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【MOVIEブログ】2019ベルリン映画祭 Day9

15日、金曜日。あっという間に出張最終日になってしまった!じっくりと多様な作品に向き合えるベルリン映画祭ほど刺激的な場は他に無いので(僕が気持ちに余裕がある時期であることもあり)、終わってしまうのがとても悲しい。

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15日、金曜日。あっという間に出張最終日になってしまった! じっくりと多様な作品に向き合えるベルリン映画祭ほど刺激的な場は他に無いので(僕が気持ちに余裕がある時期であることもあり)、終わってしまうのがとても悲しい。

本日は朝のチケット取りのルーティンをこなす必要が無いので、普段より遅い7時40分に起床。昨夜の就寝が3時半だったわりにはすんなり起きられたので、まだ集中力は続いているのかな。最後まで気を抜かないようにしながら朝食の黒パンをふたつ食べて、外へ。最終日にふさわしい青空!

9時から、賞の対象とならない「アウト・オブ・コンペティション」部門で“Amazing Grace”(写真)と題されたドキュメンタリーへ。アリーサ・フランクリンが1972年にリリースしたゴスペルアルバム「アメイジング・グレイス」のライブ収録の模様を収めた映像だ。LAのバプティスト教会に観客を入れて演奏した、あの超有名アルバムの映像があるとは!

そもそもシドニー・ポラック監督のもとに作られたものの、何らかの事情で未公開のまま現在に至っていたらしい。今回の公表はおそらくアリーサの死去がきっかけになっているのだろう。

そして、2019年のベストワンは本作で決まりだ。人類が生んだ最高のアーティストによる生涯ベストのパフォーマンスが記録されているとあっては、そんじょそこらの映画が束になってかかったとしても敵うはずがない。「神がかった」という表現を我々は極力使わないように注意しなければならず、なぜならそれは本作のアリーサ・フランクリンのためにある言葉だからだ。

これ以上、どうにも表現のしようがない。僕の能力を超えている。どんなに感動を伝えようとしても陳腐になってしまう。もはや映画ですらない。人類の宝だ。

もうこのまま帰国しようかと思ったほどだったけれど、コーヒーで興奮を鎮めてから、次の上映に並ぶ。

11時15分から同じく「アウト・オブ・コンペティション」でブラジルの“Marighella”という作品。64年のクーテダーにより軍事独裁政権が続いていたブラジルにおいて、民族解放運動を率いたカルロス・マリゲーラの生き様を描く内容。

マリゲーラは武装抵抗主義を掲げ、列車から運送中の武器を奪い、活動資金のために銀行も襲う。しかし、映画で見る限りでは全くの無計画で自殺的な報復行為に突き進むばかりで、大儀を達成するためのアジェンダらしきものも存在しない(というか描かれない)。マリゲーラの功績も分かりにくいし、たまに警察側とのドンパチが繰り返されるだけで大きな見どころもない。2時間半の上映時間でこれでは辛い。

朝からそう傑作が続くわけもないので、気を取り直してモールに行き、簡易中華屋さんで一皿に盛り放題(9.5ユーロ)のプレートを頂く。腹5分目のはずが、7分目くらい食べてしまった。いかん。

14時半から、「フォーラム」部門で“Hormigas”というコスタリカの作品。ふたりの少女の母親が夫から三人目が欲しいと迫られ、自分はもう欲しくないので少しずつ精神的に追い詰められていく物語。素朴な暮らしを背景にしたとても小さな作品であるけれど、家族の世話に追われて誰も自分の気持ちを考えてくれない若い母親のストレスが丁寧に描かれ、とても好感の持てる作品だ。

こればかりは女性監督にしか撮れない作品でもあり、本作が長編デビューとなる監督のQ&Aを見たかったのだけど次の上映時間が迫っているので泣く泣く断念。

シネコンを移動して、16時半から「フォーラム」部門の“Demons”というシンガポールの作品。舞台演出家によって精神的に圧迫される女優が内なる声に翻弄されているうちに「分身化」し、やがて演出家も混乱を来し、そしてカンニバリズムの恐怖が映画を覆う…。

