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【MOVIEブログ】2018東京国際映画祭コンペ部門作品紹介(アジア&日本編)

コンペ紹介第3弾、アジア編です。

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『半世界』(c)2018「半世界」FILM PARTNERS
『半世界』(c)2018「半世界」FILM PARTNERS 全 5 枚
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コンペ紹介第3弾、アジア編です。

■『ザ・リバー』(カザフスタン/エミール・バイガジン監督)



『ザ・リバー』(c) Films Boutique
中央アジア、カザフスタンです。昨年はジャンナ・イサヴァエヴァ監督『スヴェタ』が好評を博しましたが、『トルパン』(08)のセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督が10年振りの新作をカンヌで披露したり、そのカンヌの「ある視点」部門でアディルカン・イェルジャノフ監督『世界の優しき無関心』(今年ワールドフォーカスで上映)が評判になったり、カザフスタン映画界から目が離せません。

エミール・バイガジン監督は1984年生まれの34歳、今年のコンペでは若手に入りますが、実績は抜群です。なんといっても処女長編『ハーモニー・レッスン』(13)がいきなりベルリン映画祭のメインコンペに選出され、銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞するという快挙を成し遂げています(同年の東京フィルメックスでも上映)。早々に自らの美意識に基づく世界観を確立しており、それを実現する演出力と実行力を備えた天才アーティストであると言えます。

1作目の『ハーモニー・レッスン』では農村地区の学校を舞台に、いじめに端を発する青年の凶行を美麗な映像で描き、そして2作目の『The Wounded Angel』(16)では4名の若者の揺れ動く運命を描いています。これらに続き、辺境の地に暮らす青年たちを主題とする3部作の締めくくりとなるのが、今回の『ザ・リバー』です。

地の果てのような僻地、しかし天国のように美しい川を持つ土地に、5人の兄弟が父親と暮らしている。あたりに家はほかにない。父に命じられて仕事をこなし、休みには5人で仲良く川で遊ぶ。しかし都会から親戚の少年がやってくると、それまで保たれていた調和が崩れていく…。

何といっても見どころは、圧倒的な映像美です。それも、大自然を美しく撮影した映像美というよりは(それもあるけれども)、むしろ計算し尽された構図によるもので、人物の配置やカメラの位置など、バイガジン監督が切り取る空間の壮大にしてシャープな美しさには文字通り息を飲みます。現代アートの先鋭的なアーティストと呼んでもいいかもしれません。

ただ美しいだけでなくて、バイガジン監督はきちんとストーリーテリングも上手いという点が『ハーモニー・レッスン』以来の変わらぬ印象です。ゆったりとしたテンポの映像に、ほどよく物語がくっついてくるので、ただ美しい映画によくありがちな、映像だけ見て徐々に飽きてしまうということがない。これはアート監督としてはなかなか稀有なことだと思います。

3部作を通じて物語は悲劇性を帯びていますが、今作にはほのかなユーモアも加わり、奥行きが深まっています。つくづく大した才能だと唸らざるをえません。カザフスタンの若き巨匠にご期待下さい。

■『詩人』(中国/リウ・ハオ監督)



『詩人』(c)2018 Edko Films Ltd. All Rights Reserved.
東アジアに移動し、中国です。経済発展前夜、中国にとって激動の時代を背景にした作品が『詩人』です。

昼は巨大な鉱山で働き夜は詩を書く夫と、昼に弁当を届け夜は丁寧に夕食を用意する妻。二人は愛し合っており、将来を夢見ている。夫は詩が評価されて鉱山の宣伝部に昇格し、妻は自らも工場に務めながら懸命に夫を支える。そしてある日高名な詩人が鉱山を訪れ、感激した夫は触発されていくが…。

時代の荒波に翻弄される夫婦の姿が、ダイナミックな映像の中で描かれていきます。経済成長が最重視される時代に居場所を探す「詩人」の運命が、中国そのものの運命を暗示しているようだと言ったら書き過ぎでしょうか。

中国にとって重要な時代を背景にした物語の面白さもさることながら、巨大な鉱山を擁する大自然の映像の美しさと、緻密に計算された室内ショットのコントラストに見応えがあります。とにかく鉱山がでかい。その鉱山に弁当を届けに妻が電車で向かうショットで映画は幕を開けますが、この冒頭ショットだけでこの映画は間違いないと感じること必至です。そして鉱夫たちが入る風呂もでかい!

