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【MOVIEブログ】2017 TIFF作品紹介ワールドフォーカス部門(1/2)

10月25日に開幕する東京国際映画祭で上映される作品についてブログに書いていますが、今回は「ワールドフォーカス(WF)」部門の中から、いくつか紹介します。

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『サッドヒルを掘り返せ』
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10月25日に開幕する東京国際映画祭で上映される作品についてブログに書いていますが、今回は「ワールドフォーカス(WF)」部門の中から、いくつか紹介します。

同部門は、海外の映画祭の受賞作や有名監督の新作の中から、8月末時点で日本公開が決まっていない作品をピックアップする部門です。つまり、海外では話題作なのに日本では見る機会がないかもしれない貴重な作品を取り上げる部門で、今年は19本です(リバイバルや特集を含めると24本)。主として欧米系の作品を僕が選び、アジア系を石坂健治氏が選んでいます。

当然ながら全てがお勧めで困ってしまうのですが、まず今年まっさきにオススメしたいのが『サッドヒルを掘り返せ』であります。今年は選定時期を通じて面白いドキュメンタリーに出会うことがとても多く、各部門に少しずつ含まれてはいますが、絞り込みはとても辛い作業でした。本作は、予備選考スタッフ絶賛の声を受けて僕が見て、鑑賞直後に即決して招待オファーを送るという経緯を辿った作品です。

『続・夕陽のガンマン』(66)はクリント・イーストウッド主演のマカロニ・ウェスタンの名作で、今でも根強い人気を誇っています。ラストの対決シーンが有名で、広い墓地で3名の男が向かい合います。その墓地は、スペインのサッドヒルという山間の僻地にロケセットとして作られたのですが、撮影が終わるとそのまま放置されていました。

そして映画が神話となって50年が経とうとしているころ、あの「墓地」がそのままになっているというウワサが広まり、土やコケに覆われている「墓地」を掘り返して撮影現場を再現しようというファンが現れます。そしてその作業の様子はSNSで広まり、週末ごとに参加者が増えていくのでした!

本作は、『続・夕陽のガンマン』の関係者(音楽のエンニオ・モリコーネ!など)に話を聞き、作品の成り立ちを詳しく見ていきながら、墓地の復元作業が『続・夕陽のガンマン』の50周年イベントへと発展していく様子を追っていきます。つまり、単に過去の名作を振り返る作品ではなく、現在のドキュメントが平行して進行するスリルがあり、そして最後はリアルタイムな感動へと繋がっていくのです。もう、それは見事な作りです。

日本でもロケ地やアニメーションで描かれた場所を詣でる「聖地巡礼」が話題ですが、本作はまさに究極の「聖地巡礼」映画であり、これほど映画愛が溢れる映画に出会える機会は滅多にないんじゃないかと思います。映画ファンの夢と希望がぎっしりと詰まり、本当に幸せな映画です。『続・夕陽のガンマン』を見ていない人でも構わないというか、むしろ見ていない人に見てもらいたい! もちろん、見ている人は必見中の必見ということで、これは今年の超オススメです。

もう1本スペイン繋がりで紹介すると、『ライフ・アンド・ナッシング・モア』という作品があります。英題のカタカナでない、マシな邦題を付けたかったのですが、どうしても決め切れず時間切れになってしまいました。「これが人生ってやつさ」とか、「そして人生は続く」とか、そんなニュアンスで受け取ってもらえたらと思います。

本作はサンセバスチャン映画祭のコンペに出品されて国際批評家連盟賞を受賞しています。アントニオ・メンデス・エスパルサ監督はカンヌ批評家週間部門の作品賞を受賞した前作『ヒア・アンド・ゼア』(12)の上映で東京国際映画祭にも来日してくれました。『ヒア・アンド・ゼア』は、アメリカへの出稼ぎから故郷のメキシコの村に戻った男とその家族の関係を描きましたが、今作の舞台はアメリカのフロリダ。前作同様、ドキュメンタリーとフィクションを融合させた、実にリアルなタッチが冴える作品です。

まず、毎年ワールドフォーカスを楽しみにしてくれているコアな映画ファンにはお勧めしたいです。撮影スタイルが独特で、編集のタイミングも絶妙です。基本がワンシーンワンショットの長廻しで、それだけでも見応えがあるのですが、シーンとシーンの間で時間が経過するので、物語の進行のテンポは速いです。この「じっくりしているのだけど、全体としては速い」というテンポが僕には独特で、とてもはまりました。

