝している。女優の仕事がもたらした成功についても。でも、権力と結びつく意味での成功は受け入れないわ。(「L’art du theatre」1988年8~10号より)
近年ではフランソワ・オゾン監督の『ぼくを葬る』(05)やマノエル・ド・オリヴェイラ監督の『家族の灯り』(12)に出演、『クロワッサンで朝食を』(12)に主演するなど、歳を重ねても現役で活躍し続けたジャンヌ。老練というより軽やかさ、瑞々しさすら感じさせる演技は、彼女の老いの哲学を具現化している。
現在、ジャンヌの1963年の主演作『天使の入江』が「特集上映 ドゥミとヴァルダ、幸せについての5つの物語」の1本として、シアター・イメージフォーラムで上映中。