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【MOVIEブログ】2020東京国際映画祭作品紹介 特別招待作品部門

とても久しぶりにブログを再開します。今年はカンヌ日記もなかったので、ベルリン日記以来、約10か月ぶりのブログになってしまいました。それにしても、なんという10か月だったことか…。

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『燃ゆる女の肖像』(c)Lilies Films.
『燃ゆる女の肖像』(c)Lilies Films. 全 9 枚
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とても久しぶりにブログを再開します。今年はカンヌ日記もなかったので、ベルリン日記以来、約10か月ぶりのブログになってしまいました。それにしても、なんという10か月だったことか…。

6月には東京国際映画祭をリアルで実施する方針を定め、例年通り、夏の間に作品選定を進めて、9月29日にラインアップを発表しました。ただし、コンペ部門はお休みし、従来の「コンペティション」「アジアの未来」「日本映画スプラッシュ」を統合した今年限りの特別部門「Tokyo プレミア 2020」を設け、個性豊かなワールド・プレミア作品やアジア・プレミア作品を楽しんでもらおうということになりました。

従来の「特別招待作品」部門や「ワールドフォーカス」部門など、継続している部門もあります。ただ、劇場の安全な運営の観点から、幕間の時間を従来よりも空ける必要があるため、上映枠数が限られ、例年よりも作品の数は若干減っています。ただ、全体として愕然とするほどは減っておらず、一定の規模感は確保できたのではないかと感じています。

しかも、一定の規模感が確保できたどころか、面白い作品がたくさん揃ったと自負しています。僕自身の映画祭の立場は、コンペなどの作品選定に責任を持つ従来のプログラミング・ディレクターから、選定に関与する立場としてのシニア・プログラマーなるものに変わり、必ずしも全作品に関わっているわけではないのですが、それでも心から推薦したい作品は多く、例年どおりこのブログで紹介していこうと思います。

さて、例年だとコンペ部門の紹介から始めていましたが、例外だらけの今年はブログも違うことをやろうということで、いままで書いてこなかった「特別招待作品」の一部の紹介から始めてみます。

というのも、2019年に見たマイベストの1本を「特別招待作品」でお迎えできる喜びの勢いに乗ってブログを再開するのがいいかなと思ったからなのですが、その1本というのは他でもない『燃ゆる女の肖像』。「Portrait of a Lady on Fire」が英題ですが、直訳でありながらいい邦題ですね。しみじみとした情熱が伝わる感じ。

『燃ゆる女の肖像』(c)Lilies Films.『燃ゆる女の肖像』
舞台は18世紀、画家のマリアンヌは島で暮らすエロイーズのポートレートを描くべく海を渡る。しかしエロイーズ本人が望まない結婚相手に届けるためのポートレート依頼であり、エロイーズは描かれることを拒んでいる。マリアンヌはポートレートのことは隠してエロイーズに接近し、日中の記憶をもとに夜間ポートレートを描く…。

エロイーズとマリアンヌはゆっくりと距離を縮め、やがて愛情を育んでいくわけですが、同性愛を受け入れてはくれない時代であることはふたりとも自覚しており、その自覚の気高さと哀しさに胸が張り裂けそうになります。

『アデル、ブルーは熱い色』においてケシシュ監督は激しい性描写を通じて女性の愛を描きましたが、本作はその対極にあり、過激な描写は一切なく、ふたりの感情の動きをまるでガラス細工を扱うかのように、ひたすら丁寧に描いていきます。その繊細さが見る者の心の奥まで浸透し、僕は感動に身震いがするほどでした。

エロイーズ役のアデル・エネルはもう紹介の必要はないでしょうね。ティーンの頃からスケールの大きさを感じさせましたが、美しさと優雅さと意志の強さを見せつける本作は間違いなく代表作になるはず。マリアンヌ役のノエミ・メルランはここ数年急激に力を付けてきた存在で、『奇跡の教室 ~受け継ぐ者たちへ~』(14)やTIFFで上映した『ヘヴン・ウィル・ウェイト』(17)あたりで大ブレイク、主演級の作品が続きます。

セリーヌ・シアマ監督はセクシャリティと社会を深く掘り下げる作品を手がける一方で、ストップモーション・アニメの傑作『ぼくの名前はズッキーニ』(16)に脚本を提供する才人。美しいだけで終わらない、運命を受け入れながら確固たる意思を持つ、力強いふたりの女性像を見事スクリーンに刻み込んでいます。

