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【MOVIEブログ】2018カンヌ映画祭 Day8

15日、火曜日。今朝も7時半に起床。窓から真っ青な空が見える。今日は晴れた! しかし外に出ると陽射しが強い割には温度が低めで、半袖では寒い。カンヌ後半の天気はどうも油断できない

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15日、火曜日。今朝も7時半に起床。窓から真っ青な空が見える。今日は晴れた! しかし外に出ると陽射しが強い割には温度が低めで、半袖では寒い。カンヌ後半の天気はどうも油断できない。

9時15分からコンペ作品のマーケット試写へ。ちなみに、コンペの公式上映は招待状(チケット)が必要で、これは事前に申し込む抽選システムになっている。僕は序盤戦こそ順調にゲットできたのだけれど、中盤からパタリとチケットが当たらなくなってしまった。勝率10割の人もいるので、一体どういう仕組みになっているのかなあと毎年思うのだけど、まあこればかりはしょうがない。コンペが見られなくても、ほかに見るべきものはいくらでもあるのだ。

とはいえ、やはりコンペは押さえておきたいので、再上映やマーケット上映を狙うことになる。マーケット上映というのは、映画祭に併設されている映画マーケット「マルシェ・デュ・フィルム」に登録している業界関係者向けに組まれているもので、僕もこのマーケットの登録者。逃した作品が見られる(あるいは公式上映前に見られる)マーケット上映はとてもありがたいのだけど、会場が狭いこともあり、話題作になるとかなり前から列に並ぶ必要があって、スケジュールの組み方がなかなか難しいのが難点だ。

しかし朝のマーケット上映は早起きすればいいだけの話で、今朝も30分前に劇場に行ってみると、すでに列は出来てはいるものの、余裕で入場。

見たのは、イタリアのアリーチェ・ロルヴァケル監督新作『Happy As Lazzaro』(写真)。これがとても素晴らしかった!本作が長編3本目で、過去作も良いとは思ったけれど、今回は数段上のステージに上がった感がある。物語の意外性がポイントとなる作品であるだけに、あらすじを紹介するのが難しい。よくもこんな物語を思いつくものだと、アリーチェの才能に脱帽するばかりだ。

それでもさわりだけ書くと、外部世界から隔絶されたような土地で、村人たちがタバコ農園で働いている。村の善良な青年ラザロは、人の好さに付けこまれて村人からあらゆる雑用を言いつけられるが、嫌な顔ひとつせずに従っている。しかしそんな村人たちは、彼らが貴族と呼ぶ農園の所有者一家に支配されており、まるで19世紀のような主従関係に置かれている。そしてラザロがその一家の息子と親しくなることをきっかけに、物語は予想もつかない方向に転がっていく…。

ああ、書きたい。けど書けない。日本公開も期待していいでしょう。35mmフィルムで撮ったと思わせる映像がまずは美しい。村に夏の陽光があふれる様はまさに眼福であるし、クラシカルな格式を備える一方で、現代的なリアリズムも伴っている。主題としては、単純化を恐れずに言えば、弱者の側に寄り添った現代社会への批判、だろうか。でもタッチはあくまで柔らかく、楽しく、時に厳しく時に優雅で、異なる作品が数本同居しているような刺激さえ受ける。

ああ、ダメだ。ネタバレせずに感想を書くことが出来ない。素朴で美しいイタリアの風景の中で繰り広げられるドラマとしか予想していなかった僕は、本当に途中でびっくりした。そして画面に目が釘付けになってしまった。あまりに特異な想像力と、それを具体化する演出力。アリーチェ・ロルヴァケル、天才だ。

上映が終わって11時20分。次は11時半から見たい作品があるのだけど、今見たマーケット上映の会場「アーケード」と、次に向かう「批評家週間」部門のメイン会場はそれぞれカンヌの両端に位置していて、普通に歩いたら15分以上はかかる距離にある。でもしょうがない。意を決し、走るのは恥ずかしいので、超早歩きで向かう。カンヌの歩道は狭くて人が多いので、超早歩きでもなかなか思うようには進まないのが辛いところ。知り合いにもしょっちゅう出くわすのだけど、必死な顔をして早歩きをしている姿を見られるのは恥ずかしい…。

