日本でも11月公開予定の本作、その人気のシークレットに迫ってみた。
■ブランド名の強さ
本作は、作家スティーヴン・キングの人気小説が原作。キングといえばモダンホラー小説の代名詞にもなっており、いわばブランドと化している。なんといっても、“スティーヴン・キング”という言葉が「広辞苑」にも載っているほどだから凄い。キングの短編小説なども含め、映画・TV化された作品は延べ数にして70作以上にのぼる。『シャイニング』、『ショーシャンクの空に』、『スタンド・バイ・ミー』などはその一部だが、必ずと言っていいほどヒットするところがまた凄く、本作も例に漏れずといったところ。
■ストーリーのヒントになっている恐ろしい実話の知名度
1972年から1978年の間に米国イリノイ州で33人の少年たちから命を奪い、世界中をショックに陥れた連続殺人鬼ジョン・ウェイン・ゲイシー。この男がピエロの格好をして子どもたちのパーティーや福祉施設を訪れていたこと、獄中でも四六時中ピエロの絵を描いていたことから、この連続殺人事件をきっかけにピエロが不気味の代名詞となった。
キングが描いた悪魔ピエロのペニーワイズは、この連続殺人鬼ゲイシーをモデルにしたキャラクターであることがよく知られており、実話の存在がペニーワイズの不気味さを増幅している。また、この事件を知らない若い世代や幼い子どもたちにしても、大人のリアクションやホラー映画の影響からか、往往にしてピエロは「気味が悪い」という意識があり、ピエロ自体が恐怖映画にはもってこいのキャラとなっている。
■ヒット番組の現代版リメイク
本作は1990年全米放映され大ヒットしたTVミニシリーズのリメイク。ミニシリーズは、子ども時代と大人になってからの前後編から構成され(劇場版もこれにならう予定)、当時TVシットコムで大人気だった俳優、故ジョン・リッターや、映画『スーパーマン3』でスーパーマンの恋人を演じて当時人気の女優アネット・オトゥール、そしてペニーワイズには『ロッキー・ホラー・ショー』でお馴染みのティム・カリーと、当時有名なスターが顔を揃えたことでも話題となった。本作劇場版では、ペニーワイズの不気味さを新世代に伝え往年のファンたちにも懐かしい不気味さを味わってもらおうと、27年ぶりにリメイクしたものだが、タイミング的にも大当たりだったようだ。
■新ペニーワイズの恐怖
悪魔そのものといった感じのペニーワイズを新たに演ずるのは、日本でも人気上昇中の若手俳優ビル・スカルスガルド。お父さんが有名俳優ステラン・スカルスガルドというサラブレッドのビルは、さすがに演技力も只者ではなくペニーワイズの気味の悪さは半端ではない。
1990年のTV版でティム・カリーの演じたペニーワイズも気持ち悪かったが、ビル・スカルスガルド演じる新バージョンのペニーワイズは凄いスペシャルメイクも手伝って、ひと目見ただけであとで悪夢にうなされそうなほど怖く、これにビルの鬼気迫る演技が加わると大画面では見ていられないほどの恐怖心を掻き立てられる。だいたいこんなものが下水溝から顔を覗かせていたら、トラウマで下水溝恐怖症に陥ること請け合いである。映画の中の少年は、こんなものと言葉など交わすから誘拐されてしまうのである。
■黄色いレインコートと赤い風船の恐怖
本作のポスターは、黄色いレインコートを着て赤い風船を持った男の子がこちらには背を向け真っ黒な闇に向かってただ立っているというもの。ペニーワイズの影は見当たらないものの、少年と暗闇のコンビネーションが十分に気味悪い。「純粋」さと「不気味」さがジワジワと伝わってくるインパクトのあるポスターで通りがかりの人たちの興味を引く。
赤い風船と言えばペンシルバニア州のとある小さな街で、映画公開2週間ほど前にちょっとしたパニックが起こった。9月5日の朝、住人たちが住宅街の一角にある下水溝のマンホールから糸のついた赤い風船がフワフワ浮いているのを見つけたのである。「気味が悪いからどうにかして!」という怯えた住人からの電話が地元警察に殺到。普通ならただの妙なイタズラとして済ませられるだろうが、『IT~』を知っている人たちにとっては、下水溝に赤い風船とくれば子どもをさらって行く例の恐ろしいピエロが頭にチラつくわけで心穏やかでない。
この一件には警察が出動してあたりの無事を確認するとともに、警察署のツイッターから「ただのイタズラとは思いますが、気味が悪いので止めるよう通告します」というお達しが配信された。このニュースは瞬く間にオンラインは元よりネットワークのニュースでも取り上げられ、結局犯人は分からなかったものの、映画の話題がヒートアップする結果となった。
とにかく全米でセンセーションともいえる話題を巻き起こしたこのホラー映画。みなさんもぜひその目で怖さを確かめてきてほしい。(text:Akemi K. Tosto)