読んで何のことか分からないと思うけど、書いている本人が分かっていないのだから始末が悪い。ドッペルゲンガー的分身化と、人肉食による一体化という表裏の事象を用いた哲学的ホラーと呼んだらいいのだろうか。珍奇な作品であるけれど、ジャンル映画と実験映画とドキュメンタリーを混ぜ合わせたような独特のスタイルから目が離せず、メタファーの読解にも興味をそそられる1本。

続いて19時から、ドイツ映画の新作を集める「ドイツ映画パースペクティヴ」部門(「ドイツ映画・ある視点」という意味合いかな)で“Born in Evin”という作品の上映へ。この部門の作品をもっと見たいけれど、膨大な作品数を上映するベルリン映画祭ではなかなかそうもいかないのが辛いところ…。

上映前に授賞式があり、いくつか賞が発表され、しかしドイツ語のみだったので何も分からず残念。大昔にドイツ語を勉強したことがあるのだけれど、今となってはすべて忘れてしまったのが悔やまれる…。そして一瞬心配したものの、上映が始まると映画には英語字幕が当然のように付いていた。よかった。

“Born in Evin”は、イラン系ドイツ人の女性監督による作品。彼女は自分がイランの刑務所で生まれたと聞かされているものの、母親はそのことについて語りたがらない。79年のイスラム革命時に両親は政治犯として投獄され、母親は獄中で出産したという。しかし母親は詳細を話そうとせず、監督は自分の人生のブランクを埋めるべく映画を作ることにする。そして調査の過程で、当時の刑務所の酷い実態が明らかになってくる…。

ルーツ探しのセルフ・ドキュメンタリーであり、歴史的悲劇(あるいは歴史的犯罪)が背景にあるだけに重みが違う。監督が自分と同じ境遇の人たちを探す過程において、亡命を余儀なくされたイラン人たちのドイツやフランスにおけるコミュニティーが紹介される。なんと世界は多くの悲しみに満ちていることか…。成長した監督世代(30代)に希望が託されていることを監督が自覚する爽やかなエンディングがいい。

表彰式を予想に入れていなかったので、終映時間が遅くなってしまい、21時から見るはずであった作品に間に合わなくなってしまった。予定を変更して、22時の上映に並ぶ。

見たのは、「フォーラム」部門でスーダンの女性監督による“Khartoum Offside”というドキュメンタリー作品。たまたま見たことになるけれど、正解だった!

スーダンではイスラムの戒律に沿った(とされる)法律が女性のサッカーを禁じている。しかしサッカーを愛好する女性は多く存在し、本作はナショナル・チームを作るべくトレーニングに励む選手たちの日々を描いていく。

なんといっても、女性選手たちがめちゃくちゃ明るいのが素晴らしい。しんどい経験談をとても楽しそうに話し、悲愴な空気は微塵もない。練習や試合に警察が介入するリスクはあるけれど、地域の人々は女性サッカーを守り、応援している。意志の力に溢れた秀作だ。

昨日の“Talking About Trees”に引き続いて2日連続でスーダンの優れたドキュメンタリーが見られたことに、何か運命的なことを感じてしまう。進行中のスーダンの反政府デモの行方に注目していきたい。

というわけで、充実のうちに遂にベルリン終了!

とても難しいけれど、恒例に従い、独断にて受賞結果を予想してみよう! コンペ16本中(当初は17本だったけれどもチャン・イーモウ作品がキャンセルになったのは既述のとおり)、僕は唯一ファティ・アキンだけを見逃しているので、下記の予想は15本の中から。

・金熊賞(グランプリ):“I Was At Home, But”
・監督賞:ワン・シャオシュアイ
・脚本賞:フランソワ・オゾン
・女優賞:“God Exists, Her Name is Petrunya”の女優
・男優賞:“So Long, Our Son”のワン・ジンチュン
・次点:“System Crasher”

ここ数年外れ続きなので、全く自信はないけれども、こういう楽しみ方ができるのがコンペなのだ!

というわけで、今年のベルリンも充実しました! そろそろ3時。明日は6時起きで帰国します! お疲れ様でした!

《矢田部吉彦》

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