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私たちが直面するであろう未来を描いたSF『Arc アーク』、小説と映画の間にある創造的な違いを味わう

不老不死は、人類の永遠の夢。そう語られることは少なくない。現時点で死を避けることはできないが、老化を先送りするアンチエイジングのための方法は次々に編み出されている。その延長線上にあるストップエイジングも、もはや夢ではないかもしれない。

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私たちが直面するであろう未来を描いたSF『Arc アーク』、小説と映画の間にある創造的な違いを味わう
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不老不死は、人類の永遠の夢。そう語られることは少なくない。現時点で死を避けることはできないが、老化を先送りするアンチエイジングのための方法は次々に編み出されている。その延長線上にあるストップエイジングも、もはや夢ではないかもしれない。

そんな、“究極の夢”が現実となった世界を見せてくれるのが、映画『Arc アーク』だ。原作は、SFの名手ケン・リュウ原作の短編小説「円弧(アーク)」。3大SF文学賞とされるネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞を制した作家が描き出したのは、不老不死の身体を得た人類最初の女性の人生だ。


天才が紡ぎ出した大いなる問いを、見事映像化



ヒロインのリナは、17歳。生まれたばかりの息子を置いて、自由を求め旅立つところから物語は始まる。切ない別れが心に暗い影を落とし、寄る辺なき日々を送っていた19歳のある日、リナは一人の女性と出会う。彼女はエマ。彼女の仕事は、亡くなった人々を、生きたまま時を止めたかのように保存する「プラスティネーション」を施した遺体「ボディワークス」を造ること。誘われるがままその仕事に就いたリナは、やがて頭角を現わす。一方、エマの弟・天音は、さらに先を行くストップエイジングの技術を完成させた。30歳となったリナに結婚を申し込んだ天音は、共に不老不死へと踏み出そうと誘う。こうしてリナは、永遠の若さと命を手にした人類で初めての女性となるが…。

小説では一人称で語られるリナの心情にフォーカスしながら、「永遠の命」が可能になった世界で人類がどのように生と向き合うかが描かれている。対して、本作でメガフォンを執った石川慶監督は、リナを取り巻く社会の変化、混乱や分断、希望と諦念なども丁寧に織り込みながら、彼女の人生と決断を静かに見守る石川監督は、『愚行録』や『蜜蜂と遠雷』でも登場人物の心情を、価値観の違う人々の人生と交差させながら描くことで、社会的なテーマまでも浮き彫りにしてきた。そんな写実派ストーリーテラーだからこそ、個性派SFを、今からほんの少しだけ先の未来にありそうなリアルな社会像として描くことができたのだろう。

「永遠の命」という人類を幸せにしてくれるはずの「夢」を得て、人間はどう変わるのか、そして、どう変わらないのか。ケン・リュウという天才が紡ぎ出した大いなる問いにまつわる物語を、石川慶という才能はどう映像化したのか。小説と映画の間にある創造的な違いを味わうことは、SFファンにとって大きな喜びとなるだろう。


芳根京子、岡田将生、寺島しのぶら
演技派俳優陣が物語の世界を編み上げていく



本作のリアリティについて語るとき、物語だけでなく、そこに息を吹き込むキャストたちの並外れた説得力にもどうしても触れておかねばならない。俳優達はまだ見ぬ世界にある“私たちの未来”を視覚的に体現する人々でなくてはならず、それが成功するかどうかが、このドラマを単なる絵空事にしないための鍵となっているからだ。

ヒロイン・リナを演じた芳根京子、そのメンターであるエマに扮する寺島しのぶ、夫役の岡田将生、リナにとって大きな存在となる利仁を演じた小林薫ら演技派キャストは、それぞれの役が信じる死生観を色濃く滲ませながら、『Arc アーク』の世界を編み上げていく。観る者の多様な人生観に寄り添うかのように、全く違った価値観を覗かせる登場人物達。彼らを体現する俳優たちの力なしに、「永遠の命」を得た人類の喜びや戸惑いはここまで心に響いてこなかっただろう。

さらに、このSF作品はCGを駆使する種類のものではないだけに、マジカルな視覚的効果の大部分が、脱帽ものの説得力で17歳から132歳までを演じ分けた芳根京子の驚異的な芝居に任されたとも言える。17~19歳では、心に傷を追い孤独を抱えた若者らしい荒さを、30歳では自分を見つけた者ならではの自信とゆとりを、90歳では悟りを開いた者のような柔らかさを感じさせる演技で、不老不死の生を生きることの意味を私たちに問いかける。

こんなシーンがある。30歳の容貌を保ちながらも90年近く生きてきたリナが、風吹ジュン演じるストップエイジングをしていない女性から「私より先輩ね。足音でわかるの」と言われるのだ。実は観ているこちらも、リナがかなり歳を重ねていることは瞬時にわかる。30歳の姿形をしていても、はるかに多くの経験を積んだ人物が醸し出す佇まいを、視線や口調、所作や表情で表現しているのだ。

芳根をはじめ、すべてのキャストによる的確な演技は、原作の空気を決して壊さぬ適度な立体感をもって、私たちを未来へと誘う。そして問うのだ。あなたは果たして、この未来を受け入れるのか。誰の、どんな価値観に共感するのかと。その答えから見えてくるのは、大切にしている人、譲れないもの、そして人生哲学。きっと、今のあなた自身なのだろう。


