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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭予習<「批評家週間」編>

開催迫るカンヌ映画祭、予習ブログの第5弾は「批評家週間」の作品を見てみます

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開催迫るカンヌ映画祭、予習ブログの第5弾は「批評家週間」の作品を見てみます。

【批評家週間】
「批評家週間」部門は「監督週間」と同様に、映画祭本体からは独立した事務局(フランスの映画批評家連盟)が運営している部門で、長編2本目までの若手監督を対象にしています。「批評家週間」をきっかけに世界的な存在となっていった監督は枚挙にいとまがなく、文字通り若手の登竜門としての立場を確立しています。

もっとも、今年はコンペティションに若手が多く抜擢され、「ある視点」や「監督週間」にも新人監督作品が多いため、「批評家週間」がどのような存在感を発揮できるかが注目されるところです。以下、部門内のカテゴリー別に作品を見て行きます。

<批評家週間/長編コンペ>
『Chris The Swiss』(スイス/アンジャ・コフメル)
『Diamantino』(ポルトガル/ガブリエル・アブランテス&ダニエル・シュミット)
『One Day』(ハンガリー/ゾフィア・シラギ)
『Fugue』(ポーランド/アグニェスカ・スモチンスカ)
『Woman At War』(アイスランド/ベネディクト・エルリングソン)
『Sauvage』(仏/カミーユ・ヴィダル=ナケ)
『Sir』(インド/ロヒナ・ゲラ)

批評家週間のコンペは7本。お馴染みの名前があったりして興奮します。

『Chris The Swiss』(スイス/アンジャ・コフメル)
スイス人のアンジャ・コフメル監督による「アニメーション・ドキュメンタリー」(anima-doc)作品です。このジャンルは比較的新しい印象があり、もちろん『ペルセポリス』(07)や『戦場でワルツを』(08)といった世界的に有名な作品が存在していますが、これらに次ぐ作品が続々と見られているかというとそうでもない。創作には非凡な経験と才能が必要であろうと思われ、そうそう次々に出来るはずもないのでしょう。

それがここにきてイランの様々なタブーを描く『Tehran Taboo』(17)や、アンゴラ内戦を描く『Another Day of Life』(今年の「ある視点」部門で上映)など、社会派/ノンフィクション系のアニメーションが目に触れる機会が増えてきました。これは本当に嬉しいことで、必ずフォローしていきたいです。

『Chris The Swiss』は、92年のクロアチア戦争を背景にしています。スイス人のジャーナリストが戦争を取材中に死亡し、彼はアンジャ・コフメル監督が少女の頃に憧れていた従兄であった。年月が過ぎ、成長した監督は従兄の死の背景と真相を探ろうとする…。

なんと強い物語でしょうか。しかもこれがアニメーションで語られる。想像力を掻き立てられる思いがします。必見です。

『Diamantino』(アメリカ/ガブリエラ・アブランテス&ダニエル・シュミット)
ガブリエル・アブランテス監督がアメリカ生まれのポルトガル人で、ダニエル・シュミット監督がポルトガル在住のアメリカ人だそうです。ふたりはそれぞれ短編で経験を重ね、今回初めて組んで長編を完成させました。

『Diamantino』は、突如として才能が枯渇し、キャリアが終わってしまったディアマンティーノという名の天才サッカー選手を描くドラマで、失意の彼は人生の意味を探す旅に出るものの、そこではネオ・ナチを始めとしたさまざまな現代社会の闇が待ち受けていた…、というあらすじ。

何とも面白そうです。スチール写真にはクリスティアーノ・ロナウドそっくりの俳優が映っているし、いったいどのようなタッチなのか、これはもう楽しみでなりません。

『One Day』(ハンガリー/ゾフィア・シラギ)
ゾフィア・シラギ監督(Zsofia Szilagyiの読み方に自信が無いのでカタカナ表記は要確認です)は現在日本でも公開中のイルディコー・エニェディ監督『心と体と』(17)の助監督を務め、エニェディ監督が教鞭をとるブタペスト演劇学校でも助手として働いていたそうです。つまりシラギ監督は名匠エニェディの一番弟子にして、共同作業パートナーという存在であるようです。

『One Day』はそんなシラギ監督の長編1作目です。3人の子育てに忙殺される日々に追われるアンヌは、夫が浮気をしているのではないかと疑いを抱く。疑念を振り払おうとするが、その重みに押しつぶされそうになる。人生で最も大切なものを守ることが出来るだろうか…?