昨年のカンヌ映画祭で披露され大評判となったのを皮切りに、世界中で絶賛され、間違いなく昨年のフランス映画を代表する1本。これはもう、本当にお楽しみにしてもらいたいです。

『ノマドランド』(c)2020 20th Century Studios. All rights reserved.『ノマドランド』
続いて、こちらも今年の看板のひとつですね。『ノマドランド』。ヴェネチア映画祭で金獅子賞(=最高賞)に輝き、トロント映画祭でも観客賞受賞。着実にアカデミー賞に近づいています。このタイミングで東京にお迎えできるとは!

「ノマド」とは、遊牧民や定住地を持たずに生きる人を指しますが、『ノマドランド』の主人公は、経済危機で閉鎖された工場に依存していた町が消滅し、住む場所を失い、ノマドの人生を選択します。寝泊まりするトレイラーを運転し、中西部を移動しながら行く先々で短期労働に従事し、社会の淵で生きる彼女の姿を描くロードムービーです。

我々が生きる社会の外側にも社会があり、ノマドのコミュニティーの存在に気付かせてくれる作品で、数名の職業俳優を除くと、あとは実際のノマドの人々が出演していることに驚かされます。それだけ「リアル感」が強い。そしてアメリカの原風景というか、美と荒涼とが混じった大地と自然の姿が本作の主役のひとつで、これは是非大スクリーンで体験して頂きたい。

そしてその大自然を背景に追いやるのが、主演のフランシス・マクドーマンドです。映画は自然を捉える一方で、彼女のクローズ・アップを多用し、孤独と向き合う様を映し出します。まさに風雪に耐えてきたような、その表情は実に素晴らしく、アカデミー賞の候補に挙がっていくことは間違いないでしょう。

さらに注目すべきはクロエ・ジャオ監督で、中国出身で米国で活動するジャオ監督は本作が長編3作目。長編1作目の”Songs my brother taught me”(15)はカンヌ映画祭の「監督週間」で上映され、アメリカの中西部を舞台にしたインディオの兄妹の物語で、荒涼たる自然の中で生きる人々やコミュニティーを詩情を交えて描く姿勢はすでに確立されていました。次作の”The Rider”(17)は怪我を負ったカウボーイの物語。世界中で高い評価を得たこの作品も1作目と同じ世界観を共有しており、3作目の『ノマドランド』もその順調な延長線上にあると言えます。

3作目にしてヴェネチアを制し、アカデミーも狙えるという作品をものにし、独自の世界観と作家性を確立したジャオ監督が次作に手掛けているのが、なんとマーベル映画! クロエ・ジャオが”Eternals”を監督しているとのニュースを知ったときは驚愕しました。アメリカは時おりとんでもない抜擢を仕掛けますね。ジャオ監督がいかにブロックバスター映画を手がけるか、想像も付かないのですが、マーベル映画ファンが『ノマドランド』や過去作に注目し、アメリカのインディペンデント映画への関心が深まるとしたら、とんでもなく有意義ですね。

「特別招待作品」部門の外国映画としては他に、ナチ占領下のフランスで羊飼いの少年がユダヤ人を助けようとする児童文学の映画化『アーニャは、きっと来る』、ユダヤ系の母とアラブ系の父を持った少年が自らの料理で一家を繋ぎとめようとする『エイブのキッチンストーリー』もあります。なんとこの2作品は主演が同じ少年俳優で、ノア・シュナップ。ドラマ「ストレンジャー・シングス」のウィル(失踪してしまう少年)役と言ったら「おおっ!」となる人も多いのではないかな。僕も同ドラマは熱中して見ているので、ノア君のスクリーンでの活躍にも大注目しています。

『スカイライン -逆襲-』は、人気連作の3本目。『スカイライン-征服-』(11)、『スカイライン-奪還-』(18)に続く3作目ですね。前2作はアマゾンプライムで見られるようなので、未見の人は予習して臨むべし!

そしてそして、『Peninsula(英題)』! 来た!! 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)の4年後の世界を描く、という紹介だけで十分でしょう。もう間違いないですね、これは。今年の映画祭最大のチケット争奪作品になりそうな予感が!