監督は前作でとったアプローチを今作でも採用したようです。つまり、現地に密着し、そこで暮らす人の中から映画に出演する人を選び、その人たちと一緒に物語を作っていくというやり方です。映画自体はフィクションではあるけれど人物たちの生活はリアルということで、コンペの『ナポリ、輝きの陰で』でも同様のアプローチが取られています。

主役となるのは、黒人少年のアンドリュー。父は服役中で、母は(ネグレクトまではいかないものの)育児より自分のことが優先というタイプ。家の中は安定しないし、外では人種差別も激しい。こんな環境の中で、アンドリューの人生にはどんな選択肢があるのか。アンドリューのサバイバルを見つめて行くエモーショナルなドラマです。

アンドリューと母親、そして母の恋人の男ら出演者たちの生身の存在感の素晴らしさ、ひとつひとつのシーンの完成度の高さ、独特なリアリズムのタッチ、そして何よりも全体を包む監督の目線の温かさとヒューマニズム。現実はヒリヒリと痛いけれど、鑑賞後には深い充実感に浸れるはずです。

もうひとつ同様のスタイルで作られた作品があります。アメリカの『キープ・ザ・チェンジ』です。監督が出演者とともに物語を作り上げ、内容はフィクションではあるけれど生きている世界は彼らのリアル、という作品です。

高機能自閉症とされる男女が主演しています。監督は十数年来の友人である男性を通じて自閉症の大人たちの世界を知り、彼らとともに映画を作ることを決心したそうです。ワークショップを重ね、4年という年月をかけて彼らが演じるキャラクターを作り、物語を編み、ついに感動的なラブストーリーを完成させました。

物語の紹介は最小限に抑えますが、主人公のデヴィッドがセラピーに通う羽目になり、そこで出会ったサラに惹かれていく物語です。デヴィッドが金持ちの息子で女好きという設定からしてナイスで、ふたりの「症状」が恋の行方にどのように影響するか、あるいは周囲の心配や偏見がいかに作用するか、観客もハラハラドキドキしながら見守ることになります。

自閉症の大人たちのコミュニティーが背景にありますが、本作は何よりもまず美しいニューヨークを背景にした、笑って泣けるロマンティック・コメディーです。是非とも肩の力を抜いて楽しんでもらいたいし、そして意外なラストに大いに感動してもらいたい! トライベッカ映画祭でプレミア上映されて大好評を博し、見事アメリカ映画部門で作品賞を受賞しています。

心温まる作品からガラリと変えて、血が凍るような作品に移ります。『シリアにて』という作品。血が凍るように恐ろしい作品ですが、ベルリン映画祭「パノラマ部門」の観客賞受賞が示すとおり、観客に支持される作品です。

シリア内戦下の町の一角にあるアパートの一室を舞台にし、その家のタフな女主人が家族と隣人たちを守る姿を描きます。家の外では市街戦が絶え間なく続いており、一歩外に出るとスナイパーに狙われるという状況下、まったく身動きが取れない。建物は爆撃に揺れ、そして混乱に便乗した強盗たちがドアをこじ開けようとする…。

この緊迫感はただ事ではないです。直接的な暴力描写は抑えられ、外部の銃撃音や、室内で身を潜める人々の目線や表情で恐怖を伝える演出が抜群の効果を上げていきます。これは本当に怖い。

ニュースでしか知り得ず、しかし世界中に影響を与えているシリア内戦が少しでも身近に感じられる気がします。住民がこんな状況に置かれていることに戦慄せずにいられません。監督は、知人の父親が何週間も家から外に出られないという話を聞き、急いで本作を撮る必要性に駆られたそうです。シリア出身の知人や、シリアからの難民に脚本を見せ、実際の状況から逸脱していないか確認を怠らなかったとのことで、作品のリアリティに間違いはありません。

シリアスな戦争ドラマですが、一級のスリラー映画とも呼べます。幅広く映画ファンに「楽しんで」もらえる作品だと断言します。

もう1本、オーストラリアの『スウィート・カントリー』にも触れます。これは特に大スクリーンに映えるのでお勧めしたい。1920年代のオーストラリアを舞台にしたウェスタン的ドラマで、荒涼とした大砂漠の風景が圧巻の作品です。

白人の入植者とアボリジニの理不尽な関係を軸にしたドラマです。砂漠の中に建てられた町や酒場、あるいは保安官の存在など、ルックには確かにアメリカの西部劇と共通点が多いと言えます。アボリジニへの差別を主題とした作品を作り続けているウォーリック・ソーントン監督は、広大な映像美の中でスケールの大きい物語を語っていきます。

ヴェネチア映画祭で審査員特別賞を受賞している本作を、是非シネコンの大スクリーンで堪能して頂きたい!