室内ショットについては、さりげない美術もいいのですが、人やキャメラの動かし方に演出が行き届いていて、思わずハッとする瞬間がいくつも訪れます。うまいなあと唸ること度々です。

本作が長編5本目となるリウ・ハオ監督は中国第六世代に属する監督です。2005年に中国映画100周年を記念する短編オムニバス映画『この一刻』を東京国際映画祭で上映していますが、そこにジャ・ジャンクー監督やワン・シャオシュアイ監督らと並びリウ・ハオ監督も参加していました。

ということを公式パンフの解説に書いていたら、中国映画に詳しい同僚からリウ・ハオはむしろ「ポスト第六世代」ではないだろうか、と指摘が入りました。第六世代は検閲に抵触して活動が制限されたこともあり、その同じ轍を踏まないように学習している世代がポスト第六世代ではなかろうか、というわけです。なるほど。リウ・ハオは68年生なので、70年生のジャ・ジャンクーと年齢的には同世代ではあるものの、キャリアとしては一歩後ろを歩き、ポスト第六世代と呼んだほうが正しいのかもしれません。確かに第六世代と近い主題を扱ってはいますが、アプローチの仕方はよりスマートである印象も受けます。ここは作品上映後に中国通の意見をさらに待ちたいところです。

妻役には『好奇心は猫を殺す』(06)やレッドクリフ二部作にも出演しているソン・ジア(宗佳)、そして夫役には(作品資料によれば)ファンから「歩く男性ホルモン」(!)と称されることもあり、ロウ・イエ監督『二重生活』(12)やアン・ホイ監『黄金時代』(14)、あるいは韓国のヒット作の中国版リメイク『見えない目撃者』(15)など話題作への出演も続くチュー・ヤーウェン。役者陣も大注目です。

現在の中国映画にとって重要な作品の1本であることは間違いなく、興味は尽きません。ワールドプレミア上映です。こちらもお楽しみに!

『三人の夫』(香港/フルーツ・チャン監督)



『三人の夫』(c)Nicetop Independent Limited
香港インディペンデントの雄、フルーツ・チャン監督の新作がワールドプレミアで東京のコンペに参戦!昨年の『メイド・イン・ホンコン』日本公開20周年記念の上映が記憶に新しい中、新作をコンペでお迎えできるのは、この上なく光栄です。

舞台は香港の港。停泊する舟の上で娼婦が仕事をしている。陸には順番待ちの男たちが列をなす。客のひとりの青年は娼婦を愛し、結婚を申し込む。港には半人半魚の伝説が残っているが、その娼婦はまるで人間でないような止まらない性欲を抱えており、絶え間なくセックスを必要としている。娼婦としての稼ぎに直結するが、果たして男たちが娼婦を利用しているのか、あるいはその逆なのか…。

フルーツ・チャン監督、全編にセックスが溢れる強烈な寓話を産み出しました。セックス描写は多いですが、エロティックな印象をあまり与えないのは、そもそも「エロ描写」を目的としていないのはもちろんのこと、セックスが過剰であることでそこにセックス以上のメッセージがあるのではないかと思えてくるからです。

フルーツ・チャン監督は本作を『ドリアン・ドリアン』(00)『ハリウッド★ホンコン』(01)に続く「娼婦三部作」の三作目と呼んでいます。『ドリアン・ドリアン』は香港で売春してお金を稼いでから大陸北部の故郷に戻る女性、『ハリウッド★ホンコン』はセックスした相手を後になって脅迫する女性を描いていました。前者はアート風、後者はブラック・コメディー風と、それぞれ異なる味わいを持ったいずれも傑作ですが、変わりゆく香港を映画に記録しようという意識や、人間の欲望に対する冷静な視点で貫かれています。