次は「特別招待作品」部門の日本映画に目を向けてみます。

『あのこは貴族』(c)山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会『あのこは貴族』
『あのこは貴族』は、日本の上流階級を描くという点でかなり題材がユニークな作品です。上流階級に属するハナコの結婚を巡るいきさつと、地方都市出身の一般的な女性であるミキの東京での生活が描かれ、やがてふたりの歩みは意外な場所で交差していきます。

僕がこの作品をいいなと感じる理由は、ステレオタイプをなるべく避けようとしている点です。「上流階級=悪、庶民=善」ではなく、かといって「上流階級にだって悩みはあるのだ/庶民も頑張れば夢がかなう」でもなく、あるがままの生活を描こうというフラットな視点が感じられるのです。厳密な意味で日本の上流階級を定義するのは難しいでしょうが、こういう人たちは存在するだろうし、まあこういう思考に基づいて行動しているだろうな、とちゃんと思わせてくれる。

階層を可視化し、それを否定せず、上流の苦しさと下層からの希望をドラマチックに煽らずに描くセンスの良さにとても惹かれます。岨手由貴子監督の手腕は確かですね。ようやくご縁が出来て嬉しいです。ハナコ役の門脇麦さんと、ミキ役の水原希子さんの配役も絶妙。考え抜かれたキャスティングではないでしょうか。

『おらおらでひとりいぐも』(c)2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会『おらおらでひとりいぐも』
沖田修一監督の新作『おらおらでひとりいぐも』は、ひとりで暮らす初老の女性の孤独な心境を、ファンタジー的演出を盛り込みながらペーソスたっぷりに描いていくドラマ。主演の田中裕子さんは『ひとよ』(19)の素晴らしい助演が記憶に新しいですが、こうやって主演映画が見られるのは至福の一言です。沖田監督に特有な温かみが全編を覆い、しかし老年に伴う哀しみや悔恨はけっしておろそかにはしない。優しさと厳しさが同居したドラマです。

ヒロインの若き日々を演じるのが蒼井優さん。実にスムーズに田中裕子さんへとイメージが繋がり、演技の比較も楽しみのひとつですね。それにしても、ウルトラ高齢化社会を迎えている現在(僕にも90歳過ぎの両親がいますが)、もっと老人主演の物語映画が増え、ベテラン俳優たちが活躍する場が増えていくといいなあと、切に思うのでした。

『サマーフィルムにのって』(c)サマーフィルムにのって製作委員会『サマーフィルムにのって』
一転して超若い人々を描く『サマーフィルムにのって』は今年の発見の1本!まず、自分が映画ファンだと思っている人は、絶対にこの映画が好きです。というか、嫌いになるはずがない。そして特に映画ファンではないと考えている人は、この作品が放つ新鮮なエネルギーに包まれて、あっという間にずぶずぶの映画ファンになってしまうでしょう。

今年は『のぼる小寺さん』や『アルプススタンドのはしの方』など、優れた青春映画が多いですね。その系譜に、どこからともなく突然現れた(少なくとも僕の前に現れたときはそういう印象だった)のが『サマーフィルムにのって』です。舞台は高校の映画部!

ヒロインのハダシは、映画部が撮っているキラキラ青春映画に反発しており、ボツになった時代劇映画を自ら監督しようとしてスタッフを募る。かくして映画部は公認と非公認の2本の作品の製作が進行し、キラキラ映画を監督するカリンとハダシのライバル意識は過熱していく!

ああ、書いていてドキドキしてきます。勝新太郎に心酔しているハダシのスタッフの集め方はまるで『七人の侍』のようだし、カリンとハダシのライバルなんだけど友情もあるよという展開には涙腺がやばい。そしてもちろん恋もあるのだけど、これがあっと驚く内容で…、とああ、ここまでですね。

安定したストーリーテリング、と思わせながら過激にフォーマットを突き破るような驚きもあり、新しく、闊達で自由な空気を感じさせる作品です。そしてなんといっても、キュート。早く松本壮史監督に会って話を伺ってみたい!(会えるといいのだけど…)。