不老不死で人間は幸福になれるのか?
社会に巻き起こるであろう変化を描いた作品



生まれた瞬間から、死へと向かう。これは命あるものの宿命だ。誰にでも訪れる死こそが、この世にただひとつある究極の「平等」だと言える。だが、その大前提が崩れた時、世界はどう揺れるのか。映画『Arc アーク』は、原作よりも一歩も二歩も踏み込んで、社会に巻き起こるであろう変化の数々を丁寧かつ具体的に描いている。様々な可能性を提示した上で、人々が夢見てきた不老不死は、本当に人間を幸福にするのかという問いを軸に、人生の意味と正面から向き合っていく。そして永遠の命とともに、手に入るものと失うものが提示される。

例えばヒロインのリナは、30歳でストップエイジングの技術を生み出した夫・天音と共に永遠に生きる決断をし施術を受けるが、50歳で夫と死別してしまう。天音には遺伝子異常があり、施術が彼の老化を促進してしまったのだ。永遠に生きるリナにとって、愛する者を失った喪失感と孤独も永遠だ。

また、不老不死の技術が浸透する前に年老いてしまった人、経済的理由で施術を受けられなかった人、施術を拒否した人などをケアする施設を運営している89歳のとき、自分よりも老いた姿の息子と再会する。「今からでも施術を」と説得するが、彼は頑として受け入れない。子が親よりも先に老いていくことの不条理は、リナの信念を大きく揺さぶったことだろう。

そういったやるせない経験を経て、リナは技術ではどうにもならない自然の摂理、説得しても動かせない人の心を尊重する気持ちを芽生えさせていく。すべてをコントロールできると思うこと、そうしようとすることの傲慢さをも悟ったのかも知れない。90歳の誕生日を迎えた彼女は、周囲からのお祝いの言葉を受けながらも、「年齢に意味はあるのか」と自問し始める。「写真を撮っても意味は無い。何もかわらないのに」とつぶやくこともある。

劇中には他にも多くの問いが登場するが、「不老不死は進化か、退化か」という疑問は、ひときわ興味深い。科学的には大きな進化でも、生命倫理や自然に反するようなことが、果たして幸福へと繋がるのか。進化は幸せのためのものでなければ意味が無いはずなのに。そこで観る者の心にも多くの不安がよぎる。現代に生きる我々はすでに進化とも退化とも知れない歩みを進めてしまっているのではないか。リナはあるとき、「死が生に意味を与える」というのは、昔の人がでっちあげた神話だと言ったが、本当にそうなのか。今は永遠の命に反対であっても、いざその選択肢が目の前に現れたとき、拒絶できるのか。はたまた、愛する人が永遠の命を拒絶したとき、その選択を尊重できるのか。

永遠の命を得て、何を手にし、何を失うのかは未知数だ。だが『Arcアーク』で描かれた未来には、私たちが直面するであろう分断、不条理な別れ、重すぎる決断、そして孤独も確かに蔓延っている。「今のうちに、よく考えておくべきだ。自分たちが進む未来に、何が待ち受けているのかを」と、本作は私たちに釘を刺しているのかもしれない。

科学の進歩に、人間の思考や感情、倫理観が追いついていないなら、問い続けることはとても重要だ。すでに「術」を手にしたときには、後に戻る決断はとても難しいものになる。私たちはそれを嫌というほど知っているのだから。

【『Arc アーク』配信・ブルーレイ&DVD情報】

詳しくは:https://wwws.warnerbros.co.jp/arc-movie/bd/

<期間限定先行レンタル&デジタルセル配信中!>

●先行レンタル配信 ※11月21日(日)23:59までの期間限定

価格:1,100円(税込み)

●デジタルセル配信

価格:HD 2,546円(税込み)/SD 2,037円(税込み)

<12月24日(金)ブルーレイ&DVD発売/DVDレンタル開始>

Blu-ray特装限定版:6,380円(税込み)

【特典】
本編ディスク
●映像特典:特報/予告編/WEB CM 集
特典ディスク(DVD)
●making of Arc portrait of Rina ●石川慶×芳根京子Talk Session
●2021/6/2 完成報告会 ●2021/6/25 初日舞台挨拶
他、仕様
特製スリーブケース

仕様:212分予定(本編ディスク:約132 分[本編127分+映像特典約5分]+特典ディスク:約80分)<本編ディスク>カラー(一部モノクロ)/DTS-HD Master Audio(5.1ch)・リニアPCM(ステレオ)/AVC/50GB/16:9/スコープサイズ/日本語字幕付(ON・OFF 可能)<特典ディスク>カラー/ドルビーデジタル(ステレオ)/片面1層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ


DVD:4,180円(税込み)
【特典】 ●映像特典:特報/予告編/WEB CM 集

仕様:132分予定(本編127分+映像特典約5 分)/カラー(一部モノクロ)/ドルビーデジタル(5.1ch・ステレオ)/片2層/16:9(スクイーズ)/スコープサイズ/日本語字幕付(ON・OFF 可能)

※特装限定版は予告なく生産を中止する場合がございます。※商品仕様、デザインは予告なく変更となる場合がございます。

発売/販売元:バンダイナムコアーツ

(c) 2021映画『Arc』製作委員会

<提供:バンダイナムコアーツ>

《牧口じゅん》

映画、だけではありません。 牧口じゅん

通信社勤務、映画祭事務局スタッフを経て、映画ライターに。映画専門サイト、女性誌男性誌などでコラムやインタビュー記事を執筆。旅、グルメなどカルチャー系取材多数。ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、動物をこよなく愛する。趣味はクラシック音楽鑑賞。

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