『三人の夫』の娼婦のセックスに対する姿勢の激しさは、前二作とは比較になりません。前二作のヒロインたちにとってセックスはあくまで金稼ぎの手段でしかなかったのに対し、本作のヒロインにとってセックスは目的であるどころか、ほとんどセックスそのものと一体化します。そうなると、うまく書けないですが、セックスが抽象化するというか、記号化してくる印象を受けます。

三部作とはいえ、『ハリウッド★ホンコン』と『三人の夫』との間に17年という年月が流れています。その間に香港に何があったのか、セックスの意味はどうして変わっていったのか、さらには、香港の変遷を描き続けてきたフルーツ・チャンが何故いま「三部作」の三作目を手掛けたのか、そして、監督はこの極端過ぎるヒロイン像にどういったメッセージを託したのだろうか…。

考えれば考えるほど興味の尽きない作品です。そして、様々な意味で極めて重要な作品であることも間違いありません。フルーツ・チャン監督にはじっくりと作品世界を語ってもらう時間を頂く予定なので、楽しみにして下さい!

ヒロイン役の女優ツアン・メイホイツ(英語名Chloe Maayan)はチャン監督の要望に応え、18キロの増量を実現させて難役に挑んでいます。よく「体当たりの演技」という表現が使われることがありますが、とてもそんな常套句では収まりきれない凄さです。必見でお願いします。

『愛がなんだ』(日本/今泉力哉監督)



『愛がなんだ』(c)2019 'Just Only Love' Film Partners
さて、いよいよ日本です。今泉力哉監督新作をコンペティションにお迎えすることができ、興奮しています。今泉監督は数年にわたって東京国際映画祭の日本映画部門を盛り上げ、そして育てて下さった恩人であります。そして、変わらず新作を映画祭に寄せて下さることにも深く感謝です。しかしだからといって特別扱いはできないわけで、というかこちらとしてはむしろそう思われないように厳しい姿勢で新作に臨むことになり、逆にハードルは上がるというなかなかに複雑な関係にあるといえるかもしれません。

そして新作『愛がなんだ』は、そのハードルらしきものを軽々と超えていきました。見終えた瞬間、様々な感情が体中を駆け巡り、ああ、この作品はコンペでお迎えしたいとの思いを強く抱いたのでした。

テルコは知人の結婚式で知り合ったマモルを好きになる。マモルの態度は読めないけれど、優しいし、テルコを嫌いではなさそうだ。テルコの頭の中はマモちゃん一色となる。一方、テルコの親友ヨウコは年下青年のナカハラと関係を持っているが、どうも恋人として接していない。テルコは愛めがけて直進し、ナカハラは愛を信じて我が道を行く。そしてマモルは…。

作品のキャッチコピーは「好きになって、ごめんなさい。」。様々な片想いが描かれ、その強い愛のかたちにこちらの感情が揺さぶられます。優れた恋愛群像劇を多く手掛けてきた今泉監督は、シチュエーションは深刻であっても全体のタッチは軽やかという印象を与えていましたが、今回はその逆で、シチュエーションは日常的であっても、最終的にはズシンと来るインパクトを残す作品になっています。

その「ズシン」がコンペだと思った所以なのですが(感覚的ですみません)、作品は徐々に恋愛映画を超えた領域へと突入し、やがては自分の対人関係や生き方そのものについて「お前はどうなんだ」と指を突き付けられた気持ちになるのです。

今作は角田光代さんの原作の映画化であり、オリジナル脚本が多かった今泉監督には新たなチャレンジであったと思うのですが、本当に良い形でコラボレーションが活きています。角田さんという女性の目線を得たことで、今泉ワールドが深化したような、異なるステージに進んだような、そんな興奮が消えません。

ヒロインの岸井ゆきのさんはキュートでリアル、まさに適役。そして、マモルに魅力と説得力がないとこの映画は成立しないのですが、そこを成田凌さんがズバリ最高のハマリ役で魅了してくれます。深川麻衣さん、江口のり子さん、筒井真理子さん、片岡礼子さんらのアンサンブルキャストも見事の安定感です。そしてナカハラ役の若葉竜也さんの発見に、全観客が驚愕することを受け合います。

