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現在ではファッションアイコンとしてとらわれがちな“パンク”だが、70年代当時は「ムーブメントであった」と、本作で衣装デザインを務めるロンドン出身のサンディ・パウエルは言う。『恋におちたシェイクスピア』『アビエイター』『ヴィクトリア女王 世紀の愛』でアカデミー賞衣装デザイン賞に3度輝き、『ベルベット・ゴールドマイン』『キャロル』に『シンデレラ』など9度にわたって同賞にノミネート。サンディが“関わればアカデミー賞”といっても過言ではない、現代の映画界にはなくてはならない存在の1人だ。
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パンクに影響を受けた異端の映像作家デレク・ジャーマン監督の衣装デザインを手掛け、自身もロンドン・パンク界に身を置いていたサンディが本作で目指したのは、“リアルなパンク”。
「観客が少しでも遠い惑星の存在を信じるためには、地球が現実的な世界でなくてはならないと思ったの。この映画のパンクは、いまの人が思い描く多色な髪の毛や大きなモヒカンではなく、もっと初期のころの制服を切り裂き、自分の持っているものを利用していたパンクよ。ファッションではなくムーブメントだったころの」とこだわりを語る。
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摩訶不思議なパーティにもぐりこんだエンが、遠い惑星からやってきたザンと初めて会うのは、彼女が属するコロニーの規律に嫌気がさし、身に着けていた服をハサミで切り裂き、まさに“パンク”しようとしていた瞬間だ。ザンが身に着けているラテックス製のワンピースは、いま見てもファッショナブルでキュート。ザンたち惑星の人々のビジュアルについてサンディは、「サブカルに見えつつ、魅力的な若者のグループである必要があった」と語り、エリザベス女王即位25周年の式典に、彼らが本物そっくりのユニオン・ジャックの雨用ポンチョを着てうまく溶け込もうと試みるのも、彼女ならではの天才的発想といえる。
ちなみに、エル・ファニングはそのワンピースについて、「この衣装を着るには、2人に手伝ってもらう必要があったのよ。ローションを塗ってするっと簡単に着られるようにしたり…毎回おおごとだったわ」とふり返って笑う。
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また、ザンがひょんなことからステージに立ち、エンと一緒にライブを行う場面があるが、ザンのトップスは、プラスティックのごみ袋で編み上げられたユニークな衣装になっている(この衣装は、撮影中にライトの熱で何度も解けて大変だったとか)。普段では使わない素材を衣装に取り入れるという意味では、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のクライマックスのライブシーンにも繋がる。この場面でミッチェル監督自身が演じるヘドウィグが着ているのは、包装ビニールを体にグルグルに巻き付けた衣装で、ライブ中についに壊れてしまったヘドウィグは、それを自ら引き裂いてしまう。そして本作でも、このライブの終盤、ザンとエンの今後を左右する決定的な出来事が起こり、この場面にはミッチェル監督の思いが詰まっていると言えそう。
さらに、エンと逃避行に出た後のザンのトレードマークとなるヴィンテージのコートは、シェフィールド(イギリス・イングランド中央部にある工業都市)の古着屋から調達したこだわりの1品。
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また、本作にはオスカー女優ニコール・キッドマンが、若きパンクロッカーたちを仕切るカリスマ的存在ボディシーア役で出演しているが、かつては「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」に勤めていたが、服の色でモメてクビになったという役どころだけあり、彼女の衣装もアナーキーを体現したようなぶっ飛んだものばかり。ニコールも、パウエルが自分のために考えたスタイルを見て興奮を隠せなかったという。
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そのほか、英国でパンクが爆発な広がりを見せていた、まさにその渦中にティーン時代を過ごしていたサンディならではの“リアルなパンク”。エンとザンの恋の行方とともに、魅力的なファッションもチェックしてみて。
『パーティで女の子に話しかけるには』は12月1日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開。