劇場に11時32分に到着し、舞台挨拶の最中に滑り込み入場が出来て、幸運にも中央に空席を見つけ、座った途端に映画が始まった。もちろん、汗だく。

見たのは、「批評家週間」部門でポーランドのアグニェスカ・スモチンスカ監督新作『Fugue』。Fugueとは、goo辞書によれば「〔精神医学〕 遁走,徘徊はいかい症:長期にわたって記憶を失い,時には全く別の生活を始めるが,回復するとその期間の生活を思い出せない状態」とある。

『Fugue』のヒロインはまさに上記の定義通りの状態にあり、映画は彼女が線路を徘徊し、地下鉄の駅のホームに這い上がるシーンから始まる。自分が誰であるかも分からない状態で数年が経ち、ようやく家族が彼女を発見する。しかしヒロインにとっては夫も幼い息子も他人にしか見えない…。

愛した記憶が無い家族と家族生活は送れるのか、という個人と家族の関係への問いかけを根柢に持つ極めてデリケートな人間ドラマであり(そういう意味では是枝監督『万引き家族』の裏返し版とも呼べるかも)、過去にいったい何があったのかを探る謎解き的な興味も惹く作品だ。前作『ゆれる人魚』のファンタスティックな味わいとは全く趣を変えて、新作で正統派のドラマに取り組んだアグニェスカ監督の懐の深さに驚かされる。

ヒロインの心の障害をひとつずつ丁寧に取り除いていくような繊細な演出は堂に行っており、家族との心理的距離の近さや遠さによってヒロインの性質が少しずつ変化していく様は説得力に富んでいる。主演女優も素晴らしい。これまた若手部門の「批評家週間」では格が違う。アイスランドの『Woman at War』と本作『Fugue』がこの部門では賞を競うことになるのは間違いない。たまたま両監督とも知り合いなので、両者が揃って秀作を仕上げてきた歓びは何物にも代えがたい。

続けて14時から「ある視点」部門のマーケット試写に向かい、列に並んでいると、すたすたと僕に近寄ってくる人がいて、誰かと思えばベネチア映画祭「批評家週間」のディレクターだった。「昨夜のDJコンテストのトーキョーのプレイリストが最高だったことを伝えたかった!」と言われ、心底嬉しい。

見たのは、南アフリカ出身のエティエンヌ・カロス監督の長編第1作となる『The Harvesters』。

南アフリカの広大な農地で働く一家は、敬虔なキリスト教信者からなる閉鎖的な白人コミュニティーに属しており、外部の世界と接触していない。農作業を手伝う青年の母親は神の導きを理由に養子を受け入れるが、その少年は問題児であり、夫は反対する。やがて、義兄弟となったふたりは、母親の愛を争うようになる…。

少しアメリカのアーミッシュが連想され(とはいえ映画を通じた知識しかないけれど)、超保守的な一家に訪れる荒波と、農作業が営まれる自然の美しさが特徴の作品だ。『刑事ジョン・ブック 目撃者』と『天国の日々』が合わさったような、といったら大げさかな。

ただ、ひんぱんに家族で祈ったり、非信者との交流を絶ったり、罪に対してムチ打ちの刑があったりなど、極端に保守的な環境を物語にするとその環境自体がネタになりやすいので話が安易になりかねない。本作にそういう面が全く無いとは言い切れないものの、おそらくは実在のコミュニティーを舞台にしていると思われ、さらに母親の存在が奇妙な形で鍵になってくるなど、ドラマとしての見どころも多い。

初短編から初長編に至るまで12年間を費やしたカロス監督、新人離れしているのは当然かもしれない。実力は一目瞭然なので、名前をしっかりと憶えておきたい。

上映終わり、15時45分から17時半までミーティング。もうかなりの映画会社が帰り始めていて、ちょっと寂しい。

17時半から、日本のFM局の番組に電話で生出演することになっていたので、そのスタンバイ。万一電話が繋がらなかったらどうしようととても気になってしまう。どこで電話を受けるのがいいのか、タイミングと場所を探ってウロウロしたものの、結局ホテルの部屋に戻る。18時に電話が無事に繋がり、15分ほど日本のスタジオからの質問に答える形で出演。

