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【MOVIEブログ】2020年ベルリン映画祭 Day2

21日、金曜日。少し寝坊してしまい、7時15分に慌てて起床。支度して朝食詰め込んで外へ。薄曇りで、気温は7度くらいかな。

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21日、金曜日。少し寝坊してしまい、7時15分に慌てて起床。支度して朝食詰め込んで外へ。薄曇りで、気温は7度くらいかな。

9時から「パノラマ部門」の『Minyan』というアメリカ映画でスタート。87年のニューヨーク郊外を舞台に、ロシア系ユダヤ人移民のコミュニティーに生きる17歳の青年の物語。64年生まれの男性監督の自伝的作品であるとのこと。

冷戦中のアメリカに暮らすロシア移民というだけで1本の映画が出来るくらいなのに、ユダヤ人の彼らは敬虔なユダヤ教信者であり、主人公の青年は同性愛という自らのセクシャリティーを自覚し始め、そして彼はジェイムズ・ボールドウィンの文学に強い影響を受ける…。

様々な要素を含み、要求される知的ハードルがかなり高い。何よりユダヤ教の戒律や慣習が柱となり、不案内な観客への親切な演出などは配慮されておらず、予備知識なしで作品世界に入るにはなかなかに手強い。17歳の青年の役者は20歳にも30歳にも見えるほど外見は成熟しているので、高校生なのかと理解するまでにも時間がかかってしまう始末で、これは難物だ。

冷戦の影はなく、エイズへの恐怖もわずかに描かれるのみで、それが監督の実感だったのだろうというのは分かるのだけれど、ともかく主要な宗教に対する基本的な知識を持ち合わせていない自分の不勉強を呪うばかりになってしまった。

11時にメイン会場に赴いて列に並び、12時からコンペ部門のアルゼンチン映画『The Intruder』を見る。40歳くらいの声優の女性が悪夢に悩まされており、ケンカした恋人の男性が不審な自殺を遂げてしまうと、女性の精神は次第に正常を失っていく…、という心理スリラー、と呼んでいいのかな。

いや、はっきり心理スリラーならスリラーに寄り切ってもらいたかったという印象が残るくらい、夢と現実の区別が曖昧になってしまった女性の姿を意味深に描くばかりで、映画にカタルシスは訪れず、中途半端な印象は拭えない。体に侵入した異物が女性を抑圧する存在であるという、フェミニズムのメタファーこそ一応は感じられるものの、これは不発ではないかな。

上映終わり、少し時間が空いたので、会場近くのメキシコ料理店でランチを食べる。初めて入った店で、チキンのペッパーソースがけなるものを食してみたら、まあまあかな…。再訪することはなさそう。

15時から18時までミーティング。

18時15分に上映に戻り、今年から新設の第2コンペ部門である「エンカウンター部門」の作品へ。カンヌで言うところの「ある視点」部門に相当すると考えればいいのかな。新人部門ではないけれども、若手監督が多い印象はある。審査員は3名で、そのうちのひとりが市山尚三さん。

見たのは、92年生のドイツのメラニー・ヴェルデ監督の長編デビュー作『Naked Animals』という作品。高校卒業を控える数名の男女がユニークな共同生活をしており、柔道に入れ込み乱暴な行動も厭わないヒロインの複雑なキャラクターを軸に、彼らの揺れる青春時代を独特なタッチで描いていく内容。

スタンダードサイズの画面に密着気味のキャメラでリアリズムを煽るスタイルで、一定の強度を備えた作品であることは確か。ただ、省略を美徳と捉え過ぎて、彼らの置かれた状況や人間関係がとても分かりにくく、見ていて次第に疲弊してしまう。というか、諦めてしまう。スタイルに溺れてはいまいか。市山さんがどう評価されるか、興味津々だ。

上映終わり、フランスの映画機関が主催するパーティー会場に行ってみる。場内は人で溢れていて、もはや窒息しそうなので、ビールを一口だけ飲み、数名と挨拶して、早々に退散する。

ホテルに戻って一休みして、改めて21時に外に出て、22時のコンペ作品『Hidden Away』(写真)へ。イタリアの名匠ジョルジョ・ディリッティ監督の新作で、エリオ・ジェルマーノが画家のアントニオ・リガブーエに扮する伝記映画。

不安定な精神を持って生まれたリガブーエは幼少時代からいじめと虐待を受けて育ち、やがて手を焼いた養父母から追放されてしまう。スイスを離れ、イタリアの森の中で放浪生活を送った後、絵画の才能を見出され、リガブーエはささやかながらも人間性を取り戻していく…。

ともかく、エリオ・ジェルマーノだと言われなくては分からないほど変貌した容姿と、彼の演技が突出している。狂気の淵をさまよう天才芸術家を演じるのであり、多少の大仰さは許されるだろう。美しい映像と相まって感動も用意されており、上映後に会場の拍手が鳴りやまない。これはコンペティションにふさわしい堂々たる作品だ。

上映終わって0時10分。これからとあるパーティーに招待されていたのだけれど、力尽きてしまった。とてもとても眠いので、引き上げることにする。ヨーロッパ到着後の数日は、深夜過ぎの追加活動は辛い…。我ながら情けないなあ、と嘆きつつ、ホテルにもどってブログを書いて、そろそろ2時。

本日も夕食を食べそこねてしまった。明日はメキシコ料理など行かず、屋台でドイツの美味しいソーセージをたくさん食べよう。おやすみなさい!

《矢田部吉彦》

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