■下積みからの飛躍!巨匠の作品に呼ばれる売れっ子に
1970年にマサチューセッツ州で生まれたマットはハーバード大学に進学した88年に、ジュリア・ロバーツ主演作の『ミスティック・ピザ』で映画デビューを飾った。といっても、これはセリフがたった1行の端役。その後しばらくはチャンスをつかめず、注目されたのは1996年、エドワード・ズウィック監督の『戦火の勇気』でヘロイン中毒の元兵士を演じたとき。わずかな出演シーンのために18キロも減量した姿は強い印象を残し、フランシス・フォード・コッポラ監督の『レインメーカー』(97)、スティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(98)と巨匠の作品に呼ばれる売れっ子に。
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そして何と言っても幼なじみで親友のベン・アフレックとのコンビ作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)の大成功が大きく背中を押した。無名の若手俳優だった2人が共同で手がけた脚本をガス・ヴァン・サント監督が、マット主演で映画化。第70回アカデミー賞で脚本賞に輝き、2人は俳優としても大ブレイクを果たした。
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■コラボレーションの数の多さはマットの特徴
監督や俳優仲間とのコラボレーションの数の多さはマットのキャリアの特徴だ。『オーシャンズ11』(01)で出会ったスティーヴン・ソダーバーグ監督やジョージ・クルーニーと友情が生まれ、『オーシャンズ』シリーズや最近では『恋するリベラーチェ』(13)などソダーバーグ監督作、ジョージの監督作にも出演。ヴァン・サント監督との仕事では出演のみならず、脚本や製作を手がけた。その1作『GERRY ジェリー』(02)はベンの弟・ケイシーとの共演作だが、そのケイシーが昨年、アカデミー賞主演男優賞を受賞した『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)はマットがプロデューサーを務め、作品賞候補にもなった。
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主役は本来マット自身が演じるはずだったが、スケジュールの都合で実現せず、マットは「ケイシー以外には渡したくなかった」と彼の起用について語ったが、実はケイシーはセクハラで訴えられた過去がある。昨年の授賞式でも、プレゼンターを務めたブリー・ラーソンは壇上でケイシーに対して冷たい反応を見せた。会場のあちこちにも微妙な反応が散見したが、マットはもちろん大喜び。司会を務めたジミー・キンメルと、アメリカではおなじみの不仲芸のコントをノリノリで披露したのは記憶に新しい。
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■“普通”を見失わない魅力とは
マット自身は若い頃にはウィノナ・ライダーを始め、クレア・デインズやミニー・ドライヴァー、ペネロペ・クルスなど、うわさも含めて共演女優たちとの恋で知られたが、2005年に結婚した妻と4人の娘に囲まれ、浮いたうわさもなく家庭も円満。女性問題でトラブルの多いアフレック兄弟とも仲良くつき合っても、彼自身の風評に影響はなく、順風満帆なキャリアを築いてきたが、そうした流れに変化が現れたのは昨年10月のこと。
出世作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の製作総指揮を務めたハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ行為の数々が、被害女性たちの実名証言によって告発されたのだ。報道が出た直後、マットはそうした事実を知らなかったとコメントしたが、その後、ABC Newsのインタビューで「行動にもいろいろあると思う。誰かのお尻を軽く叩くのと、レイプや子どもに対する性的いたずらには違いがある。どちらも、立ち向かって根絶すべきものだけど、同一視すべきではない」と、ハーヴェイ擁護とも取れる内容を語ったことから、非難が殺到。今年1月に「TODAY」に出演し、「介入する前に、もっと多くの話を聞いておけばよかったと思っています」「本当に申し訳ないと思っています」と謝罪した。
『ダウンサイズ』で共演したホン・チャウは「GOLDDERBY」のインタビューでマットについて、素晴らしい技術を持った俳優であり、チームのキャプテンのようだったと語った後、「クレイジーな裏話とかあればいいんだけど、彼はとってもノーマルなの。たぶん、それがマット・デイモンの一番変なところじゃないかしら? すごく普通だっていうところが」と付け加えた。
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自らの非を素直に認めて謝罪する潔さと、前述の監督たち以外にもクリント・イーストウッドやリドリー・スコットといった名匠に愛される優れたスキル。“普通”を見失わないという、大スターにとって尋常ではない感覚がマット・デイモンの芯にあるのだ。