ちょっと話が固くなっちゃったかな、と反省…。でも今年のカンヌはMe Tooを巡る話題や、出国できない監督を巡る表現の自由の問題について、あるいはネット配信と劇場公開の衝突の話など、重要なテーマが山盛りであって、どうしても固めのコメントになってしまう。でもカンヌはそういう場所だし、それはそれでいいのかな。

電話出演が終わり、もはやタイミング合う上映が無いので、そのままホテルの部屋で少し仕事。パソコンに向かえばやることは山のようにある。ブログの冒頭を書いたり、メールを書いたりしているうちにあっという間に21時。

スーツに着替えてネクタイを締めて、カンヌ映画祭主催のオフィシャルディナーに出かける。各国の映画祭ディレクターを集めたディナーで、昨年カンヌ70回を記念して初めて開催されて大好評だった声に応えてくれたのか、今年も実施の案内が届いてとても嬉しい。

メイン会場脇の素敵な会場に、150名程の各国映画祭関係者が集結し、壮観にしてとても貴重な機会だ。僕の隣の席はカンヌの実質No2であるクリスチャン・ジューヌ氏。カンヌの選定にまつわる裏話を聞きながら、笑い泣き。世界一のカンヌといえども同じ悩みを共有しているのだ…。

映画祭関係者だけでなく、監督や役者さんたちも数多く出席している。濱口竜一監督にもご挨拶でき、『寝ても覚めても』の評判がとてもいいことを祝福しながら、少しだけおしゃべり。なんといってもカンヌの新しいスター監督、お話できるのはとても光栄だ。最終日に良き報せが届きますように!

そして、今朝見て感動した『Happy As Lazzaro』のアリーチェ・ロルヴァケル監督もいらっしゃったので、挨拶もそこそこに、いかに作品が素晴らしかったかを語ってしまう。ちょっとウザかったかな…。でも我慢できなかった!

さらに、ピアース・ブロスナンがいたことにもびっくりしたのだけど、僕のハイライトはエマニュエル・ドゥヴォス。最も敬愛する女優さんに直接ご挨拶出来る機会に恵まれ、言葉を失う…。

会の中頃に、外で大きな音がする。花火だ!どうやら、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のプレミア上映に合わせて上がった花火のよう。みんなテラスに出て、とても豪華な花火を堪能する。

そんな花火を見上げている僕の横にいたのが、キアラ・マストロヤンニ。なんと。とても気さくな方で、花火を見ながら彼女が初めて日本に来た10代の頃の思い出を語ってくれる。お父さん(マルチェロ・マストロヤンニ!)と一緒に来日して、あまりにも美味しい寿司に感激したエピソードなど、ああ、この瞬間は贅沢すぎる。これは必ず後でバチが当たるに違いない。

カンヌのヘッドのティエリー・フレモー氏にもご挨拶し、去年の東京国際映画祭に来て下さったお礼を改めて申し上げる。これ以上はないほど充実したディナーだ。唯一残念だったのが、ワインを極力少量に抑えなければいけなかったこと。なぜなら、まだ本日は終わりではないから…。

0時半ごろに会はお開きとなり、ホテルに戻って、ブログを書いたりしながら時間を過ごし、午前2時からまたまたFMラジオの(夕方とは別の)電話出演に備える。酔ってしまうわけにいかないので、ディナーではワインを控えた次第。

午前2時5分に無事電話繋がって、5分ほどの出演。日本の2本のコンペ作品の評判を中心に、カンヌの雰囲気を伝えてみる。上手く話せたかな…。

ふうー。以上で本日は終わり。なかなかしびれる一日だった! ようやくビールで喉を潤しながら(失礼)ブログを書き終わり、3時には寝られそうかな。

《矢田部吉彦》

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