さらに大画面で堪能して頂きたい作品が『マカラ』です。アフリカのコンゴの辺境の地を舞台にしたドキュメンタリーで、見たことがない映像が眼前に広がる幸せが味わえる作品です。僕は何も知らずに見てとても驚いたので、出来れば何も知らずに見て驚いてもらいたい(というか、映画祭の作品は全部そう思っているのだけど、解説ゼロだとさすがに誰も見てくれないので難しいところです…)。

『マカラ』は、今年のカンヌ映画祭の「批評家週間」部門で作品賞を受賞しています。青年は近くの森で生活の糧を手に入れ、離れた町まで行商に向かいますが、この収穫と旅が圧巻なのです。これが日常だと思うと目まいがしますが、これも確実に世界であるのです。なんというか、見たことのない映像に圧倒されながら、労働の意味や価値について、基本に立ち返って考えてしまうような作品です。ドキュメンタリーの持つ力を思い知らされる1本。是非とも大スクリーンで!

大スクリーンで見てほしい作品つながりで行くと、 『ガーディアンズ』の美しさも筆舌に尽くしがたいものがあります。グザヴィエ・ボーヴォワ監督の新作です。たくさんある見どころの中で、美しくスクリーンに映える農作業の様子はまさに眼福、ミレーの「落ち穂拾い」や「晩鐘」といった絵画が忠実に再現されているようで、息を飲む美しさです。カメラはキャロリーヌ・シャンプティエ。主演のナタリー・バイの佇まいも、もはや神々しく、キャリアベストの1本になると思います。

フランス映画に馴染みがあるファンには、『ガーディアンズ』に加え、クレール・ドゥニ新作 『レット・ザ・サンシャイン・イン』や、アルノー・デプレシャン新作 『イスマエルの亡霊たち』などは、僕がここでメンションするまでもなくチェック済みのことでしょう。ちょっとフランス映画が多くなってしまっていますが、カンヌ映画祭話題作を追っていくとこれら有力監督作品は絶対に外すわけにはいきません。ご期待下さい!

そして、必見揃いのワールドフォーカス欧米編の中で最後に触れたいのが『レインボウ』です。パオロとヴィットリオのタヴィアーニ兄弟監督新作です。ヴィットリオが1929年生、パオロが1931年生。いまだに新作がコンスタントに届くことが驚異的ですが、『塀の中のジュリアス・シーザー』(12)がベルリン映画祭のグランプリを受賞し、『素晴らしきボッカッチョ』(15)も実に瑞々しい作品で、近年でも製作ペースが衰えていません。

しかし、これは書き方がとても難しいのですが、今作『レインボウ』はふたりで作る最後の作品になるかもしれないという見方がイタリアではあるようです。そうならないことを心から祈ります。巨匠監督ほど老年になると作品が若々しく、良い意味で軽くなるという傾向がありますが(晩年のロメールやシャブロルがそうだった)、『レインボウ』の風通しの良いことと言ったら! これはやはり巨匠の技の極みなのかもしれません。

第2次大戦下、ファシズム勢力に対抗するレジスタンス軍に参加する青年を中心とする青春映画です。原作はイタリアの若者にとってはライ麦畑的なバイブルの書であるとイタリアの友人から聞きましたが、タヴィアーニ兄弟にとっては同世代の物語なのでしょう。恋の痛みや、恋敵である友人への複雑な思い、そして戦争の狂気も描き、映画全体は珠玉の美しさに包まれています。シネコンの美しいスクリーンで見られる機会は貴重なはずです。ゆめゆめ逃されませんように!

以上、ワールドフォーカス部門の欧米作品の紹介でした。なんでもかんでもおススメしてしまうとメリハリがなくて困ったものですが、本当に面白いのだからしょうがないです。どうぞお楽しみに!

《矢田部吉彦》

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