女性も男性も深く感情移入することができる強い愛の映画、ご期待下さい。

■『半世界』(日本/阪本順治監督)



『半世界』(c)2018「半世界」FILM PARTNERS
コンペ、ラスト16本目は日本の『半世界』です。コンペ紹介ブロクの1回目に、世界との距離を測る監督たちのコンペであると書きましたが、まさに坂本順治監督『半世界』は今年のコンペを象徴する作品となりました。いやむしろ、本作のタイトルの意味を考えていた時に、コンペ全体を貫くテーマが見えた気がしたのでした。

主人公の男性は、友人にも家族にも恵まれているけれども、少し不器用で人への接し方がいささかぎこちない。反抗期の息子へもどう接していいか分からない。そして外の世界とは隔絶されたような場所で、ひとり仕事と向き合っている。いったい彼はどのような気持ちで世界と対峙しているのだろうか…。

ごく普通の一般男性が主人公であり、つまりは我々を代表してくれる存在です。彼と世界との付き合い方は、そのままストレートに我々に響いてくるようです。海外暮らしから突然帰郷した友人の存在や、会話の少なくなった妻との関係、そして仕事へ取り組む姿勢など、主人公を取り巻く「世界」は観客にとって実に身近なもので、彼の周辺で起こるドラマにあっという間に引き込まれてしまいます。

阪本監督は見事に現代社会を生きる我々の物語を紡いでいくのですが、その語り口が熟練の味わいでしびれます。骨太のドラマを軸に、絶妙に挿入されるユーモアが映画の魅力を引き立て、そしてラストに向けて細かい伏線が回収されていく気持ちよさ。そこに伴う深い感動。見事な脚本と、鮮やかな演出に唸るばかりです。

長い年月を経た友情を巡る物語であり、人生を見つめるドラマであり、そして夫婦関係に対する切実な祝福でもあります。これほど奥行きのある作品が見られる機会は滅多にありません。これは僕の想像ですが、『エルネスト』(17)でキューバ革命という「大きな」世界の中で仕事をした阪本監督が、日本の仕事に戻って自分の「小さな」世界を改めて見つめ直そうとした思いが『半世界』のオリジナル脚本として結実したのかもしれません。映画祭で直接監督に伺う機会が楽しみです。

主演は稲垣吾郎さん。ナチュラルで等身大の存在感が見事です。僕は『十三人の刺客』(10 )で稲垣さんが演じた悪役が忘れられません。残忍極まりないが溢れる色気は隠しようもなく、悪の華とも呼びたくなるその佇まいは映画史上に残る名悪役・名演技だと思っています。そして常々もっと稲垣さんをスクリーンで見たいと思っていたのですが、今作はその願いを叶えてくれたどころか、天性の映画俳優としての才能を改めて証明するような素晴らしさ。悪役にはケレン味が求められるので分かるとしても、あれだけの大スターがどうして「我々を」演じられるのだろう? それが出来るからこそスターなのかもしれませんが、阪本監督の慧眼にも敬服するばかりです。とにかく映画俳優・稲垣吾郎をじっくり味わってもらいたいと思います。

友人役の長谷川博己さんと渋川清彦さんの配役もズバリで、この3人が構成するトライアングルが映画のひとつの軸となるだけに相性の良さが肝心であるわけですが、もう彼ら以外に考えられません。実は大人の男の友情を真面目に描く映画はあまり多くなく、その意味でも貴重な作品です。

さらに特筆すべきが妻役の池脇千鶴さんで、まさに絶品です。稲垣さんとのやりとりは繊細にして最高で、ずっとこの夫婦を見ていたい、頼むから映画終わらないでくれ、と真剣に思いました。

どうぞ『半世界』の世界をお楽しみに!

<コンペあとがき>
ということで、西欧、北欧、東欧、北米、中米、南米、中東、中央アジア、東アジア、日本、を回ってきました。世界を一周して最後の作品のタイトルが『半世界』という偶然に驚いていますが、それぞれの場所で実力を発揮する監督たちの作品を楽しんで、そして刺激を受けてもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします!

《矢田部吉彦》

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