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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭 Day3

10日、木曜日。7時20分起床(寝坊した!)、バタバタと支度して朝食のパンにハムを挟み、そのまま外へ。爽やかに晴れて気持ちいい。今年のカンヌの悪天候予想は、良い方に外れてくれた? パンをかじりながら8時半の上映に小走りで向かう

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10日、木曜日。7時20分起床(寝坊した!)、バタバタと支度して朝食のパンにハムを挟み、そのまま外へ。爽やかに晴れて気持ちいい。今年のカンヌの悪天候予想は、良い方に外れてくれた? パンをかじりながら8時半の上映に小走りで向かう。

本日はコンペのロシア映画『Leto』(写真)からスタート。昨夜が公式プレミアで、キリル・セレブレニコフ監督が来場出来なかったことは既報の通り。役者たちが監督の名前が記されたプレートを掲げ、団結をアピールしてカーペットを歩いたらしい。カンヌのディレクター、ティエリ・フレモー氏のインタビューを読むと、外務省などの外交ルート通じて正式に来仏要請を続けていたらしいのだけれど、なしのつぶてであったとのこと。とにかく、セレブレニコフ監督を取り巻く今後の状況が好転することを祈るしかない…。

そして新作の『Leto』、とても胸の熱くなる作品であった!80年代初頭のソ連でロックに魅せられたアーティストたちの物語。実際に80年代に活躍したヴィクトル・ツォイのキャリア初期を描く内容で、彼の前に人気を博していたマイクというミュージシャンが、若い世代のヴィクトルにポジションを譲る形で第一線から身を引き、そして自分の妻もヴィクトルを愛していることに苦悩する姿が軸になっていく。しかしウェットな感情ドラマに陥らず、共産主義体制の元でロックを共有する若者たちの姿を優しいまなざしで描くセンスがとてもいい。

ミュージカル仕立てで欧米ロック(トーキング・ヘッズとかルー・リード)を歌うシーンもナイスで、その画面にスクラッチ加工を施すエフェクトもカッコいい。モノクロ映像が時代を60年代風に見せてしまうけれども、それもまた趣があってはまっている。

「ロック=反体制」という公式が信じられていた時代がいつまでだったかは別の議論であるとして、ペレストロイカ前のソ連でロックの演奏が危険な行為であったことは想像に難くない(当局から厳しく歌詞をチェックされるシーンがある)。それを今の時代に結び付けることも出来るけれども、むしろ本作の中心はふたりの才能あるミュージシャンの刺激的な交流と、ひとりの女性を巡る非ステレオタイプ的なドラマを見せることにあり、そして音楽をたっぷりと聴かせることにある。タイトルは「サマー」という意味で、つまりは「あの夏」だ。ほのかなノスタルジアも漂う、ロックでポップでエモーショナルな秀作だ!

続けて11時半からもコンペ作品でエジプト系アメリカ人のA・B・ショウキー監督による『Yomeddine』。ハンセン病を患い、辺境の地に設けられた療養施設に預けられたまま40代を迎えた男が、自分を施設に置き去りにしたまま帰ってこなかった父親を見つけようと旅に出るロードムービー。

出会いや別れ、そしてトラブルを乗り越えていくロードムービーのフォーマットにかっちりとはまった、公式通りの感動作に仕上がっている。観客賞があれば(カンヌにはない)候補になるであろうタイプの作品だ。いや、類型的な作品だと片づけるのは簡単なのだけれども、ハンセン病や偏見に対して知見の乏しい自分にとっては重要な作品であり、心を動かされずにはいられない。ストレートな感動作。

13時過ぎに上映が終わり、一瞬宿に戻ってパソコンを叩いてから再び外に出て、15時から18時まで各社とミーティング。午後に見たい作品があったのだけど、ミーティングも重要なのでこれは仕方ない。上映を見ているとミーティングしなければと焦り、ミーティングしていると上映が気になってしまうというのは、毎年カンヌ恒例だ。

ミーティングが終わって上映に向かおうとすると、雨だ!午前中が晴れていたからと油断はできない。幸い本降りにはならず。でも少し肌寒くなる。

そして19時から「スペシャル・スクリーニング」部門で上映されるタイのオムニバス映画『10 Years in Thailand』へ。やはりこの上映にはカンヌに来ている全ての東アジア人が集合した感があり、親しい面々も多くてとても楽しく嬉しい。

しかし映画の中身はとても楽しんではいられない。現在のタイの政治に対する危機感を、4名の監督が4名なりの物語で綴っていく4編の短編からなる作品で、いずれも芸術家の気概が伝わる出来栄えだ。検閲と初恋を巧みに融合させたドラマや、猫に支配される近未来を描くSF、そして個性的なアニメーション、さらにはアピチャッポンによるあまりにアピチャッポン的なドキュドラマ(自分を含む外国人にはわかりづらいのだけれど、アピチャッポン版はかなりデリケートな問題を正面から描いているらしい)。バラエティに富み、そして深読みすればするほど恐ろしくなる4本。

「十年」シリーズは日本でも製作されており、香港版、タイ版に続き、日本版を比較して見るのが楽しみ。

上映終わって関係者の面々と歓談しつつ、22時の上映へ。「ある視点」部門のフランス映画『Sextape』。これは現代フランス版『キッズ』といった趣の、アラブ系フランス人の若者たちが繰り広げるリアルなセックス・ドラマ・コメディーで、その内容はあまりに赤裸々。良識派のフランス人は早々に退場してしまうかもしれない(実際に少なくない人数が途中退場)。

会話が強烈、そして映画のメインとなる話題がオーラル・セックス。ずーっとその話をしている。僕も途中で眉をひそめてしまったのだけど(ホントに)、それでも全体としてはとても巧みでその面白さに脱帽せざるを得ない。ヒロインの女優が前例のないくらいに鮮烈でキュート。ああ、内容を書きたいのだけれど、余計なことを書いてしまいそうで自重する!

上映終わって0時を回り、宿に戻ってブログを書いていたら、そろそろ2時なのでダウンです。

あ、追記として、本日のトピックを。クロージング上映の可否を巡って揺れていたテリー・ギリアム監督『The Man Who Killed Don Quixote(ドン・キホーテを殺した男)』が、正式に上映されることが決まった!

予習ブログではこの作品について「有力プロデューサーのパオロ・ブランコが参加することによって中止に追い込まれていた本企画が実現した」と書いたけれども、これは半分本当で半分認識違いだったので訂正しないといけない。

というのは、パオロ・ブランコによって企画が再起動したのは本当なのだけれども、その企画も結局は中止を余儀なくされ、そして改めてテリー・ギリアムが新たなプロデューサーたちと完成させたのが今回の作品だ。しかしブランコ氏は(結局外れたにも関わらず)本作が自分の企画であると主張し、上映を認めない旨のクレームをカンヌに付けた、というのが事の次第。争論の行方が注視される中、判断は司法の手に委ねられ、その結果昨日ようやく訴えを却下する裁定が下された!かくして、無事にクロージングで上映できることになったというわけで、いやあ、よかった。それにしても、ドン・キホーテ映画の呪いがこれで本当に消えたのか、最終日まで油断はならないかもしれない!

《矢田部吉彦》

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