『10万の1』(c)宮坂香帆・小学館/ 2020 映画「 10 万分の 1 」 製作委員会『10万の1』
同じ若者でも純愛を扱ったのが『10万分の1』。白濱亜嵐(EXILE/GENERATIONS)さんと、平祐奈さんという人気のふたりの組み合わせが注目ですね。僕は普段から積極的に若者向けの恋愛映画も見るようにしているので(若い役者さんを覚えるためだったりしますが)、平さんは『未成年だけどコドモじゃない』(17)がとても面白かった記憶があります。なんて、そんなことは僕が書くまでもなく、知っている人はみんな知っていますよね。将来を楽しみにしている存在です。

ストーリーは書かない方がよさそうなので、触れないですが、最初は軽めの青春恋愛ドラマかと油断させつつ、後半から展開と雰囲気が変わり、感情に訴えてくる愛のドラマです。若い観客が会場に押し寄せてくれますように!

『滑走路』(c)2020 「滑走路」製作委員会『滑走路』
『滑走路』は硬派なドラマ。少年時代のいじめが当事者たちに及ぼした影響を長年のスパンで振り返る物語で、硬派というよりは、真摯と呼んだ方が正確かもしれません。少年期の心の傷がどれだけ人生を狂わせてしまうか、そして周囲の人間も無関係でいられないかが描かれていきます。

短歌をもとにした映画なのですが、その歌人は自ら命を絶ってしまっています。その背景が本作の真摯な姿勢に直結しており、命の意味を問いつつ、心の奥を覗き、突破口を探します。と書いてしまうと重苦しい映画かと思われてしまうかもしれませんが、そうではないのがこの映画の意外なところかもしれません。

大人の立場からの回想が巧みに組み合わされているので、ヘヴィーな状況を間接的に伝えることに成功しているからかもしれません。浅香航大さんの持つ爽やかさや、水川あさみさんの華やかさが作品の風通しを良くしていることは間違いありません。そして大庭功睦監督は、黒沢清監督的なシュールな場面を突然挿入したり、映画ファンをにやりとさせる演出を施したりするので、そういう面にも注目すると楽しいです。

『水上のフライト』(c)2020 映画「水上のフライト」製作委員会『水上のフライト』
『水上のフライト』は王道のスポーツ青春ドラマと呼んでいいでしょう。有望な陸上選手が事故に合い、下半身不随になってしまうが、パラカヌーという競技に出会い、人生を取り戻していく物語。挫折と克服の普遍的ドラマであり、こういう物語は定期的に作られ続けなければいけないと、僕は半ば真剣に思ってしまいます。

中条あやみさんがスラリとした身体を活かし、陸上選手として実にはまった姿を見せてくれます。やがて、深い挫折を経て、一転してパラカヌーに懸命に取り組む真剣な姿勢が最大の見どころです。パラリンピック競技への関心を高めるためにも重要である作品であるのは、言うまでもありません。

『フード・ラック!食運』(C)2020松竹『フード・ラック!食運』
そして、王道スポーツ映画があるなら、王道グルメ映画があるのも「特別招待作品」部門ならでは!『フード・ラック!食運』は焼肉への限りない愛がこれでもかと注がれた作品です。

僕はTVに詳しくないので、肉を語る寺門ジモンさんをあまり知らないのですが、肉好きの寺門ジモンが肉の映画を作るならバラエティ的な内容なのではないか、と想像する向きもいらっしゃると思いますが、それが決してそうではなく、映画として僕は大いに楽しみました。なんというか、僕は今年見た『前田建設ファンタジー営業部』がテレビ的(という言い方を、テレビを見ない者がするのはいけない気もしますが)大仰さを上手く取り入れながらとても面白いコメディーに仕上がっていたことに近いものを感じています。

かつて母親の経営していた焼肉店の味を探し求める息子の旅、という芯の太いドラマがきちんとあり、そこに様々な名店の焼肉が最高の形で絡んでくるという内容は、ただただ楽しく痛快としか言えません。見たら100%お腹が空くので、事前に焼肉店の予約をしてからのご鑑賞をお勧めします!

特別招待作品部門には他にアニメーション作品が3本あり、いずれもが貴重な作品ですが、ここでは割愛をお許しください。

まずはバラエティに富む、外国映画と日本映画の実写作品を紹介してみました。どうぞお楽しみに!!

次回から「Tokyo プレミア 2020」作品を紹介していきます!

《矢田部吉彦》

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