日常の中に潜む不安を繊細に描く作風が予感されます。エニェディ監督は鮮やかな想像力と美学を備えた『心と体と』で我々を驚かせてくれましたが、シラギ監督がその作風からどのくらい影響を受けているのか、いないのか。そのあたりも注目したいところです。

『Fugue』(ポーランド/アグニェスカ・スモチンスカ)
アグニェスカ・スモチンスカ監督は、長編第1作『ゆれる人魚』(15)が各国の映画祭で話題を呼び、今年1月に日本で劇場公開も実現しています。既に実績があるので新作が「批評家週間」と聞いた時には少しびっくりしたのですが、なるほどまだ2本目なので十分に資格はあるわけです。

サンダンス映画祭で審査員賞を受賞した『ゆれる人魚』は、ファンタスティックな物語に原色的なバーレスク風味をまぶしたような、全く独特の世界観で観客を魅了しました。新作『Fugue』は趣を変えているようで、オーセンティックなドラマに見えます。

記憶喪失に見舞われた女性が、新しい人生を築くものの、かつての家族に発見され、愛した記憶の無い人々と家庭生活を送るはめになる…、という物語。家族のあり方、心の繋がりという主題が、どこか是枝裕和監督『万引き家族』の裏返しのようなイメージも受けます。アグニェスカ・スモチンスカ監督の切り口に注目したいです。

実は、アグニェスカとは懇意にしており、1月に取材来日した時も一緒にお寿司を食べに行きました。なので冷静に判断できるか自信がないのですが、これほど楽しみなこともなく、プレミアを待望したいと思っています。

『Woman At War』(アイスランド/ベネディクト・エルリングソン)
なんと!2013年の東京国際映画祭のコンペに出品され、監督賞を受賞した『馬々と人間たち』のベネディクト・エルリングソン監督の新作です。『馬々と人間たち』は映画祭でも大好評で、その後日本での劇場公開も果たしました。『ゆれる人魚』のアグニェスカ・スモチンスカ監督についても上述したとおりで、日本で劇場公開実績のある監督がふたりも入っている「批評家週間」は史上初ではないでしょうか?

アイスランドの荒涼たる景色の中で繰り広げられる人間と馬の愛とセックスを描いた『馬々と人間たち』は文字通り我々の度肝を抜いたわけですが、5年振りとなる新作『Woman At War』はいかに?

50代女性のハラは、地元のアルミ工場が自然を破壊していると抗議し、故郷の景色を守るためには手段を選ばない決意をしている。しかし、孤児の少女との出会いが彼女の人生を変えて行く…。

アイスランド映画は常にその大地が大きな魅力になりますが、本作では大地や光景自体がひとつの主役になるようです。そこにエルリングソン監督特有の、人を喰ったような、それでいて深い人間洞察に富んだストーリーテリングがどのように活かされているか、超楽しみです。

『Sauvage』(仏/カミーユ・ヴィダル=ナケ)
カミーユ・ヴィダル=ナケ監督は、実験映画からフィクションまで複数の短編を手掛けており、映画分析の教鞭をとっているそうです。『Sauvage』が長編監督1作目で、ストリートで体を売って生活をする22歳の青年の物語。明日なき刹那的な日々が描かれるようです。

『Sir』(インド/ロヒナ・ゲラ)
インドのロヒナ・ゲラ監督は、脚本家の仕事をこなす一方、平等を目指すNGO活動にもコミットしている存在であるそうで、長編ドキュメンタリー作品『What’s Love Got To Do With It?』(13)ではインドの「仕組まれ婚」の風習を取り上げています。『Sir』が初のフィクション長編監督作品です。

ボンベイの裕福一家の出である青年と、彼の家で女中をする女性との関係を描く物語。裕福だが挫折を抱える青年と、下層の出身だが希望に溢れる女性の交流がいかなる結果をもたらすか…。ファンタジー風味なのか、リアリズムタッチなのか、もしかしたらコミカルなタッチもあるかも?といろいろ想像させる内容ですが、現代インドの風景をどのように切り取っているのか、興味をそそられます。

<批評家週間/特別上映>
『Wild Life』(アメリカ/ポール・ダノ)
『Our Struggles』(ベルギー/ギヨーム・セネ)
『Sheherazade』(仏/ジャン=ベルナール・マルラン)
『Guy』(仏/アレックス・リュッツ)

これらは賞の対象にならない招待作品です。

『Wild Life』(アメリカ/ポール・ダノ)(写真)
ポール・ダノの初監督作品が「批評家週間」のオープニング作品として招待されています。NY育ちの個性派俳優ポール・ダノ、いかにも監督が似合いますね。『Wild Life』は、1960年代を背景に、ゆっくりと両親の仲が崩壊していく様が14歳の息子の視点で描かれるとのこと。夫婦役に、キャリー・マリガンとジェイク・ギレンホール。これは日本でも見られるかな…?期待しましょう。

『Our Struggles』(ベルギー/ギヨーム・セネ)
ギヨーム・セネ監督は長編1作目の『Keeper』(15)で各国の映画祭を賑わせています。『Keeper』はティーンのカップルの妊娠をめぐるドラマで、15歳の妊娠で想定されるあらゆる事態が描かれる内容でした。頭の悪いティーンに付き合わされる内容にとてもうんざりしましたが、映画としては上手いなあと思ったものです。

ティーンの心情をリアルに描いた『Keeper』に対し、2作目長編『Our Struggles』では妻に去られた男の仕事と家庭を守ろうと奮闘する姿が描かれるようです。主演にロマン・デュリス。おそらくまた嫌になるくらいリアルのツボを突いてくる脚本が予想され、人生の新展開に戸惑うロマン・デュリスを想像するととても楽しみになります。

『Sheherazade』(仏/ジャン=ベルナール・マルラン)
短編がベルリン映画祭でグランプリを受賞するなどの実績を上げているジャン=ベルナール・マルラン監督の長編デビュー作。全編がプロでない役者を起用して作られているとのことです。少年院から出所した17歳の少年がマルセイユのチンピラ生活に戻るが、ある日少女シェヘラザードに出会う…。荒々しくざらついたマルセイユが見られるでしょうか。

『Guy』(仏/アレックス・リュッツ)
演劇を中心に役者として長年活躍しているアレックス・リュッツ監督作品が「批評家週間」クロージング作品に選ばれています。2本目の長編となる『Guy』は、フランスで人気のベテラン男性歌手の息子であると母親から教えられた青年が、その歌手のコンサートツアーに密着してドキュメンタリー映画を作ろうとする物語とのこと。おそらく肩の凝らないフィールグッドな娯楽作が期待できるような気がします。

以上が「批評家週間」でした!

これにてカンヌの主要部門をざざっと見てきたことになります。あとはクラシック部門にも必見新作ドキュメンタリーがあったりするのですが、そこは本番中に見られたらレポートしようと思います。全ての作品に「楽しみです」と書いている気がして、我ながら節操がないとは思いますが、事前準備段階だと本気でそう感じてしまうのでしょうがないです。1本でも多く観られますように!

ところで、予習ブログを書いている最中にも、いくつかカンヌからニュースが届きます。ひとつは、予習第2弾ブログで触れたクロージング作品の『The Man Who Killed Don Quixote』にまつわるトラブルで、プロデューサーのパウロ・ブランコが弁護士を通じて映画祭に上映中止を申し入れているとのこと。

その理由は分からないのですが、カンヌが出した公式見解を読むと、カンヌ映画祭に対するブランコの過去の私怨も関係しているようです。カンヌはブランコの要求を聞き入れるつもりは全くなく、テリー・ギリアム監督を通じて上映は決定したのであり、映画祭は監督の意向を尊重するのだという姿勢を貫いています。クロージング上映の有無は司法に委ねられ、5月7日に裁定されるとのことです。

それにしても、ドン・キホーテ映画の呪いはいかに凄まじいことか、とついついつぶやいてしまいますが…。無事に最終日に見られますようにと、祈るしかありません。

もうひとつは、予習ブログの第3弾「ある視点編」で言及したケニアの『Rafiki(Friend)』が、現地で上映禁止処分を受けたとのニュース。同性愛が違法であり、ふたりの女性の愛を描く内容が禁じられてしまう事実に気が遠くなる思いがしますが、この作品がカンヌで上映される意義が一層増したと見ることも出来ます。カンヌが上映する初のケニア映画でもあるらしく、しかと立ち会ってくるつもりです。

コンペ作品では、イランのパナヒ監督とロシアのセレブレニコフ監督のふたりが自宅拘束のため不参加が決定的であり、一部で強力な保守化が進む現代世界において、表現の自由の行方が最大の関心事であると改めて感じます。芸術家の牙城であるカンヌ映画祭の重要性が今年ほど高い年もないのかもしれません。心して出かけていこうと思います。

ということで、7日に現地入りします。今年も日記ブログを連日更新すべく精進します!

《矢田